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12話

「なるほどね。内と外から、というわけ」


 そう言いながら、真菜は遠慮なく両者の間に氷の杭を撃ち込んだ。

 生徒たちには当たらぬようにしつつ、その逆に兵士は巻き込んでも致し方なしという感じで。

 特別に魔力の隠蔽などをしなかったからか、四人の兵士たちは全員が後退して氷の杭からは逃れた。

 真菜はそのまま、地面に突き立った杭の上に降り立った。


「……子ども?」


 兵士たちは真菜の姿を見て訝しむ。

 見た目でそうなるのは良く見た光景。

 話に聞いていないのだろうか。

 情報収集出来ていないのだろうか。

 暁が、非常任講師をしていることを。


「よく頑張ったわね」


 生徒側は六人。

 兵士たちは四人。

 よく耐えた、といっていいだろう。

 襲撃を受けてから合流したのか、或いは合流していたところに襲撃を受けたのか。

 どちらにせよ、よく耐えた、といえるだろう。

 人数で勝っているとはいえ、これから世の中に出ていく雛と、兵士として働いているプロ。

 四人もいれば兵士たちの方が勝るのは当たり前の話だ。

 これが兵士側が一人か二人なら、生徒たちでもどうにかなった。

 だが、そうだった場合兵士たちも生徒との戦闘は避けていただろう。

 勝てる算段がついたから襲撃したに違いない。

 事実、生徒たちは全員がギリギリだった。

 よく頑張った、というのは本心。

 全員が帝国民の生徒だ。

 ここに日本人が関わっていたらどうなったか。

 人と殺し合うことも理解して覚悟している帝国民と、人と戦うことを頭で分かっていても殺し合いの覚悟まで済んでいるかは分からない日本人たち。

 もっと悪い結果になっていたかもしれない。


「さて……」


 突然の闖入者。

 そして、高さ二メートルにもなる巨大な氷の杭。

 地面に刺さっている部分も含めたらもっと大きくなる。

 それだけの魔術を放った正体不明の少女。

 兵士たちが警戒するのも当たり前である。

 ただ。


「逃がしはしない。さようなら」


 真菜が言うと同時に右手を真横に払った。

 ずぱん!

