3:第3話
うす暗い森の奥へと、ララムの足あとは続いていました。これをたどっていけば、ララムに会えます。
でも、やっぱりこわくて行けそうにありません。
セリクが悩んでいると、腕の中にいるゴンザレスがかすれた声で話しかけてきました。
「セリク、ララムを追いかけなくていいの? 森に一人は危ないよ」
「ゴンザレス……でも、ぼくは弱虫だから。きっと、何もできないよ……」
森の中へ入ることも。
ララムを助けることも。
何ひとつ、できることはないんだ。
セリクはしょんぼりとうつむきました。けれど、そんなセリクのほっぺたに、ゴンザレスのふかふかな手が優しくそえられます。
「やる前からあきらめないで。ララムのこと、大切なんでしょ?」
「うん。とっても、大切だよ」
ララムはちょっぴり意地悪な時があるけれど。
呼んでも振り向いてくれない時もあるけれど。
セリクはララムが大好きでした。とっても、とっても、大好きでした。
だって、ララムは優しい女の子だから。困った人を助けようって、頑張れる子だから。
それに、ララムの手はとっても温かいのです。にこにこの笑顔がすっごく可愛いのです。
「セリク、良いことを教えてあげる。人はね、大切な人のためなら強くなれるんだ。すごい力が出せるんだよ」
「すごい力?」
「そう。大切な人を守る力。できないと思っていたことも、できるようになる。だから、セリクはぜったい、ララムを守れるよ」
ゴンザレスの言葉は、セリクに勇気をくれました。セリクはこくりとうなずいて、赤いリュックをせおいます。そして、ゴンザレスをしっかりと抱きしめて、森の中へと一歩を踏みだしました。
本当のことを言えば、まだまだこわくて自信なんてありません。
でも、一歩踏みだせば、何かが変わるような気がしました。
ぼくだって、何かできるようになりたいんだ。
だから、やる前からあきらめたりなんか、しないんだ。
セリクはしっかりと前を向き、ララムの残した足あとをたどり始めました。
*
森の奥には、小さな空き地がありました。その空き地の真ん中に、ピンク色の上着を着た女の子が立っています。
「ララム!」
セリクが大きな声で名前を呼ぶと、その女の子が振り返ります。その女の子――ララムはセリクの顔を見たとたん、くしゃりと泣きそうな顔になりました。
「どうしよう、セリク。まだキラキラがないの」
「まだ? どういうこと?」
「わたしね、『キラキラな宝物』はお星さまだと思ったの。それでね、ここが一番お星さまがきれいに見えるから来てみたんだけど……」
真っ赤な夕日が、セリクとララムを照らしていました。空は茜色に染まっているだけで、ララムの言う通り、お星さまはひとつも出ていません。
セリクは今にも泣きそうなララムのそばにかけ寄り、こつんとおでことおでこをくっつけました。
「ララム。ゴンザレスの『キラキラな宝物』は、日暮れまでに見つけないといけないものだから、お星さまだと間に合わないよ」
「あ……」
二人はおでこをくっつけ合ったまま、セリクの腕の中にいるゴンザレスを見つめました。
ゴンザレスの小さな黄色い体は、夕日の中で少しずつ、うすくなっていきます。
「ゴンザレス! 消えないで!」
二人の声がそろいました。でも、どんなに必死に呼びかけても効果はなく、ゴンザレスはどんどん透明に近付いていきます。
消えかける中で、ゴンザレスはゆっくりと紫の目を開き、二人を見上げました。
「ありがとう、セリク、ララム。オイラのために一生けんめい『キラキラな宝物』を探してくれて……。オイラ、とっても、とっても、うれしかった。その優しい心を、ずっとずっと忘れないでね」
かすれた声でそう言って、ゴンザレスは目を閉じました。
いやだ! いやだ!
ゴンザレスが消えちゃうなんて、そんなのぜったいにいやだ!
だって、ゴンザレスはぼくに、勇気をくれたんだ!
大切な人を守れるって、教えてくれたんだ!
だから、ぜったいにあきらめたりなんか、しないんだ!
「ゴンザレス!」
そう叫んだセリクの目から、こらえきれずに涙がこぼれ落ちました。すぐそばにいたララムの目からも、大粒の涙がぽろぽろと落ちていきます。
その涙の粒が夕日に照らされて、キラキラと光りました。
ぽたり、ぽたり。
二人のキラキラな涙の粒が、ゴンザレスの体に降りそそぎます。
すると。
ふわりと温かな光がゴンザレスの体を包み込み、その体を濃くしていきました。セリクの腕に、ゴンザレスのたしかな重みが戻ってきます。
「……『キラキラな宝物』、見つかったよ」
すっかり元に戻ったゴンザレスが、うれしそうにほほえみました。セリクとララムはわけがわからず、きょとんとしてしまいます。
「え、え、『キラキラな宝物』っていったい何だったの?」
「そうだよ、何だったの?」
「それはね……」
ゴンザレスが、ふかふかな手でセリクとララムの涙をそっとぬぐいながら教えてくれます。
「オイラのことを大切に思う人が流してくれる、心のこもったキラキラの涙だったんだよ」
「えええ!」
セリクとララムは、そろって大声をあげました。
ゴンザレスはというと、えっへんと小さな胸をはっています。おでこにぴょこんと生えている紫のツノが、沈みかけた夕日の光を浴びてきらりと光りました。
「セリク、ララム。二人とも、本当にありがとう。これでオイラは消えずにすんだ。これからも元気に過ごせるよ!」
セリクとララムはお互いに見つめ合って、それからくすくす笑い合いました。
そして、声をそろえて言いました。
「どういたしまして!」
*
暗くならないうちに、セリクたちは森から出ました。そして、森から出たところで、ゴンザレスとはお別れすることになりました。
元気になったゴンザレスは、これから旅に出るのだとはりきっていました。
ここではないどこかで、妖精としてのお仕事を頑張るのだそうです。
「ゴンザレス、お仕事頑張ってね」
「ゴンザレス、いつかまた、会いにきてね」
セリクとララムがゴンザレスに声をかけると、ゴンザレスはひょいっと片手を上げて答えました。
「うん。オイラ頑張る。また会いにくる。セリクとララムは、いつまでもなかよくな!」
「うん!」
二人の明るい返事を聞くと、ゴンザレスは安心したように笑って、空に飛び立ちました。ゴンザレスの姿はだんだん暗くなっていく藍色の空に吸いこまれて、そのうち見えなくなりました。
「あ、一番星見つけた!」
ララムがぴかぴか光る星を指さして笑います。その笑顔はとってもキラキラしていました。
ゴンザレスにとっての『キラキラな宝物』は、涙だったけど。
セリクにとっての『キラキラな宝物』は、大好きなララムの笑顔だったみたいです。
「いつまでも、なかよしでいようね」
セリクはララムと手をつなぎ、そっと小さな声でささやきました。
このお話は、これでおしまい。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました♪
ブックマークやお星さま、感想などの応援、すごくすごく嬉しいです!
嬉しすぎて、ゴンザレスみたいにぴょんぴょん跳ねてます♪
本当にありがとうございます!
セリクとララムのその後は、「ヘタレな幼なじみは一途に想う」(全6話)という作品で楽しめます♪
もし良かったら、そちらも読んでもらえると嬉しいです……♪




