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その頃、王宮では

 エレナが療養地で両親に報告をしているのとほぼ同時刻。


 遠く離れた王宮———その執務室では、ケーネとプレストが会談を行っていました。


 歴代の王がその辣腕を振るい、つい最近まではエレナが政務を行っていたその空間には張り詰めた空気が満ちていました。



「ケーネ殿には多忙の中、こうして時間を作ってくれてありがたく思っている」



 来客用のソファーに腰を掛け、軽く足を組みながら美貌の青年———ロレンス王子はそう切り出しました。その後ろには侍女に扮した彼の第一婚約者のフィアナが眼前のケーネを軽く睨みながら立っています。


 ずっと主の体調不良を口実に会談を後回しにされていたロレンス王子としては、内心穏やかではいられません。ですがそんな真意を笑顔の裏に隠しつつ、人好きのする笑顔を対峙するケーネへと向けます。



「いえいえ、こちらこそ王子との会談をここまで引き延ばしたことを謝罪しなくては。何分、主と違って非才の身、その仕事を任されたとなるとなかなか手が回らなかったのですよ」


「ケーネ殿ともあろう御方が何を言われるか。かのエレナ王女殿下に幼少のころから仕え、その才を見出されて王女殿下の秘書にまでなられた人物が、よもや凡夫なはずがないでしょう」


「これはこれは、天才と名高きプレスト王子にそう言っていただけるとは嬉しいですね」



 してやられた、と言った様子で額に手を当てながら楽し気に笑い声をあげるケーネ。しかし手で隠したその表情は微塵も喜色など浮かべておらず、むしろじっとプレスト王子の出方をうかがっています。

 もちろんプレストもケーネの言葉を額面通り受け取るはずもなく、だからこそ変わらぬ張り詰めた雰囲気で会談はつつがなく進んでいきます。



「ところでかねてより申し込んでおりました案件についてなのですが、ナンコーク王国としてどのように決定したか伺っても?」



 ひとしきり世間話が済んだところでプレストが本題へ切り込み、場の雰囲気が一気に変わります。


 ケーネもその変化を敏感に感じ取り、表情には出さずとも気を引き締めながら言葉を選んで口を開きました。



「こちらとしても兵をお貸ししたいのですが、やはり先の戦によって兵たちも疲弊しておりまして。しかも主は病に倒れ、市井にも不安が広がっております。その中での出兵は、さすがに困難と結論が出ました。残念ですが……」


「そうですか……残念ですが仕方ありませんね。ちなみに王女殿下のご容体は?」



 申し訳なさげに首を振るケーネに、プレストもまたそれに応じる形で話を変えます。もとよりナンコーク王国が王子に兵を貸すメリットは存在せず、断られる公算の高い要望だったので動揺はありません。


 だからこそ、まず間違いなく嘘と分かっている『エレナが病に倒れたこと』へと話題を変えたのです。


 しかし———



「それが、疲れが出たようでなかなか快復しないのです。近頃は国内外で様々なことが起こり、主も奔走しておりましたから。この機会にゆっくりと療養していただこうと」


「そうですか……王女殿下にはお大事に、とお伝えください。これが我が国内であれば医者を連れてくるのですが、ここは貴国の医師に任せた方がよさそうだ」


「御高配、痛み入ります。そのお言葉。主もきっと喜ぶでしょう」



 よどみなくケーネが答えたことで、プレストの攻めがあっさり躱された形になります。攻め手を失った王子が次の言葉を探す中、わずかの沈黙を縫って侍女のミリダが口を開きました。



「ケーネ補佐官、次の会談が差し掛かっております。地方貴族から陳情のあった案件について———」


「おお、そうだったな。プレスト王子、済まないが今日の会談はこのあたりでお開きにしていただけますか? 聞いての通り、この後にも会談が控えておりまして」



 王子の返答を待たずして席を立ちあがるケーネに、しかしプレストは引き留める手段を持ちません。恐らく会談はブラフだとわかっていても、この場でケーネの予定に文句を言えるだけの証拠は持ち合わせていないのですから。


 プレストはただ、ケーネが差し出した手を握ることしかできないのでした。

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