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1話

タイトルを変えました。旧題「アンデッドに生まれ変わった少女~異世界ではもう遠慮はしません~」

 三人の娘たちが戦っている。

 黒髪の小さな魔法少女真菜。

 金髪碧眼、ドレスアーマーを着込んだ槍使いの少女アリス。

 褐色肌に銀髪のダークエルフの闘士アズ。

 強大な魔物で、人間動物魔物問わず数多の生物から恐れられるハンターのワイバーンだが、今は哀れ狩られる側だ。

 魔法で吹き飛ばされ、槍で貫かれ、トンファーで殴られ、次々と屠られていく。


「アリス、そっちはどう?」

「ええ、だいぶ片付きましたわ。アズ、貴女はいかがですの?」

「アタシの方も終わったぜ」


 彼女たちの周りにはワイバーンの死骸が無数に転がっていた。

 三十体はあるだろうか。

 血の臭いが充満している。


「うーん、大漁大漁。真菜、アリス、忘れんなよ?」

「もう、くどいですねわよ。魔石と心臓五個ずつと確保できるだけの血液。確実にアズの取り分としてとってありますわ」

「へっへ、忘れてなきゃいいんだ」

「逆に聞くけどアズ、それ以外は本当にいらないのね?」

「ああ。その三つがありゃあ鱗も皮も爪も牙も、それ以外の内臓も、全部お前らにやるよ」


 血液はともかく、魔石も心臓も決して安値ではない。しかしそれ以外の素材を全てもらえるとなると、売却額に換算した場合の配分は明らかに真菜とアリスが大幅に多くなる。

 しかし、一見そんな不公平な分配こそが望みと言わんばかり。


「ワイバーンの素材はめっちゃ助かるぜぇ」


 アズはほくほく顔である。

 ワイバーン。

 単体でヒヒイロカネランクの魔物。それが対多頭となると、ランクはミスリルに上がる。

 食害はもちろん、家畜も襲う人間の天敵。それどころか魔物や動物たちにとっても天敵だ。

 身体も大きく大食い。

 一頭いるだけでも周辺に、そんな大物が三十頭だ。

 家畜や領民への被害のみならず、周辺の自然の生態系が崩れることを懸念した領主が討伐依頼を出したのだ。

 生態系が崩れると、小さな小さなほころびが自然界に積み上がり、その積もり積もった負債を引き受けさせられるのは人間。真菜たちに依頼を出した領主は、そこのところをよく分かっているということだ。