 前衛二人の首が同時に刎ね飛ぶ。

 頭が無くなった胴体はぐらりと揺れ、地面に倒れた。


「な……ひっ!?」


 驚き怯んだ残りの二名の目に、手のひらを向けている真菜の姿。

 それは死の宣告。

 直後、彼らの胸の真ん中に、火矢で風穴を空けた。

 問答無用である。

 当然だ。生徒を襲ったのだから、真菜からすればどのような理由があろうと明確な敵である。

 理想を言うなら、捕まえるのが一番いい。

 真菜は一人で動いているのだから、彼らを捕らえるつもりなどない。

 捕らえた相手を連れ回すのは御免だし、陣地に連れて帰る余裕もない。

 なれば、ここで仕留めておくのが一番いい。

 生徒たちはその光景を見て呆然としていた。

 死の覚悟をしつつ、一縷の望みにかけてどうにか煙幕を放ったのだ。

 その危険が一瞬で払われてしまった。

 これがミスリルランク冒険者。

 いっぱしの兵士四人を鎧袖一触、躊躇なく殺害したばかりか、全員に即死攻撃を百発百中というおまけつきでだ。

 圧倒的な力の差が無ければできないことである。


「全員、大きなけがはしていないようね」

「は、はい」


 見た目は年下だが、もはや真菜を侮る者はいない。

 大ダメージを受けないよう我慢して耐えて耐えて、助けが来るのを待った。

 そうしたら、一瞬で救われてしまった。


「なら、私が来た方向に向かって一目散に走りなさい」


 ちょうど、真菜の視界に赤い煙が点に向かて上がったのが見えた。

 真菜は自分が来た方角を指さす。


「ここを一直線に走り抜ければ、教師のテントにたどり着くわ」


 そこは安全圏だ。

 生徒たちにはそこに向かって行って欲しい。

 ついでに真菜は六人に向けて、アズが開発した信号弾の魔道具を投げ渡した。

 これは予備だ。動作不良を起こした製品や、こうした不測の事態の際に使うためのもの。


「戻る間に襲われたら使いなさい。躊躇はしないように」


 教員たちも手いっぱいだ。

 なのだが、あえてそんなことは告げない。

 そこをどうにかするのが教員たちの仕事なのだから。

 そしてそれは教員たち以上に暁に求められていること。

 引き受けたからにはプロとして、ミスリルランクとしてこなさねばならない。

 有事には最善と全力を。誰よりも優れた働きを求められる。

 だからこそ有事以外はのんびりと生徒たちの様子を高みの見物できたのだ。


「わ、分かりました!」


 魔道具を受け取ると、彼らは一目散に去っていった。

 気配が遠ざかっていく。

 森歩きには慣れていなさそうではあるが、それでも必死に移動していることが、気配察知でも伝わってくる。

 彼らを見送り、真菜は次の信号に向けて即座に移動を開始する。

 つい先ほど上がった煙の場所に到着すると、一人が腹部に大きな裂傷を負って倒れている。

 残り二人で、三人の兵士を相手にどうにか踏みとどまっていた。

 もう限界そうだ。

 真菜は割り込むのを諦め、即座に攻撃を開始した。

 左手の指先を兵士の一人に向け、熱線を放つ。

 こめかみを撃ち抜かれ、即死。

 一人が少しゆらめき、ぐらりと斃れた。


「なっ!?」

「おい、どうし……はっ!?」


 真菜は木々の間から大きな音を出しながら飛び出す。

 生徒たちを襲う狼藉の注意を引き付けるためだ。

 虚をつかれて動きを止めた二人の兵士に向かって、ジグザグに走りながら迫る。

 接近戦は主体ではない。

 アリスとアズには及ぶべくもない。同じ土俵で戦えば数分と耐えられまい。

 だが、接近戦ができないとは、言っていない。

 走りながら杖を真横に翳し、指先を柄に沿って走らせると、杖が大剣に早変わりした。

 杖が長いため大きさは大剣そのままだが、重さは杖のままである。

 真菜は兵士たちに肉薄すると、そのまま軽快に横一閃。

 一人は盾で、一人は剣で防ごうとしたが、それらも一緒くたに胴を真っ二つにぶった切った。

 大剣を解除し、真菜は怪我をした生徒に走り寄った。

 呻く女子生徒を見て、彼女がまだ生きていることを確認。

 傷口は深いが範囲が狭い。重傷には変わりないが、これならば十分に助かる。

 ポーチから布を取り出すと、彼女にくわえさせた。猿轡のようになってしまったが、これも必要なことである。

 続いてポーションを取り出し、傷口にぶっかける。

 沁みないはずがない。目から涙をこぼしながら声にならない悲鳴を上げる女子生徒を無視し、更にもう一本。

 あまりの痛みにぐったりとしてしまった女子生徒だが、これで応急処置としては十分だろう。

 彼女の腹部に包帯を巻き終えてから、振り返って残り二人の生徒の目を見つつ、真菜は森の一角を指さす。


「この先に向かって一直線に走りなさい。教師たちが待っているわ」

「待ってる!? 俺たちを助けに向かってるんじゃないのかよ!?」

「つぅか、あんたが連れて行ってくれよ!」


 ギリギリの、思いがけず訪れた生死がかかった状況に気が動転しているのか、彼らは声を荒げた。

 居場所を教えるようなものだが、仕方あるまい。

 そのしりぬぐいも、真菜の仕事である。だからこそ高い基本給を受け取り、更に個別の案件に応じて手当まで出ているのだ。

 想定外の出来事への対処料も含まれているわけである。


「わたしにはまだやることがあるわ。あなたたちみたいな生徒はそこかしこにいるのよ」


 それに、教師たちも息も絶え絶えになりながらも駆けずり回っていることだろう。

 教師が陣取るテントに残るのは、必要最低限の人数のみなのだ。

 余剰など一切なく動いている。

 魔物ではなく人間から襲われてなお、こうして抗うことができたのは賞賛に値する。

 怪我をしたのが一人である、ということも。


「よく頑張ったわ。後少し、頼むわね」


 そう言いながら魔道具を投げ渡す。


「何かあったらそれを使いなさい。どうにかして誰かが駆けつけるわ」


 真菜は答えを待たずに更に次に向けて走り出す。


(わたしたちがこの森から撤退した後に、潜んだようね)


 森の外にも敵がいることは知らされていた。

 そしてそれについては真菜たちも含め、学院側は一切対処しなくてもよかった。

 何故か。

 帝国が誇る八帝剣の一人が皇帝の勅命で派遣されており、森の外の敵に対処することになっていたからだ。

 いっぽう、森の中……生徒たちがいる場所について主に対処するのは教師たちだ。

 八帝剣も戦力としては十分に活躍が見込めるが、彼らは斥候などの技術は持っていない。

 当然だ、彼らに求められるのは圧倒的な武力であり、潜んでいる敵を見つけ出すこと、森の中の歩き方ではない。

 現在、真菜は六人の兵士を斃している。

 実際何人いるのかは分かっていない。

 ただ、十数人、というわけではあるまい。

 少なくとも百人近く、森の中に潜んでいるのではないかと真菜は思っている。

 しらみつぶしに探して叩き潰していかないととてもではないが間に合わない。

 生徒たちに犠牲が出てしまっては遅いのだ。


「ゼロにするのは……厳しいでしょうね」


 死者ゼロ人、という結果を目指す真菜ではあるが、それの実現が非常に困難であることも分かっている。

 あくまでも理想論。

 現実を理想論通りにできるのならば誰も苦労はしていない。

 そんな楽観的で夢見がちではやっていられないのが冒険者である。

 ただ、犠牲となる人数をできるだけゼロに近づけること。

 それは目指すべきものであり、当然真菜もそれを目標にしている。

 次から次へと上がる赤い信号を点々としながら、生徒たちを救出し、敵兵士を殺して回る。

 いったいどこの誰が送り込んできたのか。

 それは分からないし知るつもりもない。その調査をするのは真菜たち暁の仕事ではない。

 ただ分かっているのは、間違っても生徒たちでどうにかできる相手ではないということ。

 一刻の猶予も、なかった。


「わたしにできるのは一人でも敵兵士を減らすこと……ねっ!」


 森の中で周囲を警戒する敵兵士三名を見つけたので、問答無用で切りかかる。


「なんだきさ、ぎゃっ!」

「うわっ!」

「けへっ」


 三人を仕留めた。

 彼らの近くには、殺されてしまった生徒たちが血の海に沈んでいた。

 一人が日本人、二人が帝国民だった。


「……間に合わなかったわね」


 仕方がない。

 そういうこともある。

 埋葬してやりたいところだが、今はそんな余裕もない。

 真菜はさっと気持ちを切り換え、救えなかった生徒の無念の分まで他の生徒を救うべく、即座に次の場所に向けて移動を開始した。


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