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第四十八話 魔王様の勘違い、再び

「先ほどはレカーテと何を話していたのだ?」


 荘厳な大理石の床を歩きながら、リグネが問いかける。

 お姫様抱っこされたままのエリィは口ごもりながら、


「べ、べべべ、別に何も、ありません……よ?」

「ふむ」


 リグネはまるで謎解きを前にした名探偵のように顎に手を当てた。


「我にも内緒か。面白い」

「いや別に、本当に何もないですからね?」

(少なくともリグネ様が楽しみにしているものとは真逆だよ!?)


 まさかレカーテに偽物だとバレるとは思わなかった。

 これまで必死に頑張って隠してきたのに、心読めるとか反則ではないか。


 当のレカーテは牢屋へ連行される罪人のごとく仲間たちに囲まれている。

 魔術で身体を浮かせているあたり、よっぽど歩きたくないのだろう。


「ねぇ、とりあえずこいつの杖折っとく?」

「杖より足がいいのでは?」

「ん。それより洗脳魔術でエリィを認めさせたほうが早い」

「鬼畜か貴様ら! ボクを誰だと思ってるんだ!」


 ロクサーナたちは顔を見合わせた。


「嫌味妖精」

「森人の悪意」

「殺害対象」


「四・大・魔・侯だ!! 最古参なんだぞ! 先輩を敬え馬鹿者どもめ!!」

「敬われるような行動をしてから言いなさい」


 なんだかんだで上手くやれているようである。

 エリィからすれば、いつ彼が自分のことを暴露するのか気が気でないのだが。


(でも、バラすならとっくにバラしてるような気もするし)


  一体何が目的なのかまったく分からない。

 客室に案内されたら真っ先にララに相談しなければ。


「おいリグネ、今後の日程だが」

「うむ」


 背後の問いかけに、リグネは振り向いた。

 レカーテは平然と言った。


「我々の仲だ。一年かけて祭儀を行おうと思う」

「一年!?」

「まずは明日、国中に魔女将祭儀(アミール・ジャッジ)の布告をし、この城で舞踏会を開こう。そこでじっくり我らが魔女将の資質を見極めようと思う」

「い、一年も……何をするんですか?」

「我ら森人族が魔女将(アミール)に求めるのはただ一つ」


 レカーテはにやりと笑った。


「優雅さだ」

「ゆうが」

「うむ。つまりダンスだ。ダンスで優雅さを見極める」


 エリィは悲鳴をあげそうになった。


「もちろん、本物の王女であるディアナ姫には当然備わっているとは思うが? 念のため? 知能が低い猿のために、我らが舞踏会で試してやろうと思ってな。ありがたく思え?」

「……アリガトウ、ゴザイマス」


 引き攣った笑みで返しながら、内心で絶叫する。


(いや優雅さとか、わたし欠片も持ち合わせていませんけど!?)


 ディアナの指示で礼儀作法や読み書き、簡単な教養は身に付いている。

 貴族令嬢としてどこに出しても恥ずかしくない出来だと言われてはいるものの……


(舞踏会とか出席したことないし! ダンスの練習もしてないよぉ!)


 このままでは落第決定である。

 もしも落とされたらどうなるかわかったものではない。


「あ、あの、もしも不合格だったら」

「それはもちろん」


 レカーテはいい笑顔で言った。


「キミが一番秘密にしたいことを公表するに決まってるじゃないか」

(やぁぁっぱりぃいいいいいいいいいいいいい!)


 これはいよいよ優雅さとやらの練習を身につけなければ不味い。

 幸いにも舞踏会は一年と聞くし、一年中ダンスばかり踊ってるわけではないはずだ。つまり、いよいよダンスを披露するとなるまでに幾許か猶予があるはずで。


(それまでにわたしが身につけてる読書とか礼儀作法的なアレで、色々乗り切る!)


 それだ。自分が生き残るにはそれしかない。

 一ヶ月ぐらいあれば、まぁ見れるくらいには踊れるようになるはずだ。


(ていうかあと二ヶ月ぐらいでご主人様が来るし! なんだかんだイチャモンつけて引き伸ばしまくって、わたしが踊らなくてもいいようにしなきゃ。あ、でもそれだとリグネ様とお別れに……あぁ、もうどうしたらいいの!?)


 いや、とエリィは思い直す。

 芽生えたばかりの気持ちと折り合いをつける前に今の危機だ。

 リグネはともかく他の子たちにニセモノだとバレるのは非常に不味い。


(と、とにかく時間が欲しい。色々考える時間が……)


 ーーしかし。


「いや、さすがに一年は長すぎる。一日あればエリィの魅力は伝わるであろう」

「!?」


 エリィはリグネの腕の中で飛び跳ねそうになった。


「ま、待ってくださいリグネ様。わたし、もう少しゆっくりしたいなぁ、なんて」

「……ふむ」


 リグネは考える素振りを見せたが、


「だが、こやつの態度は目に余る。其方も早く出て行きたいであろう?」

「それは、まぁ……」

「それとも、レカーテと仲良くなりたいのか?」


 どことなく拗ねたようなリグネに、


「ち、違います! 誰がこんな陰険毒舌野郎となんて!」


 思わずエリィはそう言ってしまう。

「ぁ」と失態に気づいた時にはもう遅かった。


「ならば決まりだ」


 リグネは微笑んだ。


「其方なら何とか出来ると信じてるぞ」

(ナニを!?)

「そういうわけだ。レカーテ、構わないな?」

「んー……まぁ構わないわけではないが、まぁ、いいぞ」


 レカーテは顎に手を当てて笑った。


「そのほうが面白そうだし」

(こ、この人楽しんでる……!)

「それまで王女の恥ずかしい秘密を知る機会は待っておこう。なに、猿の中の王女といえど、秘密を他人にバラすほど愚かではあるまい」

(他人に相談したらどうなるか分かってるんだろうな……って聞こえる)


 エリィは頬を引き攣らせて言った。


「そ、ソウデスネ……」

「問題ないぞ、レカーテ。貴様もエリィを認めるようになるからな」


 期待の声が耳に痛かった。



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