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7話

 ぴぃん、と、会議室の空気が一気に張り詰め重くなり、気温が数度下がったような錯覚さえ感じさせる。


「……っ!」


 ガルビスが、椅子を蹴倒して立ち上がり、腰の剣に右手をやった。

 その動きは俊敏、疾風のごとくと表現するのが相応しい素晴らしい動きで、椅子に座っていたというのに一瞬のうちに戦闘態勢に移行し、いつでも切りかかれる状態だった。

 その後ろでは、フランが尻もちをついて息を止めている。

 一瞬の間。

 しかし、この部屋にいる者たちにとっては数秒が数十秒にも感じられるだけの間。


「……もういい、止めていいぞ!」

「っ!?」


 ガルビスの裂帛の声。

 ぱしっと衝撃を受けたかのように真菜はのけぞった。

 張り詰めた空気が雲散霧消する。

 ガルビスは糊で張り付けられているかのように右手を剣の柄から剥がした。

 そのまま部屋を見渡す。

 ややこわばった表情を浮かべる獅子のたてがみの面々と、しりもちをついたフラン。

 獅子のたてがみの面々は、これほどまでとは思っていなかったのだろう。

 けれどもさすがは実戦をいくつも潜り抜けた歴戦のチームパーティ。驚くだけできちんと耐えていた。

 またフランについては、余波だったからしりもちで済んでいたとみるべきだ。威圧を向けられたのはガルビス。

 これがまともに巻き込まれていたら、粗相していても全くおかしくはない。普段から荒くれ者共の相手をして慣れてはいても、現場でしか感じない威圧は、普通に街の中で生きていたらまず縁が無いことだからだ。


「……ふう、とんでもねぇな」


 そう言いながらフランの気付けをして手を引っ張り上げて立たせると、ガルビスは椅子に座った。


「ったく、やりすぎた」

「……すいません」


 さすがに部屋の中の惨状を見て、やりすぎていないなどとは言えなかった真菜は、しゅんと小さくなった。


「……いや、やれっつったのは俺だ。お前が秘めていた力を見抜けなかった俺に原因があるな。前言は撤回しよう、すまなかった」


 確かに、ここでやれと言ったのはガルビス。

 それに従っただけ、と言ってしまえばそこまでである。

 しかし真菜の方もここまでの影響が出るとはまったく思っていなかった。

 完全に予想外だったのだ。


「ふう……あー、やべぇなマジで」

「そうね、すさまじいわ」

「ここまでとは思わなかったぜ」


 我に返ったらしい獅子のたてがみの面々も、浮かんだ冷や汗などを拭っている。


「力自体はヒヒイロカネレベルはありそうだな」

「ヒヒイロカネか……確かにそんくらいはありそうか?」

「うん、ボクもそれくらいは見てもいいと思う」


 ヒヒイロカネレベル。

 冒険者ランクはアイアンから始まり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ヒヒイロカネ、ミスリル、そしてオリハルコンが最高なのだとか。

 オリハルコンをSランクに読み替えると、ヒヒイロカネはBランクに相当する、ということだ。

 ガルビスとて現役の時はミスリルランクまで上り詰めた。オリハルコンランクは国に栄誉を認められるレベルの実績が必要だから、実質はミスリルランクが最高と言っていいだろう。

 真菜に冒険者ランクについて説明したガルビス。彼女をヒヒイロカネレベルと推定したのは、ミスリルランクだった自身に威圧だけであわや剣を抜かせかけた、というところから判断したのだ。


