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第五十四話 決着する

 

「クーデターも何もかも……彼女の言う通りだ……ボクの、完敗だよ」


(……いやなんで!?)


 エリィは愕然とした。

 レカーテはエリィを忌み嫌っていたはずだ。

 実際、今に至るまでの彼の態度はとんでもなく無礼だった。


(レカーテ様ならわたしのこと下げてくれると思ったのに! なんでわたしの味方しちゃうの!?)


「レカーテ……貴様っ!!」


 エルメスが憤怒の表情でレカーテを睨みつけた。


「呪われた忌み子が……つけあがりやがって!」

「その忌み子に魔術で負けたのはどこの誰だったかな」

「……!!」


 レカーテを四大魔侯に決めたのはリグネだったが、いくら魔王でも中立派の森人族たちの意向を完全に無視できるわけではない。本当に族長に相応しい強さを持つのか、森人族の有力者が魔術の腕を競い合い、そして圧倒的な強さで王者に君臨したのがレカーテだった。


「確かに貴様は力があるかもしれん……だが、その忌まわしき力は森人族に不和をもたらす! 絶対に排除しなければならんのだ!」

「自分のものにならないなら排除してしまえ、か。二枚舌め」


 レカーテは吐き捨てた。


「知っているぞ。キミはボクの力を狙っていた筆頭だな。頑なに目を合わせようとしなかったが……おや? 今は他にも色々見えるなぁ。なるほど、他の族長候補の不審な死も……」

「しまった……! いや、ちが、これは」


 エルメスは可哀想なほど顔を蒼褪めさせた。

 森人族の警備隊長が不穏な空気を感じ取って進み出る。


「エルメス様。あとは別の場所でゆっくり聞かせてもらいましょうか」 

「……くそ、くそ、くそぉおおおおおおおおお!」


 絶叫の余韻が、舞踏会の会場に残った。


「さて、些か不本意な結果に終わったが」


 レカーテは言った。


「今回の祭儀は終了だ。ボクはエリィを認めようと思う」

(だからなんで!?)


 驚くエリィを無視してレカーテは続けた。


「彼女の叡智と勇気は魔王の補佐たる魔女将(アミール)に相応しいものであろう。彼女であれば森の恵みを忘れず、共に歩むことが出来るかもしれん。ボクの意見に反対する者は前に出よ!」


 森人族たちは顔を見合わせ、胸に手を当てて頭を下げた。


「「「森長の導きに従います」」」


 猿と蔑んでいたエリィに頭を下げる彼らに──


「今回もよい働きだった。さすが我が妻だな」

「当然です。我が主様は世界一ですから!」

「ふ、ふん、分かってたならもっと早く相談しておきなさいよ、馬鹿ね」

「ん。お腹空いた」


 仲間たちの言葉に唖然としていたエリィは我を取り戻し、


「あ、あの、レカーテ様、本当にいいんですか?」


 あんなに自分を嫌っていたのに、一体何が彼を変えたのだろう。

 クーデターを阻止したのも魔術陣に細工したのも彼ならお見通しのはずだ。

 エリィは喜んでいいのか悪いのか複雑な気持ちだった。


(女の子になったら性格まで変わるの? じゃあもうニセモノだとばらさない?)


 そう、当初の目的はニセモノバレの阻止だった。

 紆余曲折あってこんな形になったし、エリィの評価が上がりすぎてるのは大問題なのだが、それはそれとして当初の目的を達成できるなら歓迎したい。


「人族は短命種だからな」


 レカーテは仕方なさそうに息をついた。


「少しぐらい、隣を譲ってやってもいい。せいぜい足掻け、猿」

「隣?」

「宴を再開する! さぁ、今日ばかりは飲んで食べて踊り明かそう!」

(ちょ、ちょっと! どういうこと? 結局どっちなの!?)


 絶対にこちらの声は届いているはずなのにレカーテは答えない。

 それどころか、なぜか柔らかい面持ちでエリィを見ている。


「よし。今度は我と踊るか、エリィ」

「次はワタシね!」

「せ、僭越ながらわたしも一緒に……!」

「うちは興味ないからごはんたべる」

「み、皆さまちょっとお待ちに……ってあの人もういない!?」


 エリィはリグネたちに連れられ、結局彼の真意は分からず。

 ありがとう、という呟きも、音楽にかき消されて聞こえなかった。


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