天才王子は驚愕します
「母国で……反乱……?」
文官から伝えられた情報に、プレストは思わず口に含んでいた紅茶を噴き出しました。
「反乱とはどういうことだ⁉ 誰が、何のために⁉」
「理由は不明です。ですが三等書記官のエリクが旗印となり、王宮を占拠したと……!」
「そんなはずがあるか! 何の前触れもなく反乱など、バカも休み休みに言え!」
「しかし、これを……!」
文官が差し出したのは、ロレンス王国で発行されている大衆新聞でした。発行元は王家直轄の出版社で、情報の確度はかなり高いと評判です。
新聞の一面には白亜の王宮から煙が立ち上り、掲揚台に見慣れぬ旗が掲げられている写真が掲載されています。
「私もよもやと思い、実際に王宮へ行ってきました。その時の写真がこちらで……」
文官が続けて差し出した写真にも、同様に煙を上げる王宮が。絢爛豪華を誇っていた王宮はくすみ、いくつか割れた窓も確認できます。
「エリク書記官が反旗を翻した時、王宮に駐在していた軍のおよそ半数が書記官に従って王宮を占拠したと聞いております。王宮の損害は、その時に生じたものと思われます」
突然の事態に、プレストは足元が崩れるような錯覚に襲われます。
何とか近くの椅子を引き寄せて座ると、ゆっくり息を吐きながら頭を抱えました。
「とりあえず、今欲しいのは詳細な情報だ。急いで王都へ偵察隊を向かわせ、情報収集に当たらせろ」
「了解いたしました。王女殿下にはいかがお知らせしますか?」
「そうだな……事態の詳細が分かるまで伏せておけ。いらぬ詮索をされても面倒だ」
「はっ!」
文官に指示を出し、部屋から出て行ったところでプレストは大きくため息をつきました。部下の手前、ため息は何とかこらえましたが一人になった瞬間、無意識のうちにこぼれ出てしまったのです。
(首謀者はエリクとか言ったな……奴が扇動して、軍まで動かした? ありえんだろう)
三等書記官に任命したのはプレスト自身であり、その器量は彼が良く知っていました。とても暴動など起こす性格でも、またその度胸もないと確信していたところにこの情報です。
以前からエリクが役職に不満を持っていることには気づいていましたが……
(間違いない、裏で糸を引いているのは王女だろう)
エレナ王女がこちらの文官に、何やらちょっかいを出していることは気づいていました。文官たちが足繁く王女の元へ会談に行っていることも掴んでいます。
恐らくその時にエリクを焚きつけたのでしょうが、それだけであの気弱な奴が暴動など起こすでしょうか?
(まあ、考えられるところでは金鉱の権利をちらつかせた、あたりか。欲に目がくらんで変な気を起こしたとしても不思議ではないか……)
それよりも問題なのは、エリクに賛同した人間が相当数いるというところです。少数ならばプレストが王宮へ戻り、暴動を鎮圧すれば事態は容易に終息するでしょう。
ですが、相手が大勢なら話は別です。一度くすぶった火種は完全に鎮火させることは困難であり、その上相手は全てを捨てるつもりで向かってきます。ここまで来れば、言葉だけで治めるのはほぼ不可能でしょう。
(全く、やってくれたなあの王女。綺麗な顔をしながらやることがえげつないぞ……)
(だが、この程度の困難を乗り越えずして王たる資格はないか———)
頭を上げた彼の眼には、今日も変わらず盛況の王都。それは紛れもなく、かの王女の成果なのです。
(舐めた真似をすればどうなるか、その身にたっぷり教えてやる……!)




