天才王子は天才王女を評します
「王子よ、いかがでございましたか?」
さすがに大陸外の、しかも大国の王族をもてなすためにあてがわれた迎賓館は『美しい』の一言に尽きます。
品が良く、王族の自分から見ても年代物だとわかる調度品の数々。しかしそれらを嫌味さ一つ感じさせることなく配置させ、かつ窓の外の月明かりが室内に差し込むと、壁に掛けられた絵画が淡く幻想的に映える気遣い。
ここの部屋を作らせた者のセンスが感じられる、そんな部屋でした。
「面白かったよ。久々に心が躍る程度には、な」
侍女として連れてきた女性の問いに、口元を歪めて答える王子。そこには先ほどまでの洗練された笑みはなく、むしろ野性味に満ちたそれが広がっています。
身体を軽く跳ねさせてソファーの感触を楽しみつつ、軽く巻いていたタイを背後へ無造作に放り投げました。
「あの王女、存外に頭が切れると見た。噂程度の女ならば軍師として抱えることも考えたが、あの様子ではそれも役不足だな」
「そこまでの女人だったのですか? 私には、少し頭が回るとしか思えませんでしたが……」
「確かに、晩餐会では終始こちらのペースに乗せられていた。しかしそれは、彼女に社交界での経験が不足しているからだろう。現に王女は、あの場で本心からの表情を一切面に出さなかったしな。それだけでも、並の人間にできることではない」
「し、しかし王女は私の正体に気付いていませんでした! やはりその程度ということでは⁉」
「落ち着けフィアナ。これはあくまで俺の予想だが、王女は多分早い段階で気付いていたぞ?」
声を荒げて抗する侍女———として連れてきた婚約者のフィアナに、王子は苦笑しながら応じます。
「玄関先で俺たちを迎えた時、王女の視線がわずかにお前の方を向いたのだ。恐らく、フィアナの所作と護衛の配置からお前が貴人であることを読み取ったのだろうな。
まあその断片的情報と、わざわざ俺が伝えた『側妃にしたい』という文章からフィアナを次期王妃と見抜いたことはさすがとしか言えんが」
王子の言葉に、フィアナと呼ばれた女性は黙ります。二の句を継ごうとした彼女に、プレストが鋭い視線を向けたからでした。
フィアナはまだ、プレストの婚約者という立場にあります。これが第一王妃ともなればより発言権が増すのでしょうが、今の彼女には大貴族の令嬢という立場しかありません。だからこそ彼女は、王子の視線に黙り込むしかなかったのです。
「……もし、プレスト様の推測が正しかったと仮定しましょう。であればあの王女、懐に入れるには危険ではありませんか?
王子の計画では、じきにこの王国は滅びるのですし……」
「なれば、それこそ面白いではないか。ますますあの王女が欲しくなるというものだ。
それに、手元の女一人を御しきれずに王が務まるものか。もしあの王女が俺を出し抜くと言うのならば、それもまた一興というものだろう」
「そこまでプレスト様が仰るのなら、私が口をはさむのは失礼というものですね。出過ぎた発言、どうぞお許しを」
「よい、今日は機嫌がいいのでな。
ともかくあの王女、こと内政においては相当の潜在力を持っていると感じた。この地がもう少し肥えれば、俺が手ずから摘み取ってやろう」




