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第六十四話 秘めたる思い

 

「だから私は本物の王女なの。お分かりいただけたかしら」

「……なるほどな」


 ディアナはニセモノ姫の発端にまつわるすべてを打ち明けた。

 自分の噂のこと、侯爵令息との淡い恋、エリィを身代わりにしたこと……。

 契約が終わった今、自分が本物であること。


「色々と得心がいった。エリィの王女らしからぬ無垢さも、純真さも」

「なら、条約を果たしてもらおうかしら」


 ディアナは肩から力が抜けるような思いだった。

 最悪、この場でリグネが暴れてもおかしくはなかったのだ。


「得心は得たが、まだ隠していることがあるな」

「……っ」


 真実を見抜く眼差しが、ディアナに動悸を起こさせる。


「こ、これ以上何もないわ!」

「いいや、貴様はまだ何か隠している。それは何だ?」

「お、乙女には秘密の一つや二つ……」

「そういうことではないが」


 リグネはじっとディアナを見て、


「……その目」


 紅炎の瞳を細めた。


「必死に何かを守ろうとしている目。まるで子供を守る母のようだ」

「当たり前でしょ。大事なメイドだもの」

「エリィのこととは言っておらぬが」

「……っ」

「そして、メイドだと? 我にはそうは思えぬ。其方の目は──」

「あの子は」


 ディアナは口を開いて、そして閉じた。

 キッと眦をつりあげた彼女の目に先ほどまでの怯えは消え去っていた。


「わたくしを誰だと思っているのかしら。魔王リグネ・ヴォザーク」

「ヌ」


 ばさりと、ディアナは長い白髪をかきあげた。

 悪女のように堂々と胸を逸らし、相手を見下すように告げる。


「わたくしはディアナ・エリス・ジグラッド! 栄えあるジグラッド王国の第三王女たるわたくしが、魔王ごときの威容に屈すると思わないでくださるかしら! たとえわたくしが何を隠していようと、あなたに話すことは何もないわ!」

「……そうか」


 リグネはひと息つき、


「アラガン!」

「はっ」


 謁見の間に繋がる隣室からケンタウロスが現れた。

 リグネはディアナから視線を外し、出口に向かって歩いていく。


「こやつを隔離塔に放り込んでおけ。処分は保留だ」

「ま、待ちなさい! 私は王女よ! 私がホンモノなの! なんでそんな」

「貴様は何も見えていない」


 リグネは振り向かずに言った。


「エリィは……あの子は、楽しそうに過ごしていた」

「……え」

「我が贈った指輪を受け取ってくれた。我は我が見たものを信じる」

「ど、どこに行くのよ」

「貴様の知ったことではない」


 主の姿が見えなくなると、ケンタウロスが動き出した。

 ディアナを見下ろす目は道端に落ちるごみを見ているように冷たい。


「……見れば見るほど似ていますね。これは予想外です」

「……」

「彼女が来た当初はニセモノだと疑っていた私ですが……見事に騙されましたよ。多少の違和感はあれど、この私でさえほとんど気付きませんでした」


 ディアナはリグネが去った扉を見つめ続けている。

 彼に言われたことが、ぐるぐると頭の中を回っていた。


(エリィが……楽しんでいた?)


 ディアナの為に頑張るエリィの姿は理解できる。

 あの子は優しい子だ。言われたことをしっかり全うしようとしたのだろう。

 それはディアナの望むところでもあったが。


(私が何も見えていないって……どういうことよ)


 ディアナは隔離塔へ移送されながら、縋るような思いで問いかけた。


「ねぇ……アラガンと言ったわね」

「なにか」

「エリィは……あの子は、魔王様と一緒に居て幸せだったの?」

「傍から見ていれば、好き合ってる以外の何物でもありませんでしたよ」

「……っ」

「じゃあ、私は」


 ──私はあの子を、傷付けていたの?


 声にならない問いは隔離塔の闇に吸い込まれていく。

 がしゃん、と閉ざされた牢屋の中は冷たく、薄暗い闇がわだかまっていた。


 ディアナは思い出す。

 魔王城を去る間際に見たエリィの姿を。


『あの……ご主人様。このまま私が魔王様に嫁ぐのって……なし、ですか?』

『ご主人様……わたし……』

『わ、わたしは……魔王様が……リグネ様の、ことが……』


 恐ろしい想像がディアナの脳裏に過った。


(アレは、私との別れを惜しんでいたわけじゃなくて)


 エリィは、ここに居たいと言おうとしていたのではないか。

 自分が平民で、身代わりであることに苦しみながら、自分に打ち明けようとしたのでは。もしもそうなら自分は、彼女をこれ以上ないほど傷つけたことになる。


「……う、うぇえ」


 胃がねじ切られそうな恐怖に、ディアナはこみ上げた吐き気を抑えきれなかった。頭を金槌で叩かれ続けているような連続した痛み。視界がぐるぐる回って、喉を掻きむしりたくなるような衝動にかられた。


「ぁ、あぁぁ、違う。私は、こんなことがしたかったんじゃ……!」


 その時、ディアナの懐が黒い光を放った。

 懐に入れていたのは和平派の筆頭だったゼスタ・オーク老にもらった水晶玉だ。

 光は部屋を染め上げるかのように強くなり、ディアナの身体を包み込んでいく。


「なにこれ……!?」


 チカチカと視界が明滅する。

 身体中から力が抜けて恐ろしいナニカに呑まれていく感覚。

 変質していく自分の身体を見ながら、ディアナの瞳から一筋の涙がこぼれていく。


「あぁ……エリィ……ごめん……ごめんね……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んできて、母娘再開とか嬉しいことはあったけど、お願いだからみんなが笑顔で終わるよう祈りたい。 気持ちの行き違いはあったけど、みんな優しいだけだよね。 [気になる点] 和平派=反対派の構図…
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