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天才王女は演技をします

「お見事でした、お嬢様。すべてはお嬢様の描かれた筋書き通りに事が運びましたね」



 自分の騎馬へ戻ると、馬上のミリダから賞賛が降り注ぎます。彼女にはあらかじめ全ての予定を伝えてあったので、驚きも人一倍強いのでしょう。



「リクル村、トレイス村の両方に間者を送り込み、共通の敵を作ることで一致団結させる。後は彼我の戦力差を明確にし、その勢いでもって事態の収拾を図る……お嬢様から内容を聞いた時にはそう上手く事が運ぶか心配でしたが、心配は無用だったようですね」


「ありがとう、ミリダ。それもこれも、ドランたちが共和国を打ち破ってくれたからよ。王国の辺境まで伝わるような武勇伝がなければ、こう容易くはなかったでしょう。

 あと、土を被らせてしまってごめんなさいね、ドラン。作戦のためとはいえ、貴方の名に傷を付けてしまったわ」


「私の命はすでに王女殿下のもの。何なりとお使いください。

 それに私がこの乱を治めるには、弾圧以外の方法を思い付かなかったですから同じことです」



 そう言いながらドランは頭を垂れますが、そうは言っても何か埋め合わせをしなければ示しがつきません。近々、奥さんと娘さんの三人でどこか旅行に行けるよう手配しておきましょうか。


 私が馬に跨ると、ドランが騎士団を先導して王宮を目指し始めます。ここまでかなり急いできたので、帰りはなるべくゆっくり戻りたいものです。異国の使節の前なので平気な顔をして乗っていますが、実は乗馬は苦手なのです。



「そういえばお嬢様、金鉱の扱いはどうなさるので? 今回の一件によって、このままお嬢様が管理なさっても不満は出ないと思われますが……」



 王宮が遠くに霞み始めたころ、ミリダが私に話を振りました。ロレンス王国の文官たちの意識が、さりげなくこちらへ向いたことを確認しつつ、私はミリダに目線で『いいタイミングよ!』と伝えながら答えます。



「そのことなのだけど、金鉱が国内の情勢を乱すのなら、いっそどこかに売りつけようかと思っているのよ」


「よろしいのですか? あれだけ復旧と管理に財を投じておられたのに」


「別に国庫から財源を引っ張った訳ではないし、元は十分に取れているわ。後は売却の金額がどのぐらいになるかだけね。

 問題は、周辺の諸国に金鉱を買い取るだけの気力がないというところかしら。帝国は内憂外患だし、共和国は小国連合に乗っ取られたばかり。当の小国連合も、今は占領地の平定を急ぐでしょうから金鉱には手出しをしないのよね……」


「そんなものですか……一侍女の私には分かりかねる話ですね……」



 一介の侍女が諜報部隊なんて編成しますかね? と視線で問いかけますが、ミリダはわざとらしくため息をつきながら視線を外します。



「まったく、困ったものよね。私のような未熟者に金鉱なんて過分なもの、扱えるわけないのに……

 いっそのこと、お父様に売ってしまいましょうか?」



 お嬢様が未熟者? とミリダの視線が突き刺さりますが、私はもちろん無視して同じく視線を外します。



「……それでは国庫から財源を引っ張ったのと変わりないのでは?」


「もちろん冗談よ。はあ、どこかに良い買い手がいないものかしらね……ミリダ、帰ったら金鉱を買ってくれそうな人の洗い出しをお願いできる?」


「先ほど、お嬢様ご自身が『周辺諸国は当てにならない』と仰ったばかりですし、時間がかかると思いますが……」


「別に相手が国家でなくてもいいわ。即金でなくても構わないし、それこそ大国の官吏レベルでも交渉には応じるつもりよ?」



 もちろん嘘です。アンネと同じぐらいの資金力があれば金鉱を売り渡すことも考えますが、一官吏の給金を担保に交渉してはキリがありません。


 ゆえに、事情を伝えていないこちらの将官以下の兵たちはみな、複雑な表情をしています。それでも異を唱えないのはひとえに、ドランの指導の賜物でしょうね。それに私への信頼も相まって、皆無言のまま周囲の警戒に勤しんでくれています。


 ここで一番珍妙な表情を浮かべているのは、間違いなくロレンス王国の文官たちです。彼らの目の前で金鉱の権利者たる王女が、一国の文官相手にでも売り飛ばす用意があると告げているのですから当然の反応です。

 彼らの頭の中には金鉱を買い取った時のリスクと、金鉱が生み出すリターンが目まぐるしく回っていることでしょう。



 様々な思惑が飛び交う中、私たちは王都の門をくぐるのでした。

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