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天才王女は謀ります

「———というのが、王子側の動きです」



 諜報部からの報告を読み上げたミリダは、私が座るソファーの隣に腰を掛けました。



「王子は今回の反乱に対し、ひとまずは静観する様子を見せています。しかし同時に、密偵を何人か本国へ放ったようですが……」


「国境の警備兵には『何もするな』と伝えて頂戴。本国の様子が伝われば伝わるほど、こちらの望んだ方向に動いてくれるはずだから」


「了解いたしました。例の書記官から使節が派遣されてきておりますが」


「うーん……今は断るしかないわね。王宮にプレスト王子が滞在してる中で、彼に隠しながら使節と会談するのはほぼ不可能でしょう。王子たちが帰ったら、改めて会談の場を設けることにしましょう」



 そもそもこのタイミングでエリク書記官と話すことなんてほとんどないはずでしょうに、私の元へ使節を送ってくることに微かな眩暈を覚えます。もう少し考えて動いて欲しいのですけど……仕方ありませんね。



「ちなみにロレンス王国へ偵察に行った連中の報告では、クーデターは上手く成功したらしい。エレナの予想した通り、いやそれ以上にあの王子への不満が溜まっていたみたいだな」


「まあ、私たち為政者がどれだけ上手に政治をしたところで、市民にはその恩恵が分かりにくいもの。特にロレンス王国のように実力至上主義では、必ずどこかに不満が溜まるわ」



 だからこそ、私は彼らの不満に賭けたのです。急成長を続ける大国とウチが真っ向からぶつかれば勝機はありません。共和国との戦のように上手くはいかないでしょう。


 でも、内部に火種を抱えているのなら話は別です。いつもは王子が目を光らせていても、当の本人は遠く離れた異国の地。そんな中で『少しのキッカケ』さえあれば、後は雪だるま式に事態は大きくなるのです。



「正規軍と反乱軍の戦になれば、間違いなく王子か書記官がウチを巻き込みに躍起になるぞ? なんせ事を起こしたのはエレナなんだからな」



 ケーネの言う通り、少なくとも王子は私を巻き込んで戦を起こすでしょう。エリク書記官の反乱を焚きつけたのが私だと気づいているでしょうし、それをちらつかせながら問答無用で軍を貸し出せと要求してくるはずです。



「諜報部の試算によれば、反乱軍の総動員兵力は三万。対する正規軍の兵力は三万五千ってところらしい。しかし反乱軍の戦闘員もつい今まで正規兵として訓練を受けてた連中がほとんどって話だから、もしウチから兵を貸し出せば被害は覚悟しなきゃだな」


「そうね、私が兵を貸し出せば、ね」



 私の言葉に、ケーネとミリダが揃って首をかしげます。



「この状況で、あの王子相手に出兵を断るっていう選択肢があるのか? エレナのことだから何か策があるとは思っていたが……」


「もちろん、いくら私でも無策で王子から要請されれば断ることは出来ないわ。ちゃんと考えがあっての発言よ。

 王子が密偵を放ったってことは、多分情報収集をしたいと考えたからでしょう。多分十日以内に偵察隊は王子の元へ戻り、体制を整えた彼は私に面談を申し込んでくるわ。そうなればこちらの負け。大人しく兵を貸し出し、無駄な戦に貴重な人的資源を浪費するという最悪の未来が待ってるわ。

 でもその前提は、私が会談しないという選択を取ることで覆るわよね?」


「会談しないって……病欠でもするのか?」


「そうよ。仕事だけ片づけたら、お父様たちと一緒に療養地に引っ込むわ。指示は逐一出すし、あらかじめある程度指令書は書いていくから心配はいらないと思うけれど……大丈夫?」



 私の問いかけに、二ッと笑いながら頷くケーネ。ミリダはいつものように深々と頭を下げて応じます。



「ありがとう。じゃあもう少し、悪だくみの詳細を詰めましょうか」

 

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