新たな動乱の予感。そして天才王女は……
「———じゃあ次はスティアー卿からのお誘いについて。詳細は皆知っているわね?」
ここは王宮で一番大きい執務室。お父様と私が政務で使っている部屋です。
そこに並ぶのはケーネ、ミリダ、リリンフェルト、ドランさんの四人。執政、諜報、軍事のトップが集まった形です。
「諜報部からですが、依然として帝国内は次期皇帝の座を巡って激しい対立が起きているようです。それに伴い、国内の治安が急激に悪化しております。スティアー卿の領地だけが平時とほぼ変わらぬ状態であり、残りは帝都が辛うじて最低限の治安を維持しているといった状況です」
ミリダが口火を切り、それに応じてドランさんが重々しく口を開きます。
「軍部の方は、いつでも王女殿下を領地まで護衛できる準備があります。丸一日も頂ければ、護衛隊の編成は可能でございます」
「だが、それも万全ではないよな? 俺の方でも軽く調べてみたんだが、スティアー卿の領地までは難所がいくつかある。そこで纏まった数の敵に襲われれば、茶会はおろか無事にたどり着けるか分からん。
それに、今エレナが国内を離れるメリットが非常に少ないんだ。幸いにもウチは情勢が安定してるからいいようなものの、仕切っていたエレナが離れることで国内が揺れる可能性もある」
「ぬ、ぬう……王国軍の精強さをご存知のケーネ殿が仰ると、返す言葉もありませんな……」
「無論、ドランたちは強いさ。そんじょそこらの雑兵や盗賊ぐらいなら余裕で蹴散らせる。だがエレナが危険に晒されるリスクはなるべく減らしておきたいってのが本音なんだ」
飛び交う意見が徐々に静まり、やがて私の方へみんなの視線が集まります。ケーネ達は『お茶会は断った方がいい』という結論を出し、私に最終判断を委ねているのです。
私は一つ頷いて全員の意識を集めると、今しがた決めた方針を口にします。
「では、スティアー卿のお誘いを受けることにしましょう」
「理由を、お聞かせ願えますかな?」
リリンフェルトからの問いかけに、私は卿から送られてきた手紙を見せて答えます。
「まず、どうしてスティアー卿はこの時期に私へ『茶会に来ないか?』などと誘ったのかしらね? リリンフェルト、貴方なら私の立場でこの手紙をもらったとして、どう思う?」
「そうですな……率直に申し上げて、馬鹿げているとしか」
「そう、このタイミングで他国の無関係な要人を自領に招くメリットはないのよ。道中でケガでもされたらそれこそ疑いの目は招待主———今回はスティアー卿に向く。そのリスクを負ってまで、私を呼びつける理由は何か。
多分、卿は自領の独立を望んでいるのでしょう。その援助、もしくは後ろ盾として私に助力してほしいと言ってきているのではないかと思うの」
これはあくまで想像でしかありません。もしかしたら本当にお茶会に誘いたいだけかもしれませんし、他に何かの意図があるのかもしれません。
けれど、あのスティアー卿が考えなしに私を招くとも考えられないのも事実。仮にお茶会を断ったとして、その時に失う『何か』が怖いのです。
「そういうわけだから、ドランさんは護衛隊の準備をお願い。でもなるべく情報は伏せて、ね。
ケーネとリリンフェルトは私が不在の間も仕事が回るように調整をお願い。ミリダは道中の調査と、私の旅程がバレないような手を打って頂戴」
「「了解いたしました」」「わかった」




