事後談、そして新たな女王の誕生
「しかし、よかったのですか? そのう、お兄様が王位に就かれた方が……」
窓の外の喧騒に耳を傾けていたプレストは、妹の声に室内へ意識を戻します。
窓際に座るプレストの視線の先には、申し訳なさげに佇むミーナが立っていました。
「お兄様なら、エレナ王女の提案を断ることだって出来たのではないですか?」
「ああ、確かにできただろう。あの雰囲気に飲まれたところはあるが、突っぱねることもできたと思うよ」
小さく笑った後、でも、続けてプレストは口を開きます。
「あの時は、俺よりもミーナが王位に就いた方が良いと思ったのだ。いや、今もそう思っているよ」
「そ、そんな……それは過大評価というものです」
「いや、そんなことはない。確かに俺は、人をこき使うことには向いているのかもしれん。恐らく、今代の為政者の中でもそうそう引けを取らんだろう。
だが、人の心を掴むことには向いていないのだ。あの王女と、その周りにいた部下たちの表情を見て確信したよ。それと似たものを、ミーナから感じたと言ったら信じるか?」
「……にわかには信じられない話です。私には、誰かの心を動かす力なんて……」
首を横に振る妹に、しかし言い聞かせるようにプレストは頭を優しくなでながら諭します。
「いいか、王の器とは力の強さだけで満ちるものではないのだ。いくら覇を唱えようとも、内乱一つで国は容易く傾く。今回のようにな。だからこそ、国を治める王には人心の掌握が不可欠なのだ。俺にはそれが絶望的に欠如していると、今回のことでよくわかったよ。
かの大陸、その中央ではエレナ王女と秘書のケーネが、そして帝国では『貴族』のスティア―卿が王の器を示し始めている。他にも、探せば王たるにふさわしい人物は出てくるだろう」
ゆっくりと、感慨深そうに語るプレスト。しかしその背中は、どこか寂しげに見えました。
「そんな連中と肩を並べられるのはミーナ、お前なのだ。少なくない時間を共に過ごし、小さい時からずっとお前を見てきた俺だから分かる。ミーナには、王の器が備わってるよ」
「お、お兄様……」
「自分に自信を持て、とは言わんが、まずはやりたいようにやってみると良い。困ったことがあれば、俺や周りの家臣たちが軌道の修正ぐらいはしてやれるだろう」
「ほんとうに……? お兄様、助けてくださいますか?」
「ああ。俺がミーナに嘘をついたことがあったかい?」
兄の返答に一瞬驚いた表情を見せたミーナは、次の瞬間には満面の笑みでこう告げたのでした。
「———では、私も頑張ることにいたします。お兄様から見て恥じないような、そんな王様になって見せますから!」
「そうか。厳しい道だと思うが、それを選び取ったミーナに俺は尊敬の念を抱くよ」
こうして誕生した若き女王に、最初は誰もが懐疑と軽蔑の目を向けました。ああ、ついに大陸の覇者たるロレンス王国も血迷ったのか、と。
しかし、彼らは後に彼女を侮ったツケをたっぷりと払う羽目になるのです。
後世で『最優の女王』と呼ばれ、学者たちが口を揃えて最も有名な王の一人に名を挙げるほどの存在となるミーナ・ロレンス女王。その初舞台は、そう遠くない未来に迫っていました。




