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お嬢様は移動します

「———はあ、この数週は本当に忙しかったわね……」



 私の漏らした独り言に、馬車の中の全員が深く頷きました。


 スティアー卿からのお誘いを受けると決定してから二週間、私たちはそれはとても忙しかったのです。護衛や随員の人選はもちろん、移動ルートの調査や要所の警戒、随員として付いてくるケーネ、ミリダが不在の間の引継ぎ、そして私の仕事の引継ぎもあっててんやわんやな日々を送っていました。

 当初の予定では一週間ほどで出発可能になるはずだったのですけど、思ったより時間がかかってしまいました。


 というのも———



「まあ、仕方ないだろうな。今回の外遊は情勢不安な地域への渡航だ。みんなピリピリしてるし、エレナ自身だっていつもより細心の注意を払ってるんだろう?」


「そうね、いつもよりは。でも馬車はいつもの王室専用車だし、傍から見れば確実に私たちが乗ってるってバレるけれどね」



 加えて馬車の前後には護衛の兵が連なっているので、襲撃者にとっては格好の的でしょう。だからこそ、外を歩く兵たちからは緊張感が伝わってきます。

 今は平原地帯を進んでいるから警戒も容易ですが、ここからの丘陵地帯や渓谷ではそうもいきません。


 ですのでケーネも、私の隣で馬車に揺られながら地図を一心に眺めているのです。



「アルカルトから聞いた情報によると、この先の森を根城にしている盗賊がるらしい。ミリダが先行して警戒に向かってるから、とりあえずはその結果待ちだな」


「お嬢様、ご報告です!」



 ケーネが言葉を切ると同時に、馬車へ駆け寄ってくる足音。そっと窓が開かれ、顔を出したのはミリダでした。



「この先にて、襲撃者と思しき一団を確認いたしました。目視できた人数は15人でしたが、おそらく伏兵なども考えてその倍は潜んでいるかと」


「やはりと言うべきか、まさかと言うべきか……ケーネ、どうするのが良いと思う?」


「その数なら迷わず迂回だな。ミリダ、敵の武装なんかは分かるか?」


「そうね……旧式ではあったけど、帝国軍で使われていた兵装と酷似していたわ」


「それなら軍を抜けて盗賊になった連中だろうな。元正規兵だからちゃんと訓練を受けてるし、舐めてかかると痛い目を見るぞ。

 ここから森の右側を迂回すれば、地形的に相手からは死角になって進めるだろう。どうだ、エレナ?」



 ケーネから手渡された地図を受け取り、彼の言ったルートを確認します。確かにこれなら、緩やかな丘陵が私たちを森の中の一団から隠してくれるでしょう。



「ミリダ、このルートを先頭のドラン将軍に伝えて頂戴。あと、もし先回りされて挟撃されたら嫌だから、先行して偵察隊を出して。

 あ、ミリダはちゃんと休むのよ?」


「了解いたしました。伝令が終われば休憩いたします」



 私の指令に、苦笑しながら応じるミリダ。彼女が一行の先頭へ駆けてくのを確認して、私は馬車の窓を閉めます。なるべく外からの狙撃が通るラインは塞いでおきたいですからね。



「さあ、もう少しの辛抱よ。もう少しで、卿の領内に入れるから」



 目的地のスティアー領は、すぐ目前に迫っていました。



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