訃報
「それで、お母様からの報告はまだ届いていないの?」
物資と兵站の補充を申請する書類にサインをしながら、私は書類を持ってきてくれたミリダにそう問いかけました。
お母様が出発なさってからすでに二日が経っているのに、未だ戦況すらわからないというのは恐ろしいものです。何かあったのかしら———そう思うと、ペンを握る手から力が抜けてしまいそうになります。
私の問いかけに、ミリダは手にした書類を差し出しながら首を横に振りました。
「私の元へは報告が上がっておりません。一応、諜報部から数名を戦況の偵察へと向かわせたのでもう少しで情報が入ってくると思いますが……」
「そう……ケーネとリリンフェルトの居場所は分かったの?」
「はい、スティアー卿のお屋敷で匿われているとのことです。二人とも無事で、すでにリクルーゼ氏とも面会を果たした後のようですよ」
「よかった……あとはお母様が良い報告を持って帰ってくださるだけね」
今回の戦は、私のわがままが引き起こしたもの。であれば、彼らが少しでも動きやすいように私が頑張るのは当たり前のことです。
本当ならお母様のように、彼らを率いて戦場を駆けたいのですけど……残念ながら、私にはその力がありません。指示を飛ばす私が戦場にいれば、もっと兵たちは動きやすいはずなのに……!
でも今は、私にできる最善のことをしなければ。私を信じて戦ってくれる、王国の民のためにも。
「ミリダ、今動かせる人員ってどのぐらい?」
「そうですね、戦闘要員と非戦闘要員を合わせて一万に届くかどうかといったところでしょうか」
「なら、足りなくなってる物資を戦闘要員を中心に戦場へ届けさせて頂戴。向こうには恐らく負傷兵がいるだろうから、物資を届けた兵と交代して下がらせて」
「了解いたしました。すぐに編成してまいります」
私の指令にミリダが部屋を飛び出し、入れ替わるようにリダが入ってきました。その表情はどこか曇っていて、私の脳裏に嫌な予感がむくりと起き上がります。
「お嬢様、偵察の任から帰還いたしました」
「リダ! それで、戦況はどうなっているの?」
「遠目ですので確証は出来ませんが、指揮官と思しき人物をレーナ様が討ち取ってひとまずの終結を迎えたようです。向こうの責任者と調停を結んでいるところまでは確認いたしました」
「ならよかったじゃない! こちらの被害が大きかったとか?」
「いえ、負傷者の数も十数名といったところでしょう。ですが、その戦いそのものが罠だったと部下から報告が入りまして……現在、レーナ様は領館へ向かわれております」
一瞬何のことか分からず、頭の中が真っ白になりかけますがすぐにああ、と納得します。恐らく敵は、お母様との戦いを避けて領館へと向かったのでしょう。経緯は分かりませんが、こちらが一手損をした形になりますね。
ですが、それだけならさして問題がないはず。帝国兵が領館へと到着する前に、ケーネとリリンフェルトが脱出できればいい訳で———
「ここからは未確認情報なのですが、スティアー卿が倒れたとのことです。そしてその隙を衝いて何者かが侵入し、その最中にケーネさんが……」
「え……」
「ケーネさんが、卿をかばって戦死されたと」




