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お嬢様は休暇の予定を立てます

「なあエレナ、旅行に行かないか?」



 ロレンス王国から帰国して数日後の、とある昼下がり。いつものように書類仕事に追われていた私は、ケーネの言葉に顔を上げました。



「いきなりどうしたの? あ、そろそろ休暇が欲しいとかそういう話?」


「ああ、言葉足らずだったか。俺だけじゃなくて、エレナやミリダ、アンネなんかも連れてバカンスを楽しまないかって話だよ。ほら、窓の外を見てみろよ」



 ケーネの言葉に釣られて窓の外に視線を向けると、まぶしい陽光が容赦なく私の眼を灼きます。透明感のある青空の下、王宮のお膝元である王都では人々が軽装で歩き回っていました。


 我がナンコーク王国では一年の間に夏が二回訪れ、しかもその間は比較的晴天に恵まれて外出するのにもってこいなのです。冬の厳しい寒さも相まって、多くの国民が夏の間に旅行をすることはいたって普通のことです。


 ですが———



「ケーネ、気持ちは分からなくもないけれど、私たちの仕事にまとまった休みなんてあると思うの? しかもロレンス王国で新たな女王が即位してから間もないこのタイミングで、国政を放り出して遊ぶなんてことが出来るはずないでしょう」



 自分で蒔いた種とはいえ、だからこそきちんと見届けるのが責任というものでしょう。ロレンス王国とは外交上、今でも友好国として貿易を続けています。そのウチがかの国の女王を見捨てては、こちらのメンツにかかわる問題なのです。


 そんなことはケーネも分かっているでしょうに、なぜ突拍子もなく『旅行に行きたい』などと言い出したのでしょうか……


 私の疑問を先読みしたのか、ケーネはにやりと笑いながら答えます。



「つい先日、エレナの両親が療養地から帰られたよな? その時にレーナ様に『エレナたちと旅行に行きたいんですけど』ってお願いしたら、あっさり了承してもらえたんだ」


「お母様が⁉ でもどうして……」


「レーナ様は『最近エレナちゃんは頑張りすぎているから、この辺で少し息抜きするのもいいでしょう。執政はお父様と私でやっておくから、ゆっくりと羽を伸ばしてきなさい』と仰ってたぞ。まあ、頑張ったご褒美ってところじゃないか?」


「そう……根回しは完璧、と言う訳ね。アンネの方は?」



 本当に、ケーネはいつの間にこんなにも根回し上手な人間になったのでしょう。誰に似たのやら……


 私の感心をよそに、ケーネは手帳を開きます。



「そっちも問題ない。一週間ぐらいなら商会を空けても問題ないとさ」


「さすがはアンネ、後進の育成にも余念がないのね。私も見習わなくっちゃ」


「あとは場所だな。4、5人でゆっくり出来て景色の綺麗な場所。それでいてそんなに遠くないところがいいな」


「それなら、ミリダのご両親の領地にお邪魔するのはどうかしら? 確か温泉と綺麗な湖で有名な観光地だったはずよ」



 なるほど、と呟きながら地図を広げるケーネ。しばし考えた後、ほうと声を上げました。



「面白そうだな。その案で予定を組んでみる」


「お願いね。予定が決まり次第、アンネとミリダにはすぐに予定を空けるように伝えて頂戴。

 さあ、そうと分かれば頑張って仕事を片づけてしまいましょう! 楽しいことは、やるべきことを終わらせてから、がお母様の教えだもの」


「だな。うし、もうひと頑張りするかー」




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