天才王女は語ります
「お嬢様、よろしかったのですか? 何か考えがおありのようでしたから、止めることは致しませんでしたが……」
王子が部屋から去ったあと、ミリダがおずおずと質問します。彼女が口を開いたということは、周りに密偵の気配はないと考えてよいでしょうね。
ですから私も表情と姿勢を崩し、オフの口調で答えます。
「止めなくて正解よ。むしろ止められていたら予定がご破算になる所だったわ」
「と、言いますと?」
「ほら、ちょっと前の夜にミリダが言ってくれたじゃない? あれを参考にしてちょっと罠を張ろうと思ったのよ。
王子が私に堂々と諜報を仕掛けてくるなら、そこを逆手に取るのよ。王子の周りが彼に忠心を抱いていないというのなら、そこに付け入る隙があるわ」
私はミリダに説明しつつ、引き出しの中から一つのファイルを引き抜いて渡します。数日前、ケーネから報告が上がってきた案件なのですが———
「さっきミリダから報告を受けた部族間対立だけど、アルカルトのところの諜報部員が『兆しあり』って伝えてくれてたのよ。だからさっき驚いて見せたけれど、あれは演技。ミリダも気付いていたでしょう?」
「ええ、まあ。少し反応が大げさだな……とは思いましたが……」
「アルカルトに頼んで、二つの部族に武器をこっそりと流してもらったのよ。もちろん死傷者が出ないよう、細心の注意を払ってだけれどね。
前から火種があったところに、こちらからキッカケを作ってあげれば今回のように対立するでしょう」
かすかに眉根を寄せるミリダ。きっと、彼女の内心では複雑な感情が渦巻いているのでしょう。
確かにここまで聞けば、私が周りを自分勝手に動かしているように見えるでしょう。ですが当然、ちゃんと落としどころも考えてあります。
「まず大前提としてこの争い、一人の流血者も出さずに終息して見せるわ。その上でロレンス王国の使節団の半分をこちらの陣営に引き入れるの。これならだれも不幸にならないでしょう?
そもそも火種を煽ったのだって、部族たちの息抜きをしておきたいと思ったからなのよ」
ウチは多民族国家と言えば聞こえがいいですが、その本質は流浪の民が行きつく土地。大陸の真ん中にあるため、周辺の大国からあぶれた人が集まりやすいのです。
しかも金鉱があるのは共和国との国境沿い。元鉱夫たちの多くが共和国で職にあぶれた人たちでした。
よって王国は、王都から離れれば離れるほど常に何らかの火種を抱えていることが多いのです。
「部族同士の対立を利用して、王子の人員を削るという作戦ですか……お嬢様は途方もないことを思い付きになるのですね……」
「それもこれも、みんなを信用して仕事を任せられるからできることなのよ。さあ、気張っていくわよ」




