お嬢様は招待状を受け取ります
「なるほど、私がいない間も問題なく商会は回ったのね。ありがとう」
「そうですね、目立った問題は何も。それもこれも、エレナ様の指令書が的確だったが故のことですが……」
バカンスから戻って次の日、私はシャルロット商会副会長のスミスさんから報告を受けていました。私が王都を離れる数日間、全権を委譲して業務を任せていたのです。
「遠方へ出張に出ていたのに、わざわざ呼び戻してごめんなさいね? 確か新商品に使う材料の買い付けに行ってたとか」
「そうですね、生産ラインを安定させるために専属栽培してもらう契約に行っておりました。ちょうど現地住民とも合意が取れていたので、後は後任に任せて大丈夫でしたよ」
「そう、ならよかった。これからも貴方の力をあてにさせてもらうけれど、よろしくね」
「もったいなきお言葉です。それでは会議がありますので、私はこれで」
一礼して去っていくスミスさん。彼、いつも慌ただしそうにしているけれど大丈夫かしら……そろそろ、休暇の打診をした方がいいのかもしれません。奥さんや娘さんと過ごす時間が短くなるのは良いことではありませんから。
そんなことを考えていると、ほぼ入れ替わるようにしてケーネが執務室へ。私あてに届いた手紙の束を抱えています。
「ほい、今日の分。有力貴族からのパーティー招待状もあれば、辺境部族からの嘆願書もあるな」
「はあ、人気者は辛いわね……とりあえず机のわきに積んでおいてくれる? 後でゆっくりと目を通すわ」
「確かにこの手紙の量だけ見れば、エレナは国内一の人気者だろうな。代わってあげたいぐらいだ」
「わあ凄い棒読みね。ケーネ、貴方には役者の才能はなさそうだから諦めなさい?」
軽口を叩きあいながら、私はケーネが持ってきた手紙を仕分けていきます。中には緊急性を要するものもあるので、こうして一読してから自分の手で仕分けしなくてはいけないのです。
「うーん、やっぱり農作物の収量が落ちているのね。用水整備をしてもなおこれでは、農民は生活が厳しいでしょう。
経理課と相談して、農家へ何らかの支援が出来ればいいのだけれど……ケーネ、今日の午後は空いてるわよね?」
「ばっちり。書類仕事しか予定がないから、前後に仕事を振ればなんとかなるだろう」
「なら、経理課の人間を何人かここへ寄こして頂戴。人選と場の設定は貴方に任せるわ」
「了解。すぐに手配しよう」
ケーネは胸ポケットから手帳を取り出し、私の指令をさらさらと書き留めていきます。ケーネって一見するとやんちゃそうに思えるのですが、こうした細かいところでマメさが出る男の子なのです。昔から先生の言ったことは克明にメモしていましたから、きっと彼なりの習慣みたいなものなのでしょうね。
ざっと仕分けが終わり、残り少ない手紙の束に視線を向けると気になる手紙が。束の中ほどから引き抜き、ざっと目を通します。
「エレナ? 何か気になる手紙でもあったのか?」
「ほら、差出人を見て頂戴。貴方もよく知っている人物よ」
同封されていた書類と一緒に、封筒ごとケーネに手渡します。裏返し、差出人の名を確認するや否やケーネは目を丸くして固まりました。
「———スティアー卿から、お茶会のお誘いよ。帝国が荒れている、この時期にね」




