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帝国貴族は、新しい帝国について語ります

「では、お話ししましょう。ですがその前に、アリナよ、お茶のおかわりをお願いできるかね? 王女殿下たちの分も」


「かしこまりました」



 卿の言葉に、自分のカップへ目を落とせば中身はすでに空になっていました。銀のお盆を携えながら微笑むアリナさんにカップを渡し、しばし先ほどまでの話を脳内で整理します。


 なみなみと注がれたカップが全員の前に配られるのを確認し、卿が話し始めます。



「王女殿下もご存知の通り、帝国では皇帝が全ての意思決定を行っていた。執政、外交、人事、予算……国の重要なことが、全て一人の人間に任されていたのだ。

 だが、それでは大きな問題が生じる」


「皇帝位が空白の場合、意思決定する者がおらず国内が荒れる、ということですね?」



 私の言葉に、卿はその通り、と頷いて続けます。



「一人の人間に国が左右される、そんな状況は到底民のためとは言えないでしょう。ですから、議会を作ろうと思うのです」


「議会、ですか。寡聞にして存じ上げないのですが、具体的にはどのようなもので?」


「議会とは、市民の中から選挙———投票で選んだ者で構成される立法府のことですよ。今まで通り行政は専門の者が行いますが、そこが暴走しないように監視しつつ、法整備などを担当します」


「要は、権力を分散させるということですか……ちなみに、皇帝位はどうするおつもりで?」


「後々は廃止したいところですが、当分は混乱を避ける意味も兼ねて行政府の代表をしてもらおうと思っております」


「…………それは、それは途方もないことですね……」



 こうしてかみ砕いて説明を受けてもなお、理解できるかどうかという難しい問題なのです。果たしてそれを市井に浸透させるとなったら、どれほどの労力が必要になるか分かりません。


 それに———



「先ほど卿は、選挙を行うとおっしゃいました。その手配などは誰がするのですか? 人手がかかりそうですが……」


「なに、適任がいるでしょう。王女殿下もご存知の、リクルーゼという男です」


「彼は囚われの身だったのでは? もしや卿が救い出したので?」


「ええ。王女殿下が元財務大臣のリリンフェルトを連れて王国へご帰還なさったあと、混乱に乗じて匿っておきました。当時はひどく衰弱しておりましたが、今では元気に仕事を手伝ってくれていますよ」




 リクルーゼとは、かつて帝国で最も大きな人材派遣会社を率いていた人物です。数年前にザルバ元大臣の陰謀にはめられ、収監されているとばかり思っていました。


 私も気にはなっていたので、機会を見て救出したいとは考えていました。出来れば王国で働いて欲しいと思っていましたが、どうやら卿に先を越されてしまったようですね。今度リリンフェルトに会ったら、彼は無事だと伝えてあげましょう。きっと喜ぶはずです。



「少し、考えをまとめる時間を頂いても? 私の頭では、少々飲み込むのに時間がかかりそうなので……」


「どうぞどうぞ。ちょうどお昼に差し掛かっておりますし、昼食の用意をさせましょう」


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