「ギルドマスターガルビスの名において宣言しよう。真菜、お前の冒険者登録は問題ない。登録するランクはアイアンからだが、実力はそれ以上であることも確認した」

「……!」


 なれる。

 冒険者に。

 現実世界では中学生。まだまだ庇護されて生きていくのが普通だった。

 しかし異世界では十二歳から冒険者になれるという。それはつまり、自身の食い扶持を自身で稼いでいけるということ。

 人によっては独り立ちしていることもあるだおる。

 実際にはそんな事例はめったになく、大抵は自分が住む街の冒険者ギルドで登録はするが、家族と住む家に住んでいることがほとんどである。


「あっ、じゃあ、登録料とか……」


 冒険者デビューで頭がいっぱいだった真菜は、思わずそんなことを口にしていた。

 はたから見ても気が急いて落ち着きをなくしているのが良く分かる、そんな有様。

 あれだけの魔力威圧をまき散らしたとは思えない、年相応の姿がそこにあった。

 その姿に居並ぶ面々は大いにギャップを感じていた。


「慌てるな。手続きは下の受付でだ。フラン、任せたぞ」

「あ、はい。では準備だけしてきます」

「ああ」


 真菜の威圧からは立ち直った様子のフランが、ぱたぱたと会議室を退出する。

 しりもちまでつかせてしまったのだが、何事も無かったようで何よりだ。

 まあ、どすんと落ちたのではなく、ぺたんとへたり込んだ、というのが正しいので、大丈夫なのは分かっていたがそこはそれである。


「後で受付のフランのところに行け」

「分かりました!」

「ああそれとだ」

「?」


 嬉しそうな真菜に向かって、ガルビスはひとつ笑った。


「冒険者になるんなら敬語は不要だ。そう、誰かから言われなかったか?」

「言われました……言われた、ゴウゼンさんに。それはギルドマスターに対しても?」

「そうだ。ギルドマスターとしてギルドにいる間なら、そいつが他にどんな肩書を持っていようと敬語はいらん」

「敬語がいらないのには理由があるって言われたけど、それってどういう理由で?」


 さっそく敬語を無くす。形だけはできているが非常に慣れない。

 気を抜くとすぐに敬語になってしまいそうだ。目上の、例えばガルビスなどの、真菜の認識で敬語を使うべき相手には。

 では、何故不要なのか理由を尋ねてみる。

 ずっと気になっていたのだ。

 ゴウゼンも、理由があると言っていた。


「ああ、いくつかあってな」


 まずはひとつめ、それは舐められないようにすること。

 この仕事はどう取り繕おうと実力が物を言うので、虚栄と虚勢、ハッタリも重要なのだ。

 騎士や兵士のように領主や国が後ろ盾にあるわけでもなく、冒険者ギルドは厳密には後ろ盾とは違う。

 あくまでも冒険者は身一つで命をチップに勝負し、身を立てんとするもの。

 そこには自信と自尊心が必要になってくるのだ。それを内外に示すためのものであるという。それは外側に対してもそうだが、何より同じ冒険者に対しての面が大きい。冒険者になるのは行儀がいい者ばかりではないので、舐められるとかなりやりにくくなるとガルビスは言った。

