お嬢様はバカンスを楽しみます①
馬車の外に出ると、からりと乾いた熱風に頬を撫でられます。
燦燦と降りそそぐ陽光に、私は思わず目を細めました。
「さすがに暑いわね……」
私に続いて馬車から降りてきたアンネが、その場でクルリと一回転しながら両手を真上に上げました。
「エレナちゃん、夏よ! 夏なのよ!」
真っ白な袖なしのワンピースを風になぶらせながらはしゃぐアンネ。彼女の赤髪と相まって、よく夏が似合っています。私も一応、空色のブラウスにロングスカートという夏らしい装いに身を包みましたが、それでもアンネには敵いません。以前、ケーネが『エレナは冬、アンネは夏のイメージだな』と言っていたのですが、今ならなるほどと腑に落ちる発言だったとわかります。
「アンネは元気ね……それなりに長い時間馬車に揺られていたはずだけれど、疲れたりしないの?」
「エレナちゃん、それは違うわ。こんな天気のいい日に旅行に来ているのよ? ねぇ、そう思うでしょミリダ⁉」
「そうですね。私もどこか心が浮き立ってしまいますから。この場合は、お嬢様が繊細過ぎるといったところでしょうか」
「そうだぞエレナ。まあエレナは昔から馬車や乗馬が苦手だったからな……」
そう言いながら馬車から降りてくるミリダとケーネ。
ケーネはTシャツの上にYシャツを羽織り、ミリダは水色のワンピースをはためかせています。
ミリダはいつものメイド服で行くと言い張ったのですが、私とアンネに説得されて仕方なくと言った様子でワンピースに着替えたのでした。ミリダはスタイルがいいのですから、もっといろいろな服を着てみるべきだと思うのです。しかも今回は私的な旅行。メイド服は禁止と言いつけてありました。
ツンツン、とスカートの裾が引っ張られたので視線を向けると、アンネが私の手を引っ張ります。
「エレナちゃん、早くいこうよ!」
「そうね。まずは荷物を置いてしまいましょうか」
いつまでも立ち話をしているわけにもいきませんね。
私たちは手分けして馬車から荷物を下ろし、運転手さんに手を振って見送ります。そのまま向かうのは、今回の宿泊場所である湖畔のコテージです。
「でもまさか、ミリダのご両親がこんないい場所を貸してくださるとは思わなかったわ。ここも観光地として開放しているのでしょう?」
「いえ、ここは両親の別荘なのです。一般向けの観光地は、ここから西に少し進んだところにございます」
「まあそれでも、ご厚意に甘えていることには違いないわね。後でちゃんと挨拶に行かなくちゃ」
コテージのすぐ側には大きな湖があり、桟橋が伸びています。広さも四人で泊まる分には十分すぎるほどで、部屋の数もかなりあるみたいですね。
窓の外に見える湖は陽光を反射してキラキラと輝き、日暮れには夕焼けがさぞ映えるのではないでしょうか。本当に、いいところを貸してもらえたものです。
「うし、これで荷物は全部だな。しっかし、王都とはえらい違いだな……同じ暑さのはずなのに、ここは嫌味みたいなのがないよな」
「ケーネ、それは多分空気がおいしいからよ。王都は人が集まる分、色んな匂いが混ざり合っているもの」
「あと、水場が近いのも関係しているかもね。せせらぎに豊富な水———聴覚と視覚で『心地いい』と感じているのだから、その影響は大きいと思うわよ」
ミリダの説明を私が補足すると、ケーネはなるほど、と頷きます。
「では、まずはご飯にしましょう。ミリダ、申し訳ないのだけど迎えの馬車と道案内を頼める?」
「かしこまりました。近くに魚介がおいしいお店があるので、そこへ行きましょう」