 これで依頼は完了。

 そろそろ帰還を考え始めたところで、真菜が立ち止まる。


「あら、どうしましたか?」

「早く帰ろうぜぇ。あたしはやらなきゃいけない実験に調査に調合と作業が詰まってんだ」


 アリスは疑問を、アズは不満を口にした。

 それに対し真菜は。


「……大物が近づいてきてる」


 その一言ですっとアリスは目を細め、アズは尖らせていた唇をもとに戻した。

 真菜が指さした空。

 そちらに小さな黒い点。

 それが徐々に近づき大きくなる。

 現れたのは赤紫色のワイバーン。

 真菜たちが倒した三十頭のワイバーンはいわゆる原種。緑色だ。

 つまり。


「ワイバーンの亜種ですわね」

「亜種! そうか、あれが頭だから三十頭が喧嘩せずに一緒にいたわけか」


 そう、ワイバーンはコロニーを形成して集団生活をする魔物だが、三十頭がひとところに集まるなどまず起きない。

 大喰らいであるワイバーンは、多数がそこに集うと周囲の餌が足りなくなる。

 故に、ひとつのコロニーは多くても十頭前後というのが常識だ。

 三十頭もいる異常事態については、ワイバーンの原種を亜種が統率していたからと考えれば納得できる。

 赤紫色のワイバーンは、自身が従えていた子分が全て殺されていることで、その犯人である真菜たちに怒りを向けていた。

 ワイバーンの亜種ともなれば、その強さは最低でも単体ミスリルランクに匹敵するが、真菜たちに動じた様子はない。

 むしろ。


「貴重な素材が向こうから来てくれるってんなら、帰るのが遅くなるのも文句はないさ。ありがたくちょうだいするとしようぜ」


 アズはがつんとトンファーを打ち合わせ、すっと腰を落とす。


「あなたからすればそうなるのでしょうね……」

「やる気があるならいいわ。あれも狩るわよ」

「ええ。姿を見た以上放置などありえませんもの」

「当然だ! 素材は逃がさねぇ!」


 数分後。

 真菜たちの前にはワイバーン亜種の死骸が転がっている。

 普通のワイバーンよりは一回りも二回りも強いのだが、それでも所詮ワイバーンである、

 かつて読んだ物語では、ワイバーンから辛くも逃げ切った主人公が、この難関を乗り越えるために修行に勤しんでいる描写があった。

 それくらいには大きな壁として認識されているのだが。

 真菜たちからすれば、原種のワイバーンも亜種のワイバーンも、変わらないというわけだ。


「さて、はぎ取って帰りましょう」

「うん」

「おう」


 ワイバーンの原種も含め、すべての素材をマジックバッグにいれていく。

 これは真菜のものではなく、パーティで用意した素材改修用のマジックバッグだ。

 容量はかなり大きいものを選んだので、都合三十一頭のワイバーンの素材も問題なく全て納めることができた。

 これで後は報告を追えれば依頼は完遂だ。

 三人は後始末を終えると、その地を去るのだった。



 ワイバーンのコロニーを潰し、ワイバーン亜種を仕留めたのが数日前。

 割のいい仕事だったのでかなりの収入があったため、一週間ほどオフを設けることにした。

 二日間ほど、依頼で疲れた体と精神を休め、休日三日目。

 真菜は帝都グラングレイブを訪れていた。

 普段真菜が拠点としているのは、帝都から馬車で半日ほどの距離にある衛星都市、グランザラードである。

 百万都市の帝都に比べ数万人という規模の街だがこちらの世界では充分大都市。帝都が桁違いに大きなだけだ。


「特に用は無いのよ? ただぶらぶらするだけだもの、付き合ってもらわなくても良かったのに」

「それこそ望むところですわ。わたくしとて時間を持て余していましたのよ」

「そう? アズは引きこもっていたけれど」

「それはいつも通りですわ。好きなだけやらせればよいのです。そうすれば次の仕事もご機嫌で取り組んでくれますもの」

「まぁね」


 横を歩くアリスが屈託なく微笑んだ。

 本人がいいならいいかと、真菜は気にせず歩くことにした。

 目的地などない。ただ思うがまま、ふらふらと足が向くに任せて歩くつもりである。

 ぼんやりと歩きながらなので、とりとめのない思考が頭の中を右に行ったり左に来たり。

 真菜が日本から異世界に来て二年が経過した。

 最初に到着したダルダリアス王国の街アストレルで冒険者になり、ザングレイブ帝国に住居を移してからも冒険者活動は精力的に行った。

 楽しかったのだ。良くも悪くもこなした仕事の成果と実力で評価される冒険者という仕事が。

 ウザい、キモいといった、具体的な良し悪しも分からない言葉で自身の尊厳を虐げられていたからこそ、真菜は余計にそう感じていた。

 夢中になって依頼を受けて冒険を続けていたら二年が経っていて、冒険者ランクがミスリルになり、仲間ができていた。

 異世界で過ごした時間を表現するのならそんな感じである。


「へえ、綺麗ね。おじさんこれちょうだい」

「あいよ」


 露店で見つけた小鳥をかたどったヘアピンを買う。

 偽物、質が悪くても構わない。ただ何となく買っただけだ。


「値切りもしねぇのか。カモられんぞ?」


 そう、そういった詐欺師のような人物もあふれかえっている。

 当然だます方が悪いのだが、こうした露店で買い物する場合、詐欺師も紛れているのは分かり切っているのだからだまされる方も間抜け、とされる。


「別にいいわよ。必要なものを買うわけじゃないもの」


 要は散財である。

 物を買う、という行為自体を楽しんでいるのだから、そんなことは真菜にとっては些末というわけだ。

 別に金に困っているわけでもないことだし。

 それに、そんなことを言ってくるこのおじさんは悪人ではあるまい。


「ま、嬢ちゃんがいいならいいけどよ。じゃあな」

「ええ、またね」


 露店の店主に別れを告げ、近くの屋台で飲み物を買い、木のコップに入った果実水を受け取る。

 露店そばの建物の壁に背中を預け、手に入れたヘアピンを眺める。

 まごう事なき安物だ。だがそれでいい。形が気に入ったのだ。真菜のセンスにはまった、ともいえる。

 その先には人の往来。荷車が行き交い、鎧をまとった大柄な獣人が闊歩している。彼は冒険者だろう。その獣人を追いかけるように、ドワーフの見習い鍛冶師と思しき少年が、両手に金属のインゴットを持ったまま駆け抜けていった。

 この二年で変わったことはいくつもある。

 そう、冒険者ランクがミスリルになったこと。これは実質上の冒険者の頂点である。

 それゆえ受ける仕事の難易度は最初とくらべて桁違いであり、その分実入りも信じられないほどにいい。仕事内容によっては、たった一時間の仕事で百万円相当の報酬が転がり込んでくることもあるくらいだ。

 故に一切お金には困っていない。

 半年ほど前にランクが上がった時には、最年少最速記録ではないが記録的であるとギルド職員におおいに賞賛されたものだ。


「あっという間、だったわね」


 二年経てば、当然真菜も成長……しなかった。その姿は十三歳、中学一年生の時のままである。

 これについては自身と会話を重ねた結果、アルヘラの吸血鬼の因子が不老という結果を真菜の身体にもたらしているのだと結論付けた。

 明確な証明はできていない。しかし成長しない身体自体がその結論に至った一番の理由だ。

 不満は全くない。アルヘラの力のおかげでこうして生きていられるのだから。

 ただ、内面は成長していることを示すため、話し方をこの二年で意識して変化させた。

 見た目が子どものままならば、せめて話し方は大人の女性であるように、と。

 それから真菜の魔法も変化した。いやこれは成長と言うべきか。

 魔法を操る精度や魔力量の上昇など、修行は欠かさなかった。

 やればやるほど答えてくれる魔法の腕前。全く苦痛ではなかった。もともとヒヒイロカネの冒険者クラスの魔法を扱えていたというのはあるが、そのまままったく成長しなかったなら、ミスリルランクの依頼はこなせなかったに違いない。

