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8話

「くそ、なんなんだありゃあ!」


 野島はギリッと歯をかみしめると、自分のカバンを蹴り上げた。

 彼の脳裏に浮かぶのは先ほどの模擬戦だ。

 はっきりと思い出せる。

 二人がかりで手も足も出なかった。

 まず切りかかった竹山だが、剣を足で踏みつけられて止められた。

 竹山の動きが一瞬止まったことを真菜は見逃してくれなかった。

 追撃せんと流れるように杖を振りかざしたので、慌ててファイアボールで止めにいった。

 習いたての魔術、その割には会心の一発を撃つことができた。

 巻き込まれないよう。竹山が剣を諦めて距離を取る。

 狙いも完ぺき。確かに真菜に到達した。

 だが、あの少女は魔術で迎え撃つでもなく、左手で回りを飛ぶ羽虫を払うかのようにファイアボールをはじいたのだ。

 そしてその光景に目を奪われた瞬間、突風で吹っ飛ばされてしまう。

 あれが攻撃魔術だったなら、と思うと背筋がゾッとすると同時に、子供の用にあしらわれたことにいら立ちが募る。

 ……自分ならどうか。

 ファイアボールを撃たれたら避けるか迎撃するか。恐らく避けるだろう。

 同級生で撃たれた魔術を弾くことが出来る者がいるか。

 帝国の高位貴族、侯爵家令息や伯爵家令嬢などの英才教育を受けている生徒ならばできるかもしれない、程度だ。


「ありゃあやべぇな」


 竹山はあの時のことを思い出し、すぐに首を左右に振った。

 自分がマジメなイイコではないことは分かっている。

 喧嘩の回数は少ないが、その寸前になったことなど数知れず。

 そうやって我を通してきた。

 一触即発になった経験はあった。

 しかし、あの真菜の度胸というか態度というか貫録というか。

 とにかく空恐ろしいものだった。これまで相対してきた不良などは持っていなかった。アドレナリンが分泌されていてもなお、凶器を持ち出された時に発生する恐怖心はぬぐえなかったというのに。

