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天才王女は思案します

「美味しいですね! これは、帝国のお料理ですか?」


「いえ、そこのアリナの故郷で有名な郷土料理だそうです。王女殿下の秘書殿もご存知では?」


「……ええ、知っています。まさかここでお目にかかるとは思いませんでしたが」



 スティアー卿の用事が終わったということで、私たちは揃って夕食を取っていました。


 私たちの前に出されたのは魚の煮つけ。味が染みていてとても美味しいのです。



「アリナさんは料理がお上手なのですね。独学で学ばれたのですか?」


「いいえ、母から教えられて。ここへ上がる頃には最低限の料理は出来るようになっていたと思います」


「やっぱり努力の賜物なのですか……私も精進しないといけませんね」



 テーブルの向こうでミリダとアリナが何やら話し込んでいます。もう仲良くなったとは、もしかしたら気が合うのかもしれませんね。


 それにしてもこのおさかな、本当においしいです。川の魚にも良いところはたくさんありますが、こうやって煮つけにするには脂ののった海の魚が向いているように感じます。



「こうして魚料理が食べられるのは羨ましいですね。ウチには海がありませんので、なかなか魚食の文化が根付きにくいのですよ」


「そう考えると、海に近い我が領地は幸運なのかもしれませんね。王女殿下がお望みでしたら、魚介類の輸出を強化いたしますが?」



 そう、ここスティアー領からは多くの魚介類が王国へ輸出されているのです。今でも十分な量の輸出を受けていますが、卿の申し出に少し頭の中でメリットを計算します。



「そうですね……干物は今のままで十分ですが、生鮮魚はもう少し市場へ回したいですね。細かい条件はこちらから後程提示させていただく形でも構いませんか?」


「ええ、もちろん。滞在日数はそれなりにあるのでしょう?」


「はい、一週間弱は滞在できるかと。卿の方もなにやら重要なお話があるようですし、頑張って予定を空けてきたのです」


「おや、これは一本取られましたね。多忙を極める王女殿下のお時間を取っているのですから、有意義話をしなければいけませんね」



 私が冗談交じりに言うと、スティアー卿も苦笑しながら応じます。しかし纏う雰囲気が変わったことから、この場にいる全員が本題に入るのだと息を呑みました。


 もちろん私も、グラスに口を付けながらそっと息を深く吸って気を引き締めます。



「さて、今回お呼びたてした理由なのですが———私は、帝国を獲るつもりでいます」



 深い沈黙が場に降りました。


 重い、重すぎる沈黙。しかしそれを破って私は何とか口を開きます。



「それは、卿が帝位に就くという認識で構わないでしょうか?」


「その通りです。このスティアーが、次期皇帝に即位いたします」


「……そして、我が国にはその後ろ盾になってほしいと、そういうことですか」


「さすがは王女殿下、聡明でいらっしゃる」



 おどけたように返すスティアー卿に、しかし私も視線をぶつけて応じます。


 私と卿の間に、火花が散るような感覚。両者の視線が相手の内部まで見透かすかの如く鋭く研ぎ澄まされていくのを感じます。


 時間にして数秒。しかし体感では何倍もの時が流れたと錯覚するような、そんな睨みあいの後———



「……詳しく、お話を聞かせてくださいな。スティアー卿」



 私はそう、沈黙を破ったのでした。

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