お嬢様は両親と再会します
ケーネとミリダに今後の方針を伝えて指令書を二人に渡した後、私はすぐさま療養地へ向かいました。
当初の予定ではもう少し仕事を片づけてから動くつもりだったのだけれど、二人が『残りは自分たちで何とかできます!』と意気込むので、予定を繰り上げたのです。
まあ、ケーネもミリダも内政には明るいですし、そのほかにも王宮勤めの文官たちは精鋭ぞろいです。王子の相手をしながら仕事をするぐらいの芸当は簡単にやってのけるでしょう。
———一部の、特に経理課の文官たちは涙目で送り出してくれましたけど。事情を問いただせば、私が普段あまりに指令を出すものだから大変なのだとか。今後は彼らの仕事量も考えないとですね。
そんなわけで王宮のみんなから快く送り出された私は、王子の手勢を振り切るために最速で療養地に入ったのでした。
「お父様、お母様。お久しぶりでございます」
お父様とお母様の寝室に案内された私に、二人は驚いた表情を浮かべます。
「エレナ! 仕事の方は良いのか?」
「ええ、ケーネ達に任せて来ました。お加減の方は……?」
私の問いかけに起き上がろうとするお父様を、お母様が優しくベッドへ寝かしつけます。
「レーナ……いや、体調は問題ないよ。本来なら王宮でバリバリ仕事ができるぐらい元気だ」
「何を言いますか! しばらくは絶対安静です!」
お父様が軽い口調で応じますが、それをお母様がピシャリと低い声で遮ります。
「つい最近まで、胃腸を壊して絶食をしていたばかりではないですか! 従医たちも、ここで無理をすれば危険な状態になるだろうと言っておりましたし……お願いですから、もう少し自分の身体を労わってください!」
「し、しかしだな……エレナはどこの馬の骨とも分からん男から縁談を申し込まれて苦労していると聞くし、共和国との戦で我が国が被った被害はまだ癒えておらんのだ。ここは儂が気概を持ってだな……」
さすがはお父様、プレスト王子のことまでご存じなのですか。ミリダが何も言わなかったところを考慮すると、おそらくお父様直属の部下が私のこと見守ってくれていたのでしょうね。
……どこの馬の骨か分からない、というところは間違っていますけど。王子は紛れもなく、ロレンス王国の王位継承権第一位の人間なのですから。
「病気の時に気を強く持つのは良いことですが、お父様がここで無理をなさっては私も心配して政務に手が付きませんわ。ゆっくりと療養なさってください」
「お、おう。エレナがそう言うのなら仕方あるまいな……しかし大丈夫か? エレナが無理をするようでは本末転倒なのだぞ?」
「それこそ余計な心配というものよ? 大丈夫、私たちのエレナちゃんなら上手くやってくれるわ。
でも、疲れたらすぐに休むこと。貴方はお父様に似てすぐに無理をする子だから、そこが心配なの」
「お母様、ありがとうございます。でも、私が無理をするとすぐに止めてくれる秘書と侍女が付いているので大丈夫ですよ」
ケーネはああ見えて根が真面目な青年なので、仕事を抱え込みがちですがミリダは違います。私たちが無茶をしようとしたら、必ず止めてくれるありがたい存在なのです。昔からそうやって三人で、色々な窮地を乗り越えてきました。
お母様もそれを知っておられるので、私の返答にただ一つ頷いて答えます。
「まあ、何はともあれ少し休みなさいな。ゆっくりしたら、私たちに近況を教えて頂戴?」
「分かりました、お母様。実はここまでの道中、かなり急いだので疲れたのです。一休みしたら報告に参りますね」