 はっきりいって格が違う。

 威嚇するのでも恫喝するのでもない。

 刃引きしてあるとはいえ、ナイフや鉄パイプよりも殺意が高い鉄の塊や、火の球という自身を殺しかねないものを前にして、あの自然体。

 喧嘩慣れしているとか暴力にが身近にあるとか、そんなレベルではなかった。

 うまく表現する言葉が見つからないが、やばい、ということは分かった。


「はあ……利用するのは無理だな、ありゃあ」


 竹山は疲れたようにごちた。

 それを聞き、野島も大きくため息をついてどすんとその場に座り込んだ。


「そうだな……」


 仕方なし。

 野島もそれは分かっていた。

 あれは手を出してどうにかなる相手ではない。

 にらみつけて壁際に追いつめて囲ったくらいでどうにかできる相手ではない。

 野島と竹山が十人ずついて、二十人で囲ったとしても、誤差というレベルに違いない。

 彼女にたばこについて相談というのは悪手。


「まあでも、今のうちに分かって良かったかもしんねぇな」

「ああ、そりゃあそうか。やらかしてからじゃ手遅れだったよな」


 先日までの彼女を舐めていた自分たちだったならば「たばこをツテでどうにかしてくれよ」なんて詰め寄って。

 拒否された場合は力づくでいこうとしていたのは事実。

 そして、なすすべなくあっさりと返り討ちにあって報告される。

 今日は模擬戦という教導の場だったのでかなり加減されていたが、これがこちらを取り押さえるとなったらもっと手荒になっていたのは間違いないだろう。

 場合によってはそのまま捕縛されて方々に連絡が生き渡って退学処分、日本に強制送還になる可能性が高かった。

 たばこを吸えないのもしんどいが、さすがにここから強制排除される方が竹山と野島にとってはダメージが大きい。


「……しゃあねぇ。我慢するしかねぇな」

「ああ……しかししんどいな、どうすっか……」


 手に入る想定だったものが手に入らない。

 それは想像よりもきつく感じるものだった。

 こうなった以上は代替となる何かを見つけるしかない。

 物でもなんでもよかった。


「そうだなぁ……何か探すとしようぜ」

「ああ……」


 口寂しさを感じながらも、彼らは何かを探そうと考え始める。

 やがて見つけたものが真菜の琴線に触れるものだったとは、今の彼らには知る由もないのだった。



 最初の模擬戦闘から二週間が経過した。

 あれからは週一回か二回のペースで模擬戦の実習授業があった。

 授業を受けている日以外は依頼を受けたり自身の好きなことをしたりと気ままな日々。

 仕事をしてもいいししなくてもいい。すべての選択の自由は自分にあり、その選択の結果はすべて自分で責任を負う。

 これぞ冒険者。責任を代償に自由を手に入れられる仕事の醍醐味というところだ。

 真菜は魔法と魔術の修行と勉強。

 アリスは武術の修行と貴族としての務めを果たしたり。

 アズは借りた家の工房でひたすら錬金術に励んでいる。

 非常勤講師は数年単位で続きそうという観点から、ホテルに滞在するよりは家を借りた方が安くつくという結論に至った。

 一番の理由はアズが「自由に錬金ができる家がいい!」と要望したことだが。

 そう言いだすことは分かっていたので、真菜もアリスも賃貸物件にすることに異論はなかったのである。

 そんなある日、真菜たちはブリュンスタッドに呼び出され、学園長室に来ていた。


「本日来てもらったのはほかでもない。パーティ暁に、依頼を出したくての」


 ブリュンスタッド・レンドラットは真っ白の長いあごひげを撫でつけながら三人を見渡した。


「依頼ですか。それは冒険者に対して、でございますか?」


 非常勤講師としての仕事ならば、頼み事、などの言い方になるだろう。

 それに対して勤務手当が払われる、という形だ。

 しかしブリュンスタッドは依頼と言った。

 即ち冒険者に対しての仕事であると読み取れる。

 だからアリスはそう確認したのだ。


「うむ、その通りじゃ」


 内容はそう難しいものではない。

 十日後に行われる探索実習の授業。実施されるのはリンクバーグから馬車で三時間ほどの場所にある森。

 そこに踏み入って度を越した危険が無いかを事前に調査し、何かあれば安全確保を行って欲しい、というものだ。


「期間はいかほどを見ておられますの?」

「うむ。一週間前後じゃな」

「なるほど……次の模擬戦の授業には間に合いませんが、そこはどのように?」

「問題ない。もともと課外授業間近じゃからな。生徒の疲労が少なくなるよう調整されておる」

「かしこまりました」

「報酬はギルドの依頼の平均よりも多く支払い、更に現地での活動報告を見て適宜上乗せするとも」


 その辺り、ガウディノールから言い含められているのだろう。

 皇帝が直々に雇い入れたパーティなのだから、厚く遇するように、という感じか。

 アリスはちらりと真菜とアズを見て。


「では、引き受けさせていただきますわ」

「そうか、助かる。この街にいる冒険者にとっては旨くないようでな。稼ぎ目的で立ち入る者は稀じゃ。だからこそ探索実習で使えるのじゃが」


 定期的に見回っているし、時折冒険者も立ち入り大体の様相は判明している。

 そこに表れるのはゴブリンやスライム、コボルトといった初歩の魔物がメインだ。

 それなりに広いため見回りや冒険者の探索でも網羅しきれず、ごくまれにオークが棲みつくこともあるようだ。

 授業の進捗からいって、小さいリスクで倒せるのはゴブリン等初歩の魔物がせいぜいであろう。

 真菜もアリスも、もちろんアズも同じ見解である。

 森までは馬車で片道三時間。徒歩では当然それ以上かかると聞く。

 この森が活動場所としてちょうどいい冒険者の懐事情では馬車を用意する余裕などない。

 必然徒歩で森に近づき、泊りがけでの仕事となる。

 そうでないとシンプルに割に合わないからだ。

 そのためこの森には、冒険者たちが野営で使うための拠点跡がある。

 それなりの頻度で使われる小屋があり、その周囲は簡易な柵で覆われていた。

 森の前にたどり着いた真菜たち一行は、馬車を中心に拠点を築き上げる。

 そこには先客もいるようで、駆け出し冒険者パーティが各々作業をしていた。


「ん? あんたたちは……」


 声をかけてきたのはアリスと同じくらいの歳の頃の少年。

 馬車を見て一瞬妬ましそうな表情を浮かべたものの、それが示す自分たちとの差を認識したのか、すぐにそれをひっこめた。

 彼らからすれば、自分たちは歩きで来たのに、こんな駆け出し冒険者御用達の森に、馬車を使えるほどの高ランク冒険者が何の用だ、といったところか。


「わたしたちはパーティ暁よ」

「暁ってミスリルランクの……!?」


 ミスリルランク。

 情報の大切さを少しでも理解していれば、各地にいるミスリルランクのパーティ名くらいは普通に知っているものだ。

 ミスリルランクとは、そういうものなのである。

 小屋の中にいたらしい三人の少年が、その声に驚いて出てきた。

 彼らはリンクバーグを拠点にして活動している冒険者パーティなのだろう。

 そんな彼らから伝わってくるのは焦りの感情。

 ミスリルランクの冒険者がこんなところに来たら、彼らにとっての貴重な獲物は軒並みかっさらわれてしまう。

 大げさでもなんでもなく、それほどの殲滅力が真菜たちにはあるのだ。


「心配しなくてもいいわ。わたしたちは討伐に来たわけではないもの」

「討伐じゃない……?」

「ええ。森の調査よ。襲われたら撃退するけれど、積極的に狩りをする予定はないわ」

「俺たちの獲物は減らないってことか?」

「そうね。あなたたちの邪魔をするつもりはないわ。わたしたちも仕事があるからそんな暇もないしね」


 それを聞いて安心したのか、彼らは安堵のため息を吐いた。


「わたくしたちもここを拠点にしますわ。三人のうち一人を防衛に残します。基本そちらの仕事に干渉しませんが、いざというときは協力して万一に備えましょう」

「それはこっちにとっても願ったりだ」

「決まりですわね」


 彼らからの同意を得て、アズが拠点防衛に必要な道具の選定を始めていた。

 錬金で出来上がった道具を試す場でもある。そこそこの出費ではあるものの、いつものことだし効果は折り紙付きなので、真菜もアリスも既に承知していることである。

 この拠点は駆け出しの冒険者たちにとっても大事なものだ。

 それを守るのは、ランクは違えど同じ冒険者としてやぶさかではない。

 それに、今回は真菜たちも利用させてもらうのである。

 協力して何がおかしいというのだろうか。


「それじゃあ、アズ。馬車番はあなたからですわ」

「よし、任せとけ」


 一日交替でここの守りを交代する手はずになっている。

 何もなければただここでのんびりとしているだけ。

 もちろん何かがあれば防衛に全力を尽くすことになるが。

 まあ、ゴブリンやスライム、コボルトがいくら出てきたところで、一人いれば十分だが。

 オークが仮にいたとしても同様である。


「じゃあ、お願いね。わたしとアリスは先に森に行くわ」

「おう。行ってこい」


 既に拠点は作り終えている。

 アズが錬金した魔物避けを始めとした道具の配置も済んだ。

 到着して早々慌ただしくはあったが、真菜とアリスは森に向かうのだった。


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