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天才王女は切り出します

「———おうふ」



 閉じた瞼の裏に日が差す感覚。紛れもない朝の感覚に、スティアーは閉じていた瞼を開きました。



「おはようございます、スティアー様。相変わらず寝起きには変な声を上げるのですね」



 ベッドの側から飛んできた声はアリナのもの。毎朝彼女に起こしてもらうのが、スティアーの日課になっていました。



「おはよう、アリナ。……今日も朝から毒を吐くね?」


「親愛なる主への愛情表現ですのでお気になさらず。シーツを干しますので早く起きてください」


「はいはい。今日もキミが元気そうで何よりだよ」



 大陸全土にその名を轟かせるスティアーですが、彼にここまで砕けた態度を取るのはアリナだけです。彼女は幼い時からその才気を買われ、彼に仕える側付きなのです。ただの側付きが主に対して横柄な態度と言うのは、常識的に考えれば何かの冗談かと思われそうですが、しかしそれを咎める者は少なくともこの屋敷にはいません。


 何しろ、主たるスティアー本人がそれを許しているのですから。



「アリナ、今日は特に用事は入ってないよな?」



 早速シーツをはがしながら洗濯かごに突っ込むアリナへ、スティアーは確認のために問いかけます。エレナ王女が来てからというもの、表立って執務が出来なくなっていたため仕事が溜まっていました。

 しかしそれも昨日までの話。今日は特に火急の用事などは入っていなかったはずです。


 半ば返答は分かり切ったものだったのですが、アリナから帰ってきた返答は予想と違ったものでした。



「あー、ついさっきエレナ王女からお茶のお誘いが入りましたよ」


「ほう、彼女が、なるほどなるほど」



 昨晩にエレナの秘書であるケーネと話をしたばかりで、その主から茶会の誘い———まだ半分ほど眠っていた頭が急に覚醒していきます。



「どうします? 断っておきますか?」


「いや、喜んで受けよう。アリナ、すまないが洗濯は他の侍女に任せてキミは茶会の準備をしてくれたまえ」


「かしこまりました」



 音に聞くエレナ王女。さすがは対応が早いと内心で賞賛しつつ、スティアーは不敵な笑みを浮かべながら着替えを始めます。



(さて、吉と出るか凶と出るか……王女殿下の器に、賭けてみようかね)




***



「今日は急なお誘いに応じていただいて、ありがとうございます。それにこの紅茶など、準備にお手間を取らせてしまったのではないでしょうか?」



 くすみ一つない白磁のカップに口を付けて、注がれた紅茶の味わいを口内で楽しみます。王国産の茶葉とはまた違った、芳醇な味わいが特徴的です。



「なんの、王女殿下からお誘いがあればすぐにでも席を設けさせていただきますよ。その紅茶、お気に召したのでしたらお持ち帰りなさいますか?」


「よろしいのですか? ありがとうございます!」



 それは願ってもない収穫です。もし茶葉がウチでも栽培出来たら———そんなことを考えながら、私は卿に頭を下げて謝意を示します。



「それにしても良い日ですね。さすがは卿のご領地です」


「我が領は天候に恵まれることが数少ない長所ですからね。もっとも、長すぎる日照りは農耕にとって不利に働きますが」


「あら、私は天気の話をしているのではありませんわ。このお屋敷から見える風景———緑豊かな自然、そして行き交う人々を指して言ったのです」



 場の空気に生じる、僅かな緊張。


 私が本題へ踏み込もうとしていることに、この場にいる誰もが本能的に察したのでしょう。 



「……王女殿下にそう言って頂けるのは光栄ですが、貴女は何が言いたいので?」


「いえ、そんな大したことを言うつもりはありませんわ。ただ、この豊かさを秤にかけてもなお、卿の願いは果たされなければならないものなのかと思っただけです」



 私の言葉に、卿は問いかけるような視線を私へ向けます。続きを、と雄弁に語るその視線に顎を引いて応じつつ、言葉を選びながら口を開きました。



「———単刀直入に言いましょう。スティアー卿、貴方にどれほどのご覚悟があって『身分制』の廃止に奔走するのですか? それをお聞かせ願いたいのです」

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