勇者の靴を取りに行こう
4章も終わり、5章がもうすぐ始まります。
早い様で短かった4章は如何でしたか?
ん? 新たなる戦記のはじまりなのに、戦ってないって? オニオンキングと戦いましたw
次は商業王国である。
最後の勇者の装備シリーズである、勇者の靴を取りに行くのだ。
ユウトは順調な魔王討伐に満足していた。
まぁ最南端付近まで魔王の配下が潜んでいたら大事ではある。
こんなのどかな旅も良いが、やはり元気な曲を流してプリーモを労らなければならない。
かなりの激闘だった筈。それは己の男としての尊厳をかけた戦いだったのだから...
ユウトはクラブミュージックをハープで弾きはじめる。
バニラとジジもベースとドラムで合わせた。
ユリウスは馬車の中で踊り出した。
何とも楽しい雰囲気だ!
「プリーモもさぁ踊れ! 何とか勝てたんだからな! 勝利の舞というやつだ」
プリーモは怒って睨みつけてくる。
「父様! 試練の内容、何故黙ってたんですか?」
「だって話したら、やりたくないって言うだろ? 知らない方が何とかなるもんさ」
「他人事だからそう言えるのです。あれは正しく恐怖でしかありませんでした。次の商業王国は大丈夫ですよね?」
ユウトはまたまた悪い笑みを浮かべた。
「ーーええ〜またですか?」
「大丈夫! 大丈夫! アダムも乗り切ったから」
「いや何の根拠があってそんな事言えるのですか?」
「次はアトラクション系だからな!! 楽しいぞ」
ユウトは詳細は内緒!! と教えてくれない。
馬車はもはやクラブ会場と化していた。
次の日、商業王国に着いた。
またユウトは商業王国の王宮まで向かい、
商業王への謁見と勇者の靴の試練を頼んでいた。
二日後に来る様、通達があった。
プリーモは二日もかけて私にどんな試練を与えるのか戦慄していた。
「父様! 因みに次の試練は勇者パーティ...」
「勇者だけだよ!」
「何でやねん!!」
プリーモはツッコミの名人だな!
勇者の試練だからしょうがない! 実にしょうがない!!
「それより、商業王国を出たら、ナルシス王国に帰るからな!! 土産を買いに行こうぜ」
「いいね! いいね! 聖王国少し寄ってくれたら俺も土産渡せるから助かる」
「了解!!」
ユウトとユリウスは試練がないから実に軽快である。
そんな二人をプリーモは恨めしく見つめる。
「プリーモも来いよ!! 気分転換になるし、娘や嫁への土産は自分で選んだ方が良いよ」
プリーモも仕方なく土産散策に付き合う事にした。
商業王国は、世界一の商業を誇る為に市場は実に活気があった。
肉屋のおじさんが試食を勧めて来たり、
占い師が、悪霊が憑いてるから祓いましょうなんて普通に言ってくる。
プリーモよ! 間に受けてはいけません!
やはり長持ちするお菓子や装飾品が良いだろうか。
そんな事を考えながら散策していると
良い店があった。酒屋である。
年代もののワインやブランデーなど珍しい酒が沢山ある。
ユウトとユリウスは自分と同じ年のワインを探していたが、プリーモから見たらそれはもう腐ってるのではないかと思った。
やはりそんな昔のヴィンテージ物はないらしい。仕方ないから、結婚した年の物や次男や孫の生まれた比較的若いワインを買い漁る。
何と輸送までしてくれるらしい。
商業王国は最先端なサービスである。
輸送ありと聞いたとたんに、ユリウスとユウトはおかしくなる。
「じゃあここの棚の酒全部、ナルシス王国へお願いね」
「じゃあ俺は、こっちの棚の葡萄酒全部ね!」
「ちょっと二人とも! 魔王討伐作戦に使うお金無くなってしまいますよ」
しかし、ユウトは自信満々に答える。
「魔法王国が何とでもしてくれる! 大丈夫! 大丈夫!」
「ちょっと! 私の義父にあたる人なんですからね! 甘え過ぎないでください!」
ユウトは首を傾げる。
なぜなら前回の魔王討伐作戦の時はこんなものでは効かないくらい豪遊していたからだ。
ユリウスもプリーモを宥めながら、ワインを大人買いしていく。
請求先はもちろん魔法王! こんな端金など魔法王からしたら一日のパーティで使い切ってしまう。
「プリーモ! ナルシス王国には今もレベル上げをしている同志がいるのだよ! 勇者として土産の一つも買わないでどうするんだ」
ユウトとユリウスとプリーモが買い漁った酒屋はすぐにその日閉店に追い込まれた。
店の酒という酒が全て買われたのだから。
更には輸送手配までしなくてはならない。
酒屋の店主はホクホク顔であった。
「よし! 次はジュエリーだ!」
ユウトは高らかに宣言した。
ユリウスも奥さんが百人以上いるから反対しない。プリーモも三人いる為否定出来なかった。
「いらっしゃいませ! 男性だけでジュエリーとは贈り物ですか?」
「ああ〜! そこの棚のネックレス全部郵送で!」
