天才王女は自ら出向きます
「金鉱の権利を巡って、二つの部族が対立ですか……」
私が漏らしたわずかな溜息に、金鉱の担当者は身を竦めながら頭を下げます。
「申し訳ありません! よもやこのようなことになるとは思わず、対応が遅れてしまいました!」
「いいのよ、貴方を責めているわけではないわ。むしろ事態を予想できなかった私のミスでしょう」
事の発端は、金鉱の思わぬ採掘量でした。
ケーネの思わぬ発見に、放棄されたはずの金鉱は再開発が進められます。再開発はつつがなく進められ、少し前にやっと正式稼働したのは記憶に新しいところですね。
しかし、そこで問題が発生しました。再開発した金鉱の思わぬ発掘量に目がくらんだ二つの部族が、その権利を巡って対立したのです。
そもそも金鉱の所有権は、すでに放棄されたものなので宙ぶらりんとなっていました。そこに財を投じて開発したのだから、所有権は王家にあるだろうというのがこちらの言い分です。
事実、最初はその意見に部族らも反論しませんでした。彼らにとっては一度は枯れた鉱山、さしたる採掘量は望めないだろうと高をくくったのでしょう。———ですが、稼働してから予想外の展開となったのです。
「———採掘量は望外の収穫だったけれど、こんな厄介ごとを引っ張ってくるとはね……いよいよ迷惑ごとに好かれているのかしらね」
もとは鉱夫として働いていた手前、自分たちにも権利はあるだろうと言うのが彼らの言い分です。言いたいことは分かりますが、権利を掠め取られてはこちらも溜まりません。慌てて王都から代官を派遣しましたが説得もむなしく、二つの部族は互いに武器まで持ち出しての対立を始めたのでした。
そういうわけで、地方部族の対立という小さな問題のはずが、金鉱の収益が命綱の私にとって『早急に解決しておきたい問題』に押し上げられたのです。
「何もこのタイミングで揉めなくても、とは思うけれど、そんなことを考えて動いてはくれないものね」
「そのことなのですが王女殿下、後ろにおられる御方は……?」
聞きにくそうに切り出す担当者に、私は二度目のため息を何とか飲み込みます。
彼がおずおずと指をさした先———私の後方にずらりと並んだ異国の文官は、せわしなく視線を巡らせながら手元の紙に何やら記入していました。彼らのおかげで、それなりに広いはずの天幕が狭く感じられてしまうのは誰に文句を言えばいいのでしょうか……
「王宮にプレスト王子が滞在なさっていることは知っているわね? 彼らは王子の代わりに、ここを見学しに来たのよ。
王子からは『いないものとして扱ってくれて構わない』と言われているから、もてなしは不要よ。みんなにはそれぞれの作業に集中するように伝えて頂戴」
「はあ……よろしいので?」
「過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ。それよりもやって欲しいことがあるから、この書類に目を通しておいてね。なるべく、人目に付かないところで」
(人目を気にしながら部族の対立を抑える……なかなかに難題ですね)
困惑顔の担当者に手早く指示を出しつつ、私はこの事態に至った経緯を脳裏に浮かべながら、ついにため息をこぼすのでした。




