天才王子は狼狽します
エレナが療養地に向かってから数日後、プレスト王子の元へ本国の偵察を終えた密偵たちが戻っていました。
丸一日かけて主の元へ帰った彼らは休憩もそこそこに、片膝をついて報告を始めます。
「王宮は反乱軍に占領され、抵抗する王族や軍の高官は監禁されている模様です。また、こちらは未確認情報ですが王位継承権第二位のミーナ王女殿下が、東の塔に幽閉されていると」
「王宮が占領されたことにより、王都の治安は日を追うごとに悪化しております。行政は停滞し、一般の市民からは反乱軍を鎮圧してほしいと陳情が出ておりました」
「王都に住んでいた貴族のうち、実に三割が国外への逃亡を開始しております。また、大部分の商人がすでに国外へと退避を済ませたと……」
ミーナ王女———プレスト王子の実妹に当たる少女の名前が出た瞬間、プレストの眉が微かに動きます。
「……ミーナは無事なのか?」
「は、はい。さすがに反乱軍も王女殿下に危害は加えていないようで、今は女王陛下と共に軟禁状態だと」
王子の問いかけに、部下たちは身を竦ませて応じます。いつもは冷静沈着な彼が放つ怒りの波動に、彼らはただ震えることしかできません。
本来なら妹の安否よりも、他の報告の詳細を聞くべき状況。配下から伝えられる情報はどれも、傾国への
重要なサインだからです。ここで選択を誤れば間違いなく、大陸の覇者たるロレンス王国は滅ぶでしょう。
しかし、今の彼にはそれらに構う精神的な余裕がありませんでした。
「そうか、今は無事なのだな……よし、すぐに正規軍を再編して王宮の奪還作戦を練り直せ。第一目標はミーナの保護、第二目標は首謀者の捕獲とする。捕獲が不可能なようなら、そっ首を叩き落しても構わん」
「りょ、了解いたしました。すぐに伝達してまいります」
「私もすぐに本国へ戻り、軍の指揮を執る! エレナ王女殿下に面会の申請を!」
テキパキと指示を出しながら椅子に座り、脳内に王宮の地図を広げながら作戦を練ります。そもそも反乱分子がいくら王宮を占領したとしても、正当な王位継承権を持つプレストが王国へ戻れば人心は容易く王子の元へ戻るでしょう。
普段なら冷静に判断し、最適な指示を出す王子。しかし愛する妹が危機に瀕しているという状況は、目に見えないながらも容赦なく彼を追い詰めていました。
そんな彼の前に、慌ただしく文官の一人が転がり込んできました。
「殿下! 大変でございます!」
「何事だ! いついかなる時にも品位を失うなと厳命していたはずだが……」
「も、申し訳ありません。しかし、火急の用事がございまして———」
文官が『火急の用事』を口にした瞬間、プレストは部屋を飛び出しました。
廊下を曲がり、階段を駆け上がった角の大きな部屋———エレナの執務室が視界の端に映ると同時に、彼は足をとめます。
「こ、これはミリダ殿。王女殿下にお会いしたいのだが」
「王子殿下、申し訳ありません。我が主、エレナ王女殿下は病により倒れて現在面会謝絶なのです。王宮よりも医療設備が整った療養地にて、現在治療を受けております」
「し、しかし……! ……いえ、お大事にとお伝えください」
「ご配慮、ありがとうございます。そのお言葉、主に伝えておきますね。
ああ、現在は主に代わってケーネが執政官として働いております。面談の相談でしたか、彼に申し込んでくださると幸いですわ」
そう告げると、優雅に一礼して執務室へ消える侍女のミリダ。
扉が重く閉まる音に、プレストは事態が自分の描いた流れから大きく外れ、王女へと傾きつつあることにようやく気付いたのでした。
一昨日によもぎ団子さんから、本日サーモンさんから感想を頂きました。Thank you for impression!
御二方とも絶賛してくださり、本当にありがとうございます。いつもはユニーク数や閲覧数から皆さんが『どう感じたのか』を読み取るしかないのですが、こうして反応を頂ければより正確に感想が分かりますからよりモチベーションに繋がりますね。優しい読者さんのおかげで、今日も筆者は更新できるのです。
そんなわけで、これからも頑張ってきます。どうぞ応援、よろしくお願いいたします!




