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第四十六話 森の賢人


 森人族の街は『魔の森林地帯』の最奥にある。

 強力な魔獣が跋扈している森林地帯は資源が豊富なだけに魔族からも狙われることがあったらしく、決められた道を通らなければ一生森から出られなくなる呪いがかかってしまうのだとか。そんな物騒な場所柄とは裏腹に、森人族の街は非常に栄えていた。


「なんか、すごい家ですわね。すごく……」

「さすがのあんたも感嘆してるの。まぁ、いい光景ではあるわよね」

「はい。というか……」


 石造りの街並みと森が一体化していると言えばいいのか、

 高さ五メトルを超える樹々に穴が掘られ、石造りの住宅と一つに繋がっていた。プラチナブロンドの髪に長い耳を持つ森人族たちが、樹々の枝から枝へ飛び移り、エリィたちの竜車を警戒している。


「すごく、虫が湧きそうな家ですわ……」


 その場にいる全員がずっこけた。

 メイドの習性で家々を観察するエリィの目はズレている。


「さすがにその辺りの対策はしてるでしょ……してるわよね?」

「どんな虫が来てもわたしが追い払って見せます、我が主様(マスター)!」


 リグネはエリィの頭に手を置いた。


「森人族の前でそれは言うなよ、エリィ」

「あ、はい」

「奴らはプライドの塊だからな。侮辱したら殺されるぞ」

「はい!?」


 そうこうしているうちに都市の最奥に到着する。

 いつものような出迎えはないようだ。

 リグネから降りるぞと号令を受け、エリィはゆっくり竜車を降りた。


 森の広場のような場所には荘厳な城が建っている。

 リグネは城の前に立つと、城の一番上を見上げて叫んだ。


「レカーテ! レカーテ・エルクゥド! そこに居るんだろう! 出てこい!」

「騒々しいな。リグネ・ヴォザーク。龍の名を継ぎし者よ」


 城のバルコニーから現れたのは裾の長い衣を着た男だ。

 見目のよい整った顔立ち、サファイアの瞳がこちらを見下ろしている。


(え……男?)


 リグネの元許嫁と聞いていたから、てっきり女だと思っていたのだ。

 それなのに、出て来たのはどう見ても男である。

 森人族は見目が整っているとはいえ……


(え、リグネ様、そっちもいけるの? え、嘘、じゃあ、ええぇええ……)


 妄想たくましいエリィの脳内に薔薇が咲きほこる。

 迂闊に触れれば荊の棘で怪我をしてしまうだろうから、口には出さないが。

 エリィがおろおろしている間に、レカーテは空中をゆっくり降りてエリィたちの前に立った。


「ご機嫌よう、リグネ。ロクサーナ、そして鬼族の娘よ。森はキミたちを歓迎するだろう」

「ふん。相変わらずね、あんた」

「キミの美しさも変わらないね。そしてこちらが……」


 レカーテの視線がエリィを捉えた。


「ディアナ・エリス・ジグラッドだね」

「は、はい」

「なるほど、なるほど。リグネはこういうのが良いのか。可愛いお嬢さんだ」

「あ、ありがとうございます」

「森人族の街に入る度胸も素晴らしい。キミ、魔女将の素質があるよ」

(……あれ? この人、実はいい人では?)


 ロクサーナたちがあれだけ嫌そうにしていたのだ。

『怠惰妖精』はよっぽど性格が悪いか、どうしようもない性質なのかと思ったが、意外と話が分かるのではないか。むしろ、すぐに殺そうとしてきたアルゴダカールや、息子第一のマザー、魅了を暴走させがちなロクサーナと違い、一番常識人ではないのか。エリィの脳裏にそんな疑問が次々と浮かんでいく。


(つい百年前まで中立を保ってたっていうし)

(実は平和主義者じゃない?)

(今度こそ穏やかに祭儀を終われる! やっほい!)


「レカーテ。こんなところで立ち話もなんだ、中へ案内してくれ」

「そうだね、分かった。それじゃあディアナ」

「はい、なんでしょうか。レカーテ様」


 レカーテはいい顔で笑った。






「キミにボクを運ぶことを許そう。跪け」






 ん?


「聞こえなかったかい? ボクを運べと言ったんだ」


 レカーテは足元を指差した。


「四つん這いになって、背中にボクを乗せたまえ」

「………………………はい?」


 こてん。と首を傾けたエリィ。

 その場にいるエリィ陣営が殺気立つ中、レカーテはいい笑顔で告げる。


「ボクからの友好の証だよ。人族ごとき猿がボクを運べるんだ。光栄だろ?」

「あ〜〜〜〜……なるほど、なるほど……」


 エリィは理解した。理解してしまった。


「行けば分かる、か」


 エリィは遠い目をしてつぶやいた。


「うん。分かりたくはなかったなぁ」


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