それを聞き、プリーモはさすがにツッコミを入れた。
「いやいやいや! ユリウスさん貴方買い物の仕方が間違ってますよ」
ユウトはまぁまぁと宥める。
「魔法王に請求書回しておいて!」
プリーモは前回の魔王討伐作戦の時もこんな感じであったのではないかと推測し出した。
皆思い思いのジュエリーを買い、大荷物を抱えて、宿屋に戻る。
ユウトもユリウスも大満足していた。
プリーモだけは何故か申し訳ない気持ちになったのだった。
プリーモは筋トレをしながら二日後に備える。ユウトとユリウスは呑みに行ってしまった。
プリーモは完全にダメ親父に振り回されてばかりであった。
「魔王討伐ってこんな緊張感ないものなのか?」
プリーモは思わず呟いてしまう。
やがて夜になり、ユウトとユリウスは酒場から酔いながら帰ってくる。
すると、窓から異形の者がやってきた。
「総員警戒態勢!! ユリウス、プリーモは前衛、バニラ、ジジは魔法待機」
ユウトはバフとHP徐々に回復の曲をかけてすぐ様臨戦態勢モードに入る。
「そう構えなくてよい! 今代勇者パーティを見に来ただけだからな」
この威圧感正しく魔王である! ユウトもユリウスも酔いが完全に醒めた。
プリーモはユウトが緊張している事がわかった。
ユウトはかつての前魔王より今代魔王の方が何故か嫌な雰囲気を感じていた。
「今代勇者より、ユウトと呼ばれる者が知将で厄介だと聞いている。恐らく吟遊詩人の貴様だな!」
「ああ! 私だ」
「ククククク! 戦場でまた逢える日を楽しみにしている」
それだけ言うと、異形の者は去って行った。
「プハー!」
ユウトは緊張して汗だくであった。
ユウトもユリウスも水を飲んで落ち着いた。
「あれは前魔王より強大だな!」
「やはりユリウスもそう感じたか?」
ユウトとユリウスは強大さを感じたらしいが、プリーモからしたらユウトの方が化け物に見える。
まだ一度も剣で勝てた試しが無かったからだ。
「兎に角、早く勇者装備を整えて、ナルシス王国へ帰らないとな! 今回は皆カンストさせなきゃいかんかもしれないな...」
ユウトは警戒心を募らせたのであった。
二日後、いよいよ商業王国の王宮に勇者パーティはやってきた。
商業王は見事な晩餐会を開いてくれる。
皇族たるもの、晩餐会で踊れなくては笑われてしまう。
しかし、ユウトもユリウスも元は平民の出なので踊れない。
プリーモだけは華麗にダンスを披露していた。
ユウトはユリウスに勇者の靴の試練を耳打ちで打ち明けた。
ユリウスはそれなら俺もやりたいと言い出していた。
次の日、王宮の外の兵士訓練場に勇者パーティは集まる。
「プリーモ! 風になれ!」
「いや意味がわからないんですが」
ユウトとユリウスは笑っている。
すると、兵士数名が鉛の様に重たい勇者の靴を運んで来た。
プリーモはそっと勇者の靴を履いた。
「それではこれより、勇者プリーモの爆速レースをはじめます。馬に負けたらやり直し!」
「えー? えー!?」
「スタート」
兵士が馬に跨り、練習場を駆ける。
プリーモも走り出すが、馬に引き剥がされる。
「プリーモ!! 勇者の靴に意識を集中しろ!! 勇者の靴の潜在パワーはそんなもんじゃない筈だ」
プリーモは言われた通りに勇者の靴に意識を集中させた。
すると、あまりの速さでコーナーを曲がれない!! 音速に近いスピードに翻弄されてしまう。
しまいには壁にぶつかってしまった。
ユウトもユリウスも大笑いしている。
プリーモは歯を食いしばりながら駆け抜けては、ぶつかるを繰り返した。
何周しても馬が勝つ為に、馬が交代された。
プリーモはなかなかじゃじゃ馬の勇者の靴を制御しきれないらしい。
こればかりは、ユウトもやり方知らないから教えようがない。
プリーモは鼻血だらけになりながらも駆け抜ける。
五十周はしただろうか? ようやくコーナーを曲がれる様になってきて馬に勝ったのだった。
「次は、あの山を登りきり、旗を持ち帰り、本日中に帰り切る事!! 崖を登りきってください」
「はぁはぁはぁ〜少し休憩して良いですか?」
プリーモは疲労困憊のようだ。
ユウトはプリーモに水を与える。
「前勇者アダムもやった試練だ! 何とかなる! ヒントは風の様に早く、鳥の様に優雅に飛ぶのだ」
プリーモは何となくだが、言われた意味がわかった気がした。
「プリーモいっきまーす」
ブォーン!!
プリーモは最早人間業とは思えないスピードで山に飛んで行った。
ユウトは呟く
「勇者の靴の性能をどれだけ引き出せるかで、勇者の資質が決まるのだよ」
そして一時間後、見事プリーモは山にあった旗を持ち帰る事に成功したのであった。
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