天才王女は和平の場に姿を見せます
村を出発してから三時間後、リックは自分の故郷の村長を連れて小高い丘へとやって来ていました。こちらの護衛はリックともう一人。つまり、村長と合わせて三人の簡易的な使節がこちらの面子というわけです。
一方、向こうの連中は代表者を合わせて五人組。それが丘の上に陣取っていました。
「お、おいリック! 連中が先に来ているぞ!」
「ど、どうする……もし奴らが武器を持っていたら!」
速足で丘へと向かっていた足が、一歩二歩と後ろへ下がって———
「待て! 奴らは武器を持っていない! それにここで引き返せば、それこそドランに攻撃の口実を与えてしまう!」
「確かにそうだな……よし、急ぐぞ! 儂らも王女殿下がいらっしゃる前に丘へと向かうのだ!」
村長の指示により、再びリックたちは丘へと足を向けます。丘へ上がってみると、向こうの連中の周りには空いている椅子が並ぶばかりで、武器の類は見られません。村長は胸を撫でおろしながら椅子に腰かけました。
ついさっきまで対立していた二つの部族が、こうして顔を突き合わせているという異常事態。しかし彼らはそれに気づかず、最初に口を開いたのはリックの村の村長でした。
「トレイス村の村長さん、でしたかな。この度はご足労頂いてありがとうございます」
「い、いえ……こちらこそありがとうございます。リクル村の村長さん、ですな」
「そうです。いやあ、こうして話をするのは初めてのことですなぁ」
「我々の親の代では、同じように例の鉱山で働いていたと聞きますが……いつの間にこんなにも溝が開いてしまったのでしょうな」
「なんと、一代上では仕事を同じくしていたのですか! 初耳でした……今度、そちらの村にも行ってみたいものです」
対立する二つの部族、その代表者が会話を続けるという事態に護衛達がざわめきます。そのざわめきが消えないうちに、遠くから響く地鳴り。
この音は———
「あ、あれが……」
「な、何という……」
地響きを立てながらやってきたのは、王国軍の騎兵隊でした。
すべての騎馬が武具を身に付け、王女の乗る騎馬を先頭にして一切乱れることなく突撃してくる王国軍。先ほどまで自分たちが編成していた一団とは圧倒的な差に、誰かが震える声音で口にします。
「あんな連中と、今まで戦おうとしていたのか……」
「さすがは救国の英雄たちだ……一体、俺たちは何と戦おうとしていたんだ……」
適切な訓練を受け、しかも戦場を駆けてきた騎兵たちと安寧に暮らしてきた自分たちとでは圧倒的な差があります。敵わない圧倒的な差、そして部族同士の対立で気を張っていた疲労感から到底まともな精神状態を保ってはいられません。
丘の中腹で騎馬が居並び、その先頭から優雅に一人の少女が馬から降りました。
「トレイス村、リクル村の村長ですね? 初めまして、エレナと言います。知っての通り、この国の王女にして王位継承権第一位です。お見知りおきを」
「え、ええ存じ上げております! ささ、こちらへどうぞ!」
トレイス村の護衛、その一人が王女に椅子を勧めます。しかし椅子を持つ手は小刻みに震え、表情は強張って固まっていました。
これが仮に、王女が少数の護衛しか連れてこなければ話は変わったでしょう。例え相手が王族と言え、弱気では交渉もできません。丁寧な態度は崩さずとも、少々の強気は残していたはずです。
しかしこうして威容を見せつけられては、心が簡単に折れてしまうものなのです。
「皆さんお揃いのようで、結構なことです。さあ、事態に幕を下ろしましょうか」
彼らはただ、王女の言葉に首を縦に振るしかありませんでした。




