天才王女は苦悩します
「全然勝てなかったわ……」
晩餐会の後、みんながお風呂にも入って寝静まる段になってしばらく。
私とケーネ、ミリダの三人は私の寝室で今日を振り返っていました。
異国の使節団が迎賓館に滞在していることもあり、護衛を兼ねて二人が私の寝室で寝ることとになったのです。ドアの外にも護衛の人が入れ替わりで、一晩中立っているとのことです。
「何よあの王子……どれだけ性格がひねくれてたらあんな会話できるの……」
「エレナが会合で後手に回ったなんていつ以来だ? あれは旦那様とはまた別のベクトルで怪物だな」
「それは私も感じました。あれだけ表情を変えているにもかかわらず、一切気配が感じ取れませんでしたからね……
あの王子、おそらく武芸にも明るいと思われます」
ミリダの見立ては正しく、プレスト王子は王宮剣技の達人から指南を受けた経験があったのです。現に彼はいくつかの戦で最前線へ赴き、兵へ指令を出しつつ武勲を上げるという偉業を成していました。
一方の私は完全な内政専門の王族です。自分で言うのも変な話ですが、卓越した才能と圧倒的な努力によって積み上げられた功績は大人のそれです。ですがその中身はまだ十七歳の少女なのです。
文字通り死線を潜り抜けてきたプレストの方が、大事に育てられてきた自分よりも一枚上手であることは自覚していました。
「でも、何とかして王子の求婚は断らなくちゃ……何かいい案はないものかしら……」
うーむ、と悩まし気な声を上げる私に、ミリダが優しく毛布を掛けます。
「ですがあの晩餐会で、私はお嬢様に勝機があると思いましたよ」
「……え?」
「あくまで私見ですが、プレスト王子は周りの従者とあまり仲がよろしくない様子。野心を抱える者もいれば、腹に一物を隠している者もいると感じました。
しかしお嬢様は、私たち臣下から絶大な信頼と敬意を寄せられる御方。そこが、王子とお嬢様の決定的な差と存じます」
ミリダから向けられる率直な好意に、私は自分の頬が熱を帯びるのを自覚します。慌ててそれを隠すように、ゆっくりとミリダの髪を梳くように撫でながら言葉をひねり出します。
「そのう……ありがとう。ミリダは相変わらず、私に甘いわね。
けれど、他ならぬミリダがそこを王子の『弱点』だと言うのなら……少し、考えてみる価値はありそうね」
「エレナの言った通り、侍女の一人に王妃の第一候補が紛れ込んでたしな。見たところ、あんまり仲良さそうには見えなかったぞ」
「それは私も感じたわ。私を側妃に迎えたいと明言している以上、婚約者との仲は良好だとばかり思っていたけれど……
そこからつつけば、あるいはと言った所かしらね……」
ケーネへの返答を思い返しながら、私は何かが脳裏で繋がりかけているのを感じます。
欲しい情報はすぐ目の前。しかしそれにはあと一歩届かないような、そんなもどかしさ。
欲しいのは情報? 時間? 人?
思考の海に揺蕩っていると、手元をかすかにくすぐる感触。ふと目を向けると、ミリダがふあ、と疲労を込めた吐息を吐いているところでした。
ベッドのそばに立つケーネも、どこか眠たげな様子。二人とも、今日は良く動いてくれたので仕方ありません。
「さあ、もう夜も遅いから寝ましょうか。明日のことは、明日考えるとしましょう」
私の言葉に、二人とも素直に布団へ潜り込みます。ケーネは私たちから少し距離を取って遠慮がちに、ミリダは私に抱きつく様に。
「ふたりとも、おやすみなさい。明日も頑張りましょう」




