ある騎兵隊から見た王妃様
俺たちが馬に乗り、隊列を完成させるとその先頭にレーナ様が。王妃様御自ら最前線に立つと聞いた時には耳を疑ったが、こうして戦場を目の前にしてみれば納得だ。あのお方ほど、戦場の空気で艶やかさを増す女性はいないだろうから。
「……皆、揃ったようね。さあ、我らの命を燃やし尽くすわよ!」
そう叫ぶと、わき目も振らずに敵の本陣へ馬を駆けさせた。慌てて俺たち騎兵隊が、その背中を追いかけるようにして突撃を開始する。
ちょうど敵軍の側面に突き刺さるように突撃したレーナ様は、迷うことなく手にしていた長剣でもって身近な敵兵の首を撥ねる。不安定な馬上だというのに、その一閃は今まで見たどんな剣閃よりも美しかった。
薙いだ右手首を返しつつ、そのままもう一兵の首が宙に舞う。その勢いのまま、レーナ様はどんどん敵陣深くへと突撃を継続していた。
しかし———
「包囲して殲滅しろ! 相手は一人だ!」
「槍隊、構え! てぇぇ!」
混乱からいち早く復帰した相手の中隊長が指令を飛ばし、明らかに先行しすぎの彼女へ攻撃を集中させる。
突き出される数十本の槍先。馬上に真紅の血華が咲くのを誰もが幻視して———
「……邪魔」
まるで相手の動きを読んでいたかのように馬の後方へ降り、屈んだ姿勢のまま前方の敵へと疾駆する。槍を突き出したまま呆然とする敵を斬り倒し、硬直していた中隊長の首を撥ねて先へ進む。
「な、何なんだあの動きは⁉」
「怯むな! 騎士隊、女の侵攻を抑えろ!」
本隊の中央部から次々と指令が飛び、進軍するレーナ様を倒さんと兵が差し向けられる。しかし後方からの敵は俺たちが斬り倒すため相手には有効打が存在しない。軽やかに走りながら敵兵を屠る彼女に向かって果敢に突撃するも———
「あら、わざわざ死に急ぐこともないでしょうに」
右手の長剣に、あるいは左手の短剣にその身を献上して屍を晒す。
普通なら考えられない物量差。しかも単身で先行し、その物量差を個人の力量差で覆すという力業。
戦争のセオリーを全く無視したその動きに、しかし俺たちは敵兵を倒しつつも見入ってしまう。
例えるならばそう、御伽噺に出てくる戦の神、その現身のような彼女の姿に。
それが死を運ぶ敵軍の王妃と理解してなお、彼らは何かに呑まれたようにその場から動くことが出来ない。ただ血飛沫が舞い、肉片が彼女の周りに雨のごとく降る様を見ていることしかできないのだ。
そうして走り抜けた先。
周りに建てられた天幕とは明らかに質の違う指揮官用の高級天幕の前に置かれた、これまた豪華な造りの椅子の上。全身を斑の血模様に染めてなお、傷一つ負うことなく近づいてくるレーナ様に驚愕の表情を浮かべる中年の男が座っていた。
軍服に付いた徽章から見て、彼が指揮官だろう。その醜い表情を目の当たりにしても、レーナ様の表情は変わらない。
疾く、一閃。
最後まで驚愕の表情を張りつけながら地に転がったその頭が、この戦いの趨勢を雄弁に物語ったのだった。