 真菜はふと、横のアリスに目を向ける。

 壁に寄りかかる姿もまた様になっている。

 まるで女性の美という概念がそのまま人の形をしたかのような美貌を誇っている。

 一方、ナチュラルウェーブのかかった金髪をポニーテールにし、副武装であるレイピアを腰に差してパンツ姿でたたずむその姿は男装の貴公子のようであった。

 それでいて話し方は淑女そのものであるのだから、そのギャップはすさまじいものがある。


(成長しない身からすると、この女性らしさは羨ましいわね)


 彼女とは現在、パーティを組んでいる。

 組んでから半年ほどだ。ちょうど、真菜がミスリルランクに上がった直後に発生したレイド戦で戦場を共にし、お互いソロであったこと、お互いに足りないものを補うのにちょうど良かったのが、組むきっかけになった。

 それからアズも加わり、今は三人パーティ「暁」を結成している。

 ダークエルフの美女、アズ。今頃はグランザラードにある拠点の調合室にこもっていることだろう。

 錬金術師であると同時に闘士でもある、ダークエルフと言う種族からすると変わり者だ。

 彼女は先のワイバーンの依頼のように素材が手に入る場合は分け前が少なくても全く気にしないのである。その辺りが、真菜とアリスから錬金狂いと認識されているゆえんだ。

 彼女は錬金術によって作り上げる過程が大事であって、作り上げたものに興味はないらしい。また真菜やアリスから要望されるのも望むところのようだ。

 アズがパーティにもたらす利益はかなりのもの。それで分け前が少ないのではあまりに不公平なので、真菜とアリスで話し合い、アズ用の資産を貯めているのだが。

 前衛に槍使いのアリス。

 遊撃に闘士のアズ。

 そして後衛に魔法使いの真菜。

 バランスが取れたパーティ暁。

 それが、今の真菜の居場所である。

 飲み物がカラになっていた。

 手にしたヘアピンで適当に髪を留めると、真菜は露店にコップを返却した。

 そろそろまた歩こうとする真菜に、アリスは黙ってついてくる。

 どこに行こうとも、何をしようとも言ってこない。

 本当に、真菜にただついてくるだけだ。

 もはや真菜もそれを気にはしない。

 ただただ、帝都入り口から宮殿までを一直線に貫く目抜き通りを歩く。

 ふと、後ろからガラガラと音。


「馬車ね」

「馬車ですわね」


 真菜とアリスは道の端に避ける。

 周囲はまだ音すら聞こえていないようだ。

 ミスリルランク冒険者の鋭い五感とは違うのだから仕方のないことでもある。

 やがて誰も彼もが道を空ける。

 この目抜き通りを馬車で通過できるのは、特別な許可をもらった者のみ。ここを通過する馬車に乗るのはほとんどが皇族や貴族、役人であり、商人などはごく一部だ。

 それ以外の者はこの目抜き通り以外の道を通らなければならない。

 逆に、この目抜き通りを通過する馬車の行く手は阻まないのが暗黙の了解となっている。

 相手が貴族では、下手にその前に躍り出ては不敬罪になる可能性もあるのだから。

 馬車がやってくる。

 四人乗り、四頭立ての四輪馬車が三台。

 その周りを騎兵が囲っている。どうやらかなりの賓客のようだ。

 まあ、真菜とは住む世界が違う。

 なのでとっとと通り過ぎないかなぁ、と視界の端で眺めるだけだったのだが。

 ふと、一台の馬車が急停止した。


「……? 何か問題でもあったかしら?」

「いいえ、わたくしが見る限り、何もなかったかと」

「そうよね」


 なんだろうか。

 何か問題でもあったのか。

 ざわざわと周囲の民が騒ぎ出す。

 何か問題があり、それが誰かのせいだった場合。

 これだけの馬車の列だ。場合によっては打ち首さえありえる。

 市民はそれを恐れて居るのだ。

 はたから見ていて何もなかったと真菜とアリスは分かっていたので、じきに走り出すと思っていたのだが。

 最後尾の馬車の扉が開き、男性が一人転がり落ちるように飛び出した。

 敵意や害意は感じないものの、少々とは言えぬ異常事態に横のアリスが身構えてしまう。

 しかし、真菜は別の事由で固まってしまっていた。

 彼のその尋常ではない様子に他の馬車に乗っていた者たちもまた一人二人と出てくる。

 そのまま、男性は間違いなく真菜を一直線に見つめて、人から注目を浴びていることにも構わず大声を上げた。


「君! 日本人だね!?」


 止まったはずの歯車が、動き出す音が聞こえた気がした。


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