天才王女は予想します
「———彼は本気ね」
あてがわれた部屋に戻った私は、ベッドに腰を掛けながらおもむろにそう言いました。
先の夕食会でスティアー卿から告げられた、『帝国を獲る』という野望。一度は誰もが考える絵空事を、しかし卿が口にしたそれは本気で考えられたものであると見抜いていました。
「そうだな、やる気だけは感じたさ。でも本当に可能だと思うか?」
自分の布団を広げながら応じるケーネ。辛口の彼が卿を本気と評しているのですから、やはりあの熱意は本物だったのです。
「どうかしらね……まあ、不可能じゃないとは感じたわ」
「その根拠は?」
「そもそもスティアー卿と同じかそれ以上に切れる人間を、私はこの国の中では知らないわ。今帝位を巡って争っているのも、全員が能力的に劣っているからでしょう?
そこへ卿が参入すれば、それほど時間をかけずに皇帝の座を獲得するでしょう」
スティアー卿も言っていましたが、前皇帝亡き帝国には為政者として優れた人間はほとんど存在していないのです。言うなれば凡夫がなけなしの才で争っているだけ。そこに卿が参戦すれば、おのずと勝利は確実になるでしょう。
ただし———
「確か帝国法に、『帝位に就くことが出来るのは皇族のみ』って書いてなかったか? 俺の記憶違いかもしれんが……」
「いえ、その通りよ。そこが一番の問題なのよ」
ケーネの言う通り、確かに帝国法には『皇族のみが皇帝となる権利をもつ』と書かれています。さっきここの侍女から帝国法全書を借りて確認しましたし、間違いないはずです。
「じゃあ何だ、やっぱりスティアー卿の言っていたことは机上の空論ってことか? 正当な継承権がないなら、いくら人気と力があっても皇帝にはなれないだろう」
「だから、私たちに協力を求めたんじゃないかと思うの。ナンコーク王国が帝国の同盟国であり、主要な貿易先と言うのは周知の事実でしょう? そんな国が、特定の人物を皇位に推している———これだけでも、他の候補者よりは数歩有利に物事を運べるわ」
確かに私たちには、帝国の次期皇帝を決める権限などありません。帝国の政治に干渉することもほぼ不可能ですし、いくら働きかけたところで封殺されるのがオチです。
ですが、候補者とて一人の人間です。自分以外の、しかもぽっと出のスティアー卿が隣国の王女から支援を受けているという事実。
今の状況と合わせて、いくら無視しようとしても心のどこかに残り続ける『棘』となりうる事実なのです。
それも含めて、卿は私たちに支援を求めたのでしょう。
「あとはどうやって無血で皇位を簒奪するかだけど……それに関しては情報不足ね。さっきミリダに情報収集を頼んだけれど、しばらくは時間がかかるでしょう」
「そうだな。まあ、ゆっくり様子を見るとするか」
そう言いながら窓の外を見つめるケーネ。つられて私も視線を向けると、そこには丸い月が燦然と輝いていました。
野望を卿から聞いた時に私の中に浮かんだ、ある予想。もしそれが当たっているのならば———
「———この国は、いえ、時代そのものが変わるかもしれないわ」