 そしてもうひとつが、指揮系統を見破られないようにすること。

 敬語を使ったりすると、その使われた相手がリーダーであったり大黒柱であったり、といったことが見抜かれてしまうので、それを防ぐためだという。

 もちろんよくよく観察して見抜ける眼力の持ち主が相手であれば永劫隠し通すことなどできない。

 だが、敬語があるとその観察と言う手間を相手にかけさせることなく、パーティやそれよりも大きな集団であるレイドの中心を相手に教えることになってしまう。

 人間相手はもちろん、魔物とて賢い個体や種族はおり、そういったことを目ざとく見抜いてくるのだそうだ。

 それらを解決する方法として、敬語を使わない。

 たったそれだけのことで得られるものは確かに大きい。

 理にかなっていると、真菜は思った。


「今後は気を付けま……気を付ける」

「ああ。慣れんだろうが、こればかりは慣れてもらわんとな。敬語を使うやつもいるが、そういうやつは大抵他人にケチつけられないほどの実績を挙げているな」

「ふうん、そうなんで……だね」


 年上を相手に、敬語を使わず話すことに慣れていないことがまるわかりである。

 真菜にも自覚はあった。ずっとそうやって教えられてきたからだ。

 ただ……敬語を使わなくていい、という冒険者の文化。

 慣れないな、という素直な感想を抱きつつも、それはいいな、とも思っていた。

 日本にいた時、特に中学生になってから顕著だったが、敬語を普通に使えた相手と、心の中で唾棄する相手がいた。

 心から尊敬できる大人相手ならばいい。

 しかし憎しみすら覚えていた相手に対して敬語を使って話すのは、苦痛以外の何物でもなかったのだ。


「俺からお前への話は済んだ。お前の方から特にないなら、フランのところに行って手続きを済ませてこい。それでお前は晴れて冒険者だ」

「分かった。ありがとう」

「ああ。せいぜい稼いでギルドを潤してくれ」


 真菜は一礼すると、ギルドを出ていく。

 さあ、これで冒険者だ。

 真菜はうきうきとする心を抑えきれず、足取り軽く受付に向かって歩いて行った。



 会議室を出て行った真菜の足音が遠ざかっていく。

 残ったのはガルビスと獅子のたてがみの面々のみ。

 実際にゴブリンの群れと正面から相対した彼らと、ギルドマスターとの話である。

 そういう名目であり、それは実際に正しいのだが。

 話題は、今しがた部屋を出て行った真菜のことだった。


「いやぁ、とんでもねぇなあの子。なんだあの威圧」

「あれはちょっと正面から受けるのは勘弁願いたいわね」


 ゴウゼンとアストレアがしみじみと語る。

 余波だけでおぞけが走るほどのものだった。

 あれを真正面で受けたガルビスはいかほどのものか。

 そして、巻き添えを受けたフランが不憫だった。


「ん、あの威圧、相当な負の感情から来てる」

「負の感情か……」


 セリエラの分析に、ガルビスは納得の表情で腕を組んだ。

 なるほど、だからあれほどのものを。

 相当強い感情でなければあの強さにはならない。

 正直、ぽやんとしていると言ったら言い過ぎだが、現実味が無いというか、夢見心地というか。そういう印象を抱かせる少女だ。

 そしてずいぶんと行儀がいい。

 恐らくはそれなりに高度な教育を受けられるところから流れてきた。

 全体的にはそんな印象だった。

 だから試した。大丈夫なのかと。

 ゴブリンを魔術で倒したという報告を信じないわけではなかったが、いざ実際に彼女を見て、本当に大丈夫かと思ったのだ。

 ふたを開けたらあの強い感情の奔流。

 いったいどんな過去を抱えているというのか。

 正直なところ気にはなるが、それ止まりだ。


「あの年で、きっと色々あったんでしょうね」

「まあ、そう考えるのが普通だよなぁ」


 獅子のたてがみの面々も気にはなるようだが、確かめるつもりは無いようだ。

 冒険者ギルドは、どんな過去を抱えていようとも、拒むことはない。

 脛に傷を持ち、まっとうに生きられない者でも食い扶持を稼ぐチャンスを与えられる、文字通り最後の砦。

 そういう扱いに困る民を受け入れてくれる冒険者ギルドだからこそ、ならず者の集団であっても各国ともに排除しようとはしないし、そういった者の中から稼ぎ頭が出ることもあるためギルドとしても人材確保のために来てもらわなければ困る。

 きっと強さのルーツは彼女の過去にあるのだろう。

 ぽやんとしていても構わない。のんびりしていても、多少常識を知らなくても問題ない。

 ああして、やるべき時に力を発揮できるのなら。

 ガルビスとしては、自身の娘のような年頃の少女が、いたずらに死ぬことはなさそうだと思えただけで十分だった。



「真菜さん、お待ちしてました」


 フランのところを訪れると、どうやら準備はあらかた終えていたようだった。

 笑顔で迎えられ、真菜はひとつ頷く。

 どうやら先ほどの威圧に巻き込んでしまったことは、特別しこりというか蟠りにはなっていない様子で、真菜としては一安心だ。

 今後ともこのギルドを使っていくのだ。

 そういうのは無い方がいい。

 が、それはそれとして謝っておくべきだろうと、謝罪の言葉を口にする。


「うん、お待たせ。それと、さっきは巻き込んじゃってごめんね」

「気にしないでください。あれはギルドマスターが考え無しだったんですから」


 それは本人も認めていたところではある。

 巻き込んでしまったことは、真菜にとっては大きな課題だ。

 ただ、それを見つけられたことはとても良かったことだと思う。

 それもこうして早い段階で。

 まだまだ魔法については分からないことばかり。

 けれども、勉強と違って魔法について考えるのはとても楽しい。

 幼い頃、魔法が使えないか、空が飛べないかと、日曜朝の少女向けアニメを見ながら思ったものだ。それが今、十年近いインターバルはありながらも叶いそうなところに来ている。

