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お嬢様はバカンスを楽しみます②

「皆さん、こちらです」



 ミリダの先導で、私たちは森の中を抜けます。


 彼女は慣れているのかすいすいと木々の間を抜けていきますが、後に続く私たちは足元が不安で仕方ありません。幸いにも足元が砂利なので歩きやすいですが、本当にこの先に魚料理を出すお店があるのでしょうか?


 そんな心配を抱えながら歩くこと数分。


 唐突に開けた木々の下、趣のある木造りの建物が現れました。看板には大きく『ミューレーの女主人』の文字が。



「お久しぶりです、ミリダです」


「はいいらっしゃい! 待ってたよ!」



 扉を開けながらミリダが声を掛けると、奥から恰幅のいい奥さんが出てきます。彼女が看板に書いてあったミューレーさんなのでしょう。


 ミューレーさんに案内されて廊下の一番奥の個室へ。やたらと広い大広間には一面に畳が敷き詰められていて、奥の座敷には掛け軸が下がっています。お店の外観から何となく察していましたが、どうやらここは東洋の文化をふんだんに取り入れた所のようです。


 長座卓に並べられた前菜を指さして、アンネが瞳を輝かせます。



「エレナちゃん! 私、このお料理初めて見るわ!」


「そうね、私も文献でしか見たことがないわ……確か、胡麻和えと言う食べ物のはずよ」


「よくご存じで、こちらは川魚の胡麻和えになります。そしてこちらが鮎の塩焼きでございます」



 私の言葉を継いで、奥さんが説明してくれました。


 そもそも海に面していない我がナンコーク王国には、ほとんど魚食の文化がありませんでした。しかし近年の国際化で様々な国の文化が輸入され、少しずつですが市民の間にも魚食の文化が広がりつつあります。


 ですが、王都で見るどんな魚料理ともここの料理は違うのです。



「盛り付けが……これは東洋のしきたりなのかしら?」


「ええ、その通りでございます。かの地域では食材を美味しく調理することはもちろん、その盛り付けにも細心の注意を払います。このように繊細かつ美麗な盛り付けが好まれるのです」


「なるほど……ありがとう、ミリダ。それにしても貴女、結構詳しいわね。以前にも来たことが?」


「はい。幼い時に両親とよく訪れていました。なのでここの奥さんとも顔見知りだったのです」



 少し顔を赤らめながら説明するミリダ。珍しい表情で、すごくかわいいですね。


 彼女の言葉を受けてか、奥さんが真剣な面持ちでまじまじと見つめてきます。



「あんなに小さくて頼りなかったミリダが、ここまでしっかりした女性に成長できたのはエレナ様のおかげだと聞いております。本当に、ありがとうございます」


「あ、いえ……ミリダには私もすごく助けられていますから……それにミリダがしっかりしているのは、彼女の頑張りがあってこそのことだと思いますよ」


「どうぞ、ミリダを末永くよろしくお願いいたします」


「あ、はい。こちらこそ」



 なぜか頼み込まれる私。言われなくてもミリダを私から手放す気なんて毛頭ありませんが……


 まあ、ミリダを小さい時から見ている奥さんとしては心配なのでしょう。



「エレナちゃん、そろそろお料理を頂かない? 私、もうお腹が減って死にそうよ」


「そ、そうね。すみませんが奥さん、全員分の飲み物をお願いできますか?」


「かしこまりました。お飲み物の後にお造りをお持ちしますので、少々お待ちください」

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