天才王女は異国の王子と対面します
ロレンス王国から私へ、縁談の申し込みがあってから二週間経ったある日。
王宮は総出でロレンス王国の大使を迎えるために慌ただしく動き、王都もいつもとは違う雰囲気で賑わっています。
「んじゃ、最後にもう一度説明しておくぞ」
その様子を執務室の窓から眺める私に、ケーネが書類を片手に話し始めます。
「今回の相手はプレスト・ロレンス第一王子。現国王の側妃が生んだ王子で、王位継承権はもちろん第一位。年齢は公式発表されているものを信用するならエレナと同じ17歳だな。
性格は温厚にして誠実。しかしその政治的手腕を見る限り、ただのいいヤツってわけでもなさそうだな」
「絶対性格悪いわよ、で、容姿は?」
「長身の美形で、夜会に出れば国中のご令嬢が熱い視線を向けるって話だぜ? 猫かぶりが上手くてイケメンとか、どこまで女の敵になれば気が済むんだって言いたいところだが」
「それはケーネのやっかみが多分に入った感想だけど、今回ばかりは同意せざるを得ないわね。
———ところでこのドレス、サイズおかしくない? 結構腰回りが窮屈なんだけど」
「相手が縁談の申し込みで来てるんだから、こっちもそれなりの格好をしなきゃいけないだろ? 少しは我慢してくれ」
腰をきつく締めあげるコルセットをさすりながらぼやく私を、ケーネがため息交じりに窘めます。こんな時にお父様がいらしてくれれば心強いのですが、タイミングの悪いことにお父様とお母様は別荘へ療養に向かっておられるのです。
「まさか第一王子がウチへ直接乗り込んでくるとは思わなかったわ……国王は止めなかったのかしら?」
「一応は止めたらしいが、聞く耳を持たなかったらしい。それに第一王子が自ら交渉に臨んだ時には、必ず国のためになる結果を持ち帰ってるから強く言えなかったとか」
「国王が王子よりも交渉下手ってこと? よおっぽど側妃が有能な女性だったのね」
「それはある。もとは亡国の姫だったらしいが、その側妃が宮中で最も発言権を持ってるって言ったら分かるよな?」
「母親譲りの交渉術に、父親譲りの容姿を兼ね備えた王子ってことね……正直、最悪だわ」
侵略地の姫が、侵略した大国の宮中で最も権力を持つ……それは並大抵のことではありません。権謀術数を巡らせるだけの器量があり、さらに時流を掴むだけのセンスもあるからこその結果でしょう。
「で、一応確認しておくが、エレナは今回の縁談を受ける気はないんだよな?」
「ないわ。少なくともお父様ぐらい聡明で、お母様ぐらい強い相手じゃないと結婚する気はないわ。それにウチは今から発展するのよ? ここで身を固める合理的理由が見当たらないわね」
そこまで言い切った後、だから、と言葉を続けてケーネに微笑みかけます。
「ケーネは安心していいのよ? 当分、私は誰のモノにもなるつもりはないから」
「……どうしよう、エレナが今世紀最大級でウザいんだが」
こうやって照れるケーネも可愛いのですが、これ以上からかうと本格的に機嫌を損ねるので止めておきます。
ケーネに足りないのはあと少しの勇気だけだと思うのですが、彼はいつになったら気付いてくれるのでしょうか……
ケーネに小言の一つでも言おうと考えを巡らせていた時、執務室の扉が叩かれました。現れたのはミリダです。
「お嬢様、ロレンス王国の使節団が到着いたしました」
「そろそろね……行きましょうか、ケーネ、ミリダ」
「ん、了解」
向かうのは王宮のメインエントランス。広間を兼ねたその空間には、異国情緒あふれる衣装を身に纏った一団が到着していました。彼らがロレンス王国の使節団でしょう。
その中心に立つ、ゆったりとした衣装に身を包む少年。少年が第一王子でしょう。
「遠路はるばる、ナンコーク王国へようこそ」
声を上げると同時に向けられる視線の数々。警戒と値踏み、中には女と侮る視線を交えて矢のごとく私に突き刺さります。
しかしこんな重圧、いつも感じていることです。お父様に見つめられているときの方が何倍も圧を感じるのですから。
「体調の優れない父に代わってご挨拶申し上げますわ。私がナンコーク王国第一王女、エレナ・リ・アムネシアでございます」
「これはご丁寧に、ありがとうございます。私がロレンス王国第一王子、プレスト・ロレンスです。噂にたがわぬ、いえ、それ以上の美しさですな」
「まあ、お上手。さすがはロレンス王国きっての貴公子と名高い殿下ですね」
「いえいえ、私は嘘をつけない性分でしてね? 今もあまりに美しいお声に、心を奪われないように引き留めておくのが大変です」
お互いに心にもないことを言いながら、笑みを交わしあう私と第一王子。
さあ、プレスト王子はどんな人物でしょうか。




