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第五十話 妖精たちの宴

 


 いよいよ舞踏会の幕が開こうとしていた。

 仕込みを終えて控室に戻り、ロクサーナからお小言を貰いながら準備。

 身なりを整えたエリィが控室を出ると、リグネが待っていた。


「お待たせしました。リグネ様」

「あぁ……ふむ?」


 壁から身を起こしたリグネは眉根を上げ、


「今日は一段と綺麗だな、エリィよ」

「あ、ありがとうございます」


 エリィはドレスの裾を持ち上げてカーテシー。

 今回エリィが着ているのは、蒼を基調としたマーメイドドレスだ。胸元から足にかけて丁寧にフリルが刺繍されていて、森の新芽を思わせる簪が白髪の頭に映えている。


「では、行こう」

「はい」


 他の仲間たちは既に舞踏会場へ入ったあとだ。

 エリィはリグネと共に絨毯の敷かれた廊下を歩いていく。


「先ほど森人族たちが我の元を訪れたが、其方の仕業だろう?」

「え、えぇ」

「そう思ってな。ちゃんと言い含めておいたぞ」

「ありがとうございます」

(いや、何を?)


 エリィが何か企んでいると察したリグネなら何とかしてくれるとは思っていたが、森人族に何を言ったのかは気になるところだった。ちょっと聞くのが怖い気もするが。


 舞踏会場には既にたくさんの森人族たちが集まっていた。

 エリィに厳しい目を向けていた彼らも、優雅にダンスを踊っている。

 魔王が入場するのを見て、歓迎の笛の音が響き渡った。


「ようこそ魔王リグネ・ヴォザーク! 我らが友よ!」


 ワイングラスを掲げたレカーテが言った。


「今日は存分に楽しもうじゃないか。なぁ?」

「うむ。邪魔させてもらうぞ」

「重要な祭儀だ。まぁ飲むがいいーー王女もいかがかな?」

「いや、あの、わたくしは……」

「王女ならさぞ飲み慣れているだろうと思うがな。王女なら(・・・・)

(うぐぅ……こ、この人、分かってて言ってる……)


 一度ディアナに飲まされたことはあるが、エリィはお酒が苦手だ。

 飲むと頭が痛くなって身体が重くなるし、翌日には気だるさが残る。

 そんなエリィの心を読んだのか、レカーテは面白半分にグラスを押し付けてくる。


「まぁまぁ、そう言わずに、猿でも酒くらい飲めよう?」

「……分かりましたよ、もう」


 エリィはため息を呑み込んだグラスに手を伸ばした。

 使用人たちの飲み会で新人に酒を押し付けてくる執事のようなしつこさだ。

 ここは面倒でも身バレ回避のために呑まなければ──


「あら、どうもありがとう」

「え?」


 ひょい、と横から入って来た手がグラスを受け取った。

 その誰かさんは豪快にワイングラスに口をつけ、一気飲みする。


「まぁまぁね。このワタシのお眼鏡にかなうお酒じゃない。もっといいもの持ってきなさいよ」

「ロクサーナ、貴様……」


 豊かな胸をたぷんと揺らし、ロクサーナは腕を組んだ。

 エリィのほうをちらりと見て、一言。


「勘違いしないで。ワタシはただお酒を飲みたかっただけよ」

(ろ、ロクちゃん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!)


 男前すぎるロクサーナの友情にエリィは感涙を浮かべて手を組んだ。

 この素直じゃない感じがロクサーナっぽい。好き。


「うぅ。わたしだってお酒くらい……」


 後ろでセナが何やら言っているが、とりあえず気にしないことにする。

 護衛の二人はお酒を飲まないでほしい。特に森人族たちは怖いから。


「ずいぶんな気に入られっぷりではないか。上等な猿め」

「えぇ、ロクサーナは大事な友達ですわ」

「と、友達……えへへ……」

「ふん!」


 レカーテは鼻を鳴らした。

 すると、上等な服を着た一人の森人族が歩み寄ってきて、


「レカーテ様、客人に対してそのような態度はいかがなものかと」

「なに?」

(あれ、この人……)


 エリィが『仕込み』をするときに周りに指示をしていた人物だ。

 エリィを猿呼ばわりした男はにこりと笑ってエリィに手を差し出す。


「お初にお目にかかります、ディアナ・エリス・ジグラッド様。私はレカーテ様の側近のエルメスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「はぁ……」

「貴様……」


 レカーテが怪訝そうに眉根を寄せた。


「今さらしゃしゃり出てきて、どういうつもりだ?」

「どうもこうも、私は客人に対して相応の振る舞いを取っているだけですよ、あなたと違ってね」

「……」

(な、なんだか険悪なムードなんですが!)


 いきなり現れたエルメスとやらの存在にエリィはおろおろと視線を彷徨わせた。

 この場合、どう対応するのが適切なのか。

 答えを求めてリグネを見ると、彼は満足げに頷いた。なぜだ。


 その後も多くの森人族たちが挨拶に訪れたが、不思議とレカーテに挨拶をする者はおらず、彼らはリグネのみ挨拶をして去っていく。もちろん森人族であるレカーテなら彼らとも日常的に会っているだろうから、わざわざ挨拶するのは不自然かもしれないが、


(なんかレカーテ様、ハブられてるよな気が……気のせい?)


エリィはレカーテの側に控えているエルメスを見た。

レカーテのそばにいる側近は彼だけだ。

……自分も護衛にセナとララだけだから、おかしくはないのかも。


(気のせいか。気のせいだね!)


 エリィがそう納得すると、エルメスが言った。


「そろそろ祭儀を始めてはいかがですか、レカーテ様」

「き、貴様に言われずとも分かっている! ボクは四大魔侯だぞ!」


 レカーテは指を鳴らす。


「音楽を始めろ! 華麗に優雅に、ダンスを踊ろうではないか!」


 そうして、エリィの最後の戦いが始まるのであった。


(うぅ。まだご飯食べてないのに……)




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