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天才王女は帰路に付きます

「お嬢様、失礼を承知で申し上げますが、あれでよろしかったのですか?」



 ミリダの声に、私は馬車の外へと向いていた意識を車中へと引き戻しました。


 彼女が私に問うたのは、先ほどまでしていた卿との会談についてです。ほぼ丸一日ケーネ達と話し合った結果、私は卿の提案に『保留』を伝えて帰ってきたのでした。

 


「あれほど向こうは熱意を込めて提案したのですから、てっきりお嬢様も明確な返答をなさるものだと思っておりました。確かに難しい案件ではありましたが、あれだけ皆で話し合ったのですから———」


「違う、違うのよミリダ。私の返答は『保留』でよかったの。むしろそれ以上の返事は藪蛇よ」


「そうだな。俺もエレナの対応はあの場での最良だったと思うぞ?」



 横から飛んできた言葉に、私はケーネへと目を向けます。


 いまだに納得のいかない様子のミリダに対し、ケーネは私の催促もあって話し始めました。



「なんでスティアー卿はエレナにあの話を持ち掛けたと思う? 仮にウチがアイツの意見に賛成したとして、してやれることなんてほとんどないだろう?」


「そ、それは確かに……」


「だからアイツの言いたかったことは『俺らのすることに邪魔だてすんなよ?』ってことなんだ。それを他でもない、身分制バリバリの王国の姫、その当の本人の口から確約をもらうことが重要ってわけだ」



 さすがはケーネですね。卿の思惑を見事に見抜いていて、なおかつそれをかみ砕いて説明できるとは。


 会談の最中に何も言わなかったのが気にかかっていましたが、どうやら彼なりに議論の本質を見抜こうとしていたようです。バカンスの時に言っていた、心境の変化が原因なのでしょうかね?



「あれ以上エレナが卿の意見に賛成するようなら、それこそウチの国体が大きく揺らぐ。帝国のように国が傾きかかってるって言うならまだ話は分かるが、こっちは今の王政で上手く機能してるんだ。それを壊してまで、あの貴族に肩入れする義理はないだろう」


「……ケーネ、前から思っていたのだけれど貴方、スティアー卿に当たりが強くないかしら?」


「別に。そんなことねえよ」



 ケーネはそう言いながらふいっと視線を逸らします。口調や声音は淡々としていますが、彼が会話の最中に視線を逸らすのは何か隠しているサインなのです。


 それが何故なのかは分かりませんが、まあケーネなら変な気は起こさないでしょう。



「ミリダ、そういうことだから心配はいらないわ。それに卿にとって不満な返事なら、こうして私たちをすんなりと帰したり、護衛を付けてくれたりしないでしょう? おかげで来る時よりも気が楽だわ」


「確かにそうですね……出過ぎた発言、お許しください」


「いいのよ。さあ、帰ったらまた仕事よ? 気を引き締めていきましょう!」




 護衛の数が増えたおかげで馬車はすんなりと国境を越え、当初の予定よりもずっと早く私たちは王宮へ着くことが出来たのでした。



 

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