 ワクワクしないわけが無いのだ。


「さて真菜さん。こちらが、真菜さんの冒険者ギルド証となります」


 差し出されたのは鉄で出来たタグ。

 ゴウゼンたちも持っていた冒険者のギルド証だ。

 ランクが上がれば次はブロンズランクなので銅になり、その次はシルバーランクで銀のタグになり、と続いていくわけだ。


「こちらの記入をお願いします」


 順番が前後しているらしいが、まあ問題ないとの事。本来はこれに書き込んでからタグを受け取るらしい。

 名前と年齢、種族、職業を記載する用紙。

 異世界の言語なので一瞬不安があったが、すらすらと書けたのはアルヘラの知識があったからだろう。

 それをフランに手渡すと、冒険者ギルドについて教えてもらう。

 依頼の受け方、報酬の受け取り方、簡単な規約に心構え。

 それからランクによって大体どのような目で見られるかなど。

 アイアンランクが駆け出し、ブロンズランクが脱初心者、シルバーランクが一人前、といったところのようだ。

 真菜の世話を焼いてくれた獅子のたてがみはプラチナランク。実力派として名前を売っている冒険者とのことだ。

 そういった話をふんふんと聞いていると。


「おいおいフランちゃん、さっきから黙って様子見てりゃあ、そんな小娘が冒険者になるってのかよ?」


 後ろからそんな声がかかった。

 なんとなく嫌な視線が向けられていることには気付いていた。そちらをみてはいないが、そんなことに気付けるほど感覚が鋭くなったことに驚きもありつつ、まあ構うとろくなことがなさそうなので無視していた。

