天才王女は参戦を許可します
私が王宮に戻り、着替えもそこそこに執務室へ入るとアルカルトと会話する妙齢の女性———ナンコーク王国の王妃たるお母様の姿が。一体、どうしたというのでしょう?
「お、お母様? 何か御用でも?」
「あら、エレナちゃん。お帰りなさい。もう、ひどいじゃない!」
帰って早々の叱責に、私は思考が一瞬固まります。何とか回らない頭を動かしながら、頭を下げてお母様に問いかけました。
「えっと、そのう……何か悪いことをしてしまいましたか?」
「悪いわ! エレナちゃんたちが頑張ろうとしているときに、私を呼ばないとはどういう事かしら? 戦となれば、私の出番だってあるでしょうに。
だから今、アルカルトの作戦に私を組み込むように説得していたの。お父様の許可は得ているというのに、彼ったらなかなか首を縦に振ってくれなくて……」
そうなの? とアルカルトへ目配せすると、ゆっくりと彼は首を縦に振りました。
つまりお母様は、自分を最前線の兵と共に戦場へ送り出せと仰ったわけですね……それはさすがのアルカルトも『はいそうですね』とは頷けないでしょう……
私は頭を振って表情を引き締めると、お母様に向き直りました。
「お母様は国の母たる存在です。そんな御方が、前線へと向かわれるなど民が動揺いたします」
「もっともらしいこと言って止めようとしているけれど、私にとっては今更なのよ。エレナちゃんが生まれる前は、ずっとお父様の指揮で戦を潜り抜けていたのよ? 今の新兵よりも、私の方がいい動きが出来るもの」
「ですが……」
「行かせて頂戴。というか行くわ」
唐突に鋭さを増した声音に、私は反論しようと開いた口を思わず閉じてお母様の顔を見つめます。
「娘が頑張るのを応援できないような、そんな母親にはしないで頂戴。だから行かせて、ね?」
「……それは、ナンコーク王国の王妃としての判断も含まれておいでですか?」
「ええ、当然よ。私はこの身に流れる血を、責任を一度たりとも忘れたことはないわ」
「……では、私には引き留める権限も道理もありませんね。アルカルト、お母様を入れて作戦を組んで頂戴」
「かしこまりました。しばしお待ちください」
「ありがとう、エレナちゃん!」
子供のように無邪気に喜ぶお母様に、ついつい頬が緩んでしまいそうになります。ですが一人の娘として、戦場へと突っ込む母に一言言いたいことがあるのです。
深呼吸し、なおもはしゃぐお母様の肩にそっと手を置いて『お願い』をします。
「お母様、どうかご無事で。決してご無理をなさらないでくださいね」
「……分かっているわ。それにねエレナちゃん、戦場では弱気な者から死んでいくのよ? もっと表情を柔らかくなさい」
「……それ、本当なのですか?」
「ええ、もちろん。笑っている者には、矢の方から避けて通るって話もあるぐらいなんだから」
こうして、王国の最大戦力であるお母様を含んだ作戦が立てられたのでした。




