天才王女は焚きつけます
「我がロレンス王国においても、金の価値は非常に高いのです。その源泉たる鉱山を王女殿下が共和国の蛮族共から奪取してくださったのは、まさに行幸というべき事態でしょう」
面談が始まって早々、エリクはこう切り出しました。
「聞けばかの鉱山、産出する鉱石はどれも純度が高いとか。その上、王女殿下が金鉱の権利を私のような文官にも売っていただけるとなると聞き、こうして居ても立ってもいられずはせ参じた次第です」
鼻息荒く力説する彼の言葉には、この会談にかける意気込みがそのまま投影されているようでした。
実際、彼———ロレンス王国第三書記官のエリクにとって、エレナ王女殿下との会談は極めて重要な意味を持っているのです。
彼が書記官に任命されてからはや20年。それだけ長く国の要職に就きながら、全く日の目を見ない人生でした。
家は裕福で早くから学校へ通い、そこそこの成績で卒業。そのまま王宮勤めとなり、そこそこのポストをたらい回しにされる日々だったのです。
自分よりも若く、才気に溢れる者たちはすぐさま出世街道を駆け上がり、国の重職に次々と就いていきます。悔し涙に枕を濡らしたことも、一度や二度ではありません。
しかし、そんな彼にもついにチャンスが訪れます。出張先のナンコーク王国、その王女が自身の持つ金鉱を売り払うという情報が舞い込んだのです。
(ここで首尾よく金鉱を買い取ることが出来れば、さすがの王子も私の能力を認めざるを得ないだろう。そうなればゆくゆくは重職に就くことが出来る……!)
という理由でエリクはエレナの元に、半ば押し掛ける形で会談を申し込んだのです。
確かに彼の読みは外れていません。仮にエレナから金鉱を買い取ることが出来たなら、エリクの発言力は飛躍的に強くなるのですから。
しかし問題なのは、その相手がエレナだということで———
(表情に出すぎなのよね……今の職が彼にとって適所だと思うのだけれど、まあそれが分かればここまで来たりしないわね。
もちろん彼に売ることは万に一つもあり得ない。けれど、もう少し動いてもらいたいのは事実ね)
脳内で考えをまとめ、私はゆっくりと口を開きます。
「そうね、私が所有している金鉱を売りたいと言うのは事実よ。だからこうして貴殿が足を運んでくれたことはとても嬉しいわ」
「ということは」
「しかし」
私の言葉に前のめりになって反応するエリクを制し、言葉を続けます。
「あれだけの金鉱、買い手は山のようにいるのよ。私としては貴殿のように熱意溢れる人に買い取ってほしいのだけれど、外聞というものもあるじゃない?」
「はあ……?」
「先の共和国との戦、貴殿とて耳にしておられるでしょう? 寡兵であちらの大軍を退けたのだけれど、そのせいもあってこちら側の被害も大きくてね。
そんな中で金鉱が発見されたものだから、被害を受けた民たちの寄せる思いが強いのよ。私が管理すると言っても反乱が起きそうだったものを、果たして貴殿の肩書で静められるのか……そこが心配なの」
「ぬ、ぬう……」
ちょうど、金鉱の権利を巡って部族同士が対立したことは知っているでしょう。だからこそ、エリクも私の言葉に唸るばかりで反論できないのです。
さらに間の悪いことに、エリクは自分の役職に劣等感を抱いています。そんな彼が、王女の私から『肩書が足りない』と言われれば黙るしかありません。
それが、二回り以上年下の少女から放たれた失礼な評価であっても、です。
「では王女殿下は、結局のところ文官に金鉱を売り渡す気はないと?」
「あら、それは早計というものよ。私は『大国の文官にだって、交渉の場につく権利がある』と言ったのだから。この意味、聡明なエリク書記官ならお分かりになるのでは?」
「ま、まさか⁉ 私にクーデターを起こせと⁉」
目を見開きながら立ち上がろうとするエリクを手で制し、私は小さく微笑みます。
「そうとは言っていないわ。ただ、貴方のように深い見識を持ち、才のある人間が今の職に満足するとは思えないと思っただけよ。違うかしら?」
「そ、それはそうですが……いやしかし……」
「そうそう、金鉱の買収にはロレンス王子も動かれているわ。かの御仁と変わらない冴えを持つ貴殿ならあるいは……と思ってこの会談に臨んだのだけれど、私の見当違いだったのかしらね」
私の言葉に、顎をさすりながらしばし考え込むエリク。
一つ頷き、ゆっくりと上げた彼の眼には先ほどまでとは違う光が宿っていました。
昨日、よもぎ団子さんから感想を頂きました。Thank you for impression!
『感想が欲しい!』と言えば感想をくださる方がいるというのは、筆者として本当に嬉しい限りです。その上特定のキャラに対して熱く語ってくださるなんて、本当にありがたいことですね!
というわけで(どういうわけで?)、これからも面白おかしくエレナたちの物語を綴っていけたらと思います。ぜひ皆さま、応援の程よろしくお願いします!