 ついに我慢できずに突っかかってきたようだ。


「ゴンゾさん、彼女はギルドが正式に加入を認めた冒険者ですよ」

「はっ! そんなガキを認めるなんざ、いつの間にこの街のギルドの質は落ちたんだよ! なあ!?」


 その言葉に真菜は振り返る。

 すると、そこかしこで嘲笑が上がっていた。

 もちろん、ギルドにいる冒険者たち全員が笑っているわけではない。

 興味深そうにしている者、迷惑そうにしている者、真菜に同情的な者。

 多々いるが、誰も彼もゴンゾとやらを止める気はないようだ。


「それはギルドに対する不服ですか?」

「そんな大それたもんじゃねぇよ! けどよ、そんなガキがギルドにいるってんで、舐められると困るんだよなぁ。ここは託児所じゃねぇんだからよぉ!」


 笑い声は止まらない。

 フランははあ、とため息をついた。

 彼女のリアクションで何となく察する。どうやらゴンゾは問題児らしい、と。

 いやはや面倒くさい。関わらないに限る。無視だ無視。ここは華麗にスルーして、自分のことをきちんとコツコツとやるんだ。

 そう、頭の中で冷静に考えながら。

 真菜の身体と口は、勝手に動いていた。


「その口に、実力が伴っていればいいけどね」

「あ……?」


 まさか反応が返ってくるとは。

 そして、その反応があろうことか罵倒だとは。

 ゴンゾも、彼に乗っかってはやし立てていた連中も思わなかったに違いない。

 真菜も驚いていた。

 そんなことを言う気はなかった。

 けれど、身体は勝手に動く。

 ……いや、認めよう。身体が勝手に動いた、なんて逃避したことは。

 衝動。

 条件反射。

 そうとしか言いようがないのは間違いないが、けれども自身を害そうとする言葉に身体が反応していた。

 どうやら真菜が思っている以上に、敵意、というものに敏感になっているようだった。

 それが、冗談の色を含んでいたとしても。

 馬鹿なのかわたしは、と己を罵倒しつつも、もう止まらなかったし、止める気も無いのだから度し難いものである。


「クソガキ、今なんて言いやがった?」

「喚いて騒ぐだけなら猿でもできる、って言ったの」

「てめぇ!」


 文言は全く違うが、意味は全く同じ。

 それに気付いたゴンゾは椅子もテーブルも蹴倒して立ち上がっていた。

 顔が真っ赤なのは、直前まで飲んでいた酒のせいだけではあるまい。


「フランさん、冒険者同士の私闘はダメなんだよね?」

「ええ、規約で禁じられています。これを破った場合、高確率で冒険者の資格はく奪になります」

「もめ事の決着方法のひとつに、ギルド立ち合いの元行われる決闘がある」

「……その通りです」


 ギルド立ち合いの決闘。

 もめ事が起きた際の解決方法。

 これの結果はギルドにきちんと認知され、勝敗に異議を唱えることは許されない。

 つい先ほど説明したことだ。


「……やる? 決闘」

「いい度胸だ小娘がっ! アイアンランクの分際でこのゴンゾ様に喧嘩売ったこと、後悔させてやる!」

「賭けるのは全財産。それでいいよね?」

「……上等ォ!」


 受けると言った手前引けなかったのだろう。

 自分が馬鹿にした子供が、全財産を賭けて勝負するか、と言い出した。普通に考えて、ギルドが立ち会う決闘でここまでの条件ははっきり言って破格もいいところ。普通は条件まで含めてギルド側が取り決めるからだ。

 しかしもう、真菜が提案し、ゴンゾが受けてしまった。これだけ騒ぎになってしまっては、ギルドが介入すべきかどうかも微妙なところだ。

 そして馬鹿にした側であるゴンゾに逃げ道はない。この勝負を受けなければ、明日以降、このギルドにいることはおろかアストレルの街さえ歩けない。

 一瞬の間があったことが、ゴンゾが反目などされるわけないと考えていたことを如実に示している。

 もちろん、真菜自身、ここまで反目することを想定していなかったのだが。


「というわけでフランさん。わたしは今からでもいいよ?」

「困りましたね……。ここまで進んでしまっては……一晩おいたりしませんか? ほら、真菜さんは今冒険者になったばかりですし」

「魔物は一晩待ってくれたりしないでしょ?」


 その通りである。先ほど冒険者の心構えとして、いつ命をかけた戦いになるか分からないので備えるように、と話をしたのはフランの方だ。

 それは街の外にいるときの話であって街中は安全だから……そんな理屈などもはや無用の長物。

 もう止められないことを、フランは悟った。


「……分かりました。では調整をしてきますので、お二方ともしばらくお待ちください」


 フランは諦めた様子で裏に引っ込んでいった。

 取り残された真菜とゴンゾ、そして傍観していた冒険者たち。

 険悪な空気が漂うが、勝手に戦いが始まることはない。また、片方が逃げ出すことも無い。後は事態がギルドによって進められるのを待つのみ。

 既に決闘の話をしているのだ。

 ギルドの目が無い状態で先に手を出すか、怖気づいて逃げ出すか、そのどちらも。

 勝負を受けなかったときと同様街にいられなくなってしまう。

 後は、フランが戻ってくるのを待つのみなのだ。


「……クソガキが。謝ったって許してやらねぇぞ」


 真菜はカウンターに備え付けられていた椅子に座ってゴンゾに背を向け、彼の言葉をさっくりと無視した。場はじきに用意されるだろう。そこで決着がつくのだ。もうこの場所でゴンゾを相手にする意味はない。

 普通の子供ならすくんでしまうほどの眼光で真菜の背中をにらみ続けるゴンゾと、それを無視し続ける真菜。挑発の応酬。

 決闘は始まっていない。

 しかし盤外の戦闘は既に始まっており、二人の間に見えない火花が散っていた。

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