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天才王子は妹との再会に喜びます

「……妹一人の身柄すら満足に取り返せんとは、私もまだまだだな」



 山上に仮設した兵舎の一室で作戦の詳細を詰めながら、プレストはため息交じりにそう呟きました。


 王都を奪還するために、街を一望できるこの場所に陣を築いてから数日が経ち。


 都市の主要機能はすでに王子の手勢が占領し、都市全体の半分以上を反乱軍から奪還してなお、肝心の王宮はいまだに攻略できずにいました。



「プレスト様、一気呵成に王宮を攻め落とすのではダメなのですか?」


「フィアナ、ダメに決まっているだろう」



 王宮内部の地図から目を上げずに、プレストは応じます。



「かの城を攻め落とすだけなら容易だ。ものの半日もあれば攻略できるだろう。だが、それでは囚われているミーナへ危害が及ぶ可能性が高いだろう? だからこうして、街から離れた場所に陣を構築したのだ」



 プレストの言葉は誇張ではなく、事実なのです。彼の指揮力があれば、たとえ寡兵だったとしても王宮の攻略にはさほどの時間もかからなかったでしょう。本来、城攻めとは籠城側よりも攻城側の方が優位な戦いなのです。攻城側は攻撃のタイミングを自在に決めることが出来ますし、兵站や資材の補給だって自由です。万一攻略に失敗したとしても、攻城兵器で籠城先ごと潰してしまえば問題ないのですからこれほど優位な戦いはありません。

 しかし、それでは宮中に囚われたままの妹へ火の粉が降りかかる可能性が跳ね上がります。追い詰められた反乱軍がミーナの喉元にナイフを突き立てるのが早いか、自分たちが放つ砲弾の餌食になるのが早いか、はたまた崩壊する城と共に圧死するのが早いか。どちらにせよ、無事で救出できる見込みは限りなく低くなるでしょう。


 だからこそプレストは反乱軍を刺激しすぎないよう、都市への足掛かり確保しつつも離れた場所に拠点を形成し、王宮をじわりじわりと包囲するように攻略する方法しか選べなかったのです。



「そう、ですか……大事な妹さんですものね。心中お察しします」



 しかし一方でフィアナは、戦を早期終結させない王子の作戦に苛立ちを感じていました。生まれた時から貴族令嬢として何ひとつ不自由のない生活を送ってきた彼女にとって、仮設の兵舎での生活は耐えられないものだったのです。王位継承権が王子よりも低い少女の命など捨て置き、さっさと戦を終結させて柔らかなベッドで寝たいというのが彼女の本音でした。


 当然、プレストもフィアナの本音には開戦当時から気が付いています。日を重ねるにつれ、いつにも増して両者の間には溝ができ、緊張の糸が張り詰めていました。


 しかしその糸は、別方向からの介入であっさり切り落とされたのです。



「報告、報告ーー!」



 大声と共に伝令役の兵が兵舎へ入り、二人の前で片膝をつきながら報告を始めます。



「報告であります! 先ほど、東の塔で幽閉されていたミーナ王女殿下が救出されました! ご無事であります!」



 伝令の内容が咄嗟に理解できないプレストとフィアナは、顔を見合わせながら硬直します。



「どういうことだ⁉ 誰が王宮へ侵入し、彼女を救出した⁉」


「ナンコーク王国の部隊です。彼らが王宮の内部に潜入し、王女殿下を無傷で奪還したと……」


 

 いち早く硬直から復帰したプレストが伝令に詰め寄りますが、さらなる報告についに混乱に陥ります。



(どういうことだ……あの王女は私の増援要請を断ったのではなかったのか……? しかも内部構造を知らないナンコーク王国の兵が、反乱軍に勘付かれることなくミーナを救出しただと?)



「お兄様! ミーナです!」



 混乱を極めるプレストの意識は、しかして唐突に響いた少女の声によって現実に復帰します。


 思考の海を揺蕩っていた意識が焦点を結び、その先に捉えたのは最愛の妹の姿でした。



「ミーナ、無事だったか! よかった……!」


「はい、私は無事です!」



 ひしと抱き合う二人を遠巻きに眺める兵の一団。


 彼らの軍服は伝令の報告通り、ナンコーク王国のものでした。


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