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第二十二話 完全なる勝利へ

 

 なぜ極楽悪魔の治める街が『天上都市』と呼ばれるのか。

 ロクサーナと共に街を歩きだしたエリィはすぐに理解することになった。


「こちら、サキュバス喫茶です。一回五千ギルになります~」

「年上から年下まで揃ってるわよぉ。今なら一番人気ラミアのミーちゃんが空いてるわぁ」

「オークからハーピー、スライム族まで居るのはうちだけよ。そこのお兄さん、いかがかしら?」


(は、はわわわわ……!)


 なんというか、街全体がそういう店(・・・・・)で構成されているようだった。

 あっちにもこっちにも、かなり露出が激しめの女性が客引きをしている。

 桃色の街灯が照らす街並みを歩いているのは、ほとんどが男の魔族であった。


「す、すごいですわね。なんかこう、色々と……」

「王女様はこういうのに耐性がないのかしら。お可愛らしいこと」


 ロクサーナはくすくすと笑う。


「人族専用の区画は西側よ。女性向けの通りもあるけど?」

「け、結構です!」


 エリィはぶんぶんと首を横に振った。


「というか、やっぱり人族も居るんですね、この街には」

「ここは『完全中立都市』だもの。ワタシたちサキュバス族にとって生命線でもあるわ」

「……そう」


 聞くところによると、サキュバスは他者の精力を活動源にしている種族らしい。

 普通の食事でもある程度は問題なく生きていけるが、あまりに精力を摂取していないとやがて衰弱し、死に至るのだという。元々は人族の街に隠れ潜むなどもしていたようなのだが、奴隷として捕まることも多く、かといって人族と接触禁止にすると精力不足で死んでしまう個体も居たため、仕方なく中立都市を作り上げたのだとか。


 人族側にとってもサキュバスから精力を吸われることは得も言われぬ快感を齎すらしい。特にサキュバスは容姿が整っている者も多い事から、戦争時にも通い詰める人族は多かったのだとか。天にも上れるほど快楽を得られる都市。故に天上都市なのだ。


「何というか、呆れるほど欲望に忠実ですね、人族も……」

「人族であろうが魔族であろうが、欲求は変わらないもの」


 ロクサーナは嫋やかに微笑んだ。


「性欲は生物の根源的な力よ。侮っては痛い目に合うと思うけど?」

「ご忠告、ありがたくいただいておきますわ」

(魔王様も性欲はあって、わたしはその対象じゃないって言いたいんだろうな……)


 ロクサーナの厭味ったらしい口調にエリィは苦笑いする。


「それより、約束のこと忘れてないわよね?」 


 エリィは頷いた。


「もちろんです。祭儀で負ければわたくしは隔離塔に引っ込みますわ」


 先ほどのロクサーナとの問答でのことだ。


『わたくしが気に入らないなら、女の色気で勝負といこうではありませんか』


 ロクサーナがどれだけ言ってもリグネが納得しない限りエリィが別れることは出来ない。ならば鬼族の時と同様に賭けを持ち出し、祭儀を勝負の形に変えてしまえばいい。そこで負ければ、エリィは晴れて幽閉生活を送れるというわけだ。


(わたしがサキュバスの女王に色気で勝てるわけもないしね!)


 サキュバス族が催す祭儀は色気に関することだと聞いた。

 今度こそエリィの勝利は確定的。どれだけヘマをしても──たとえララの言う通りエリィがドツボに嵌まる策を出したとしても、元が平凡を地でいくエリィに勝てる道理などない。ロクサーナは妖怪腹黒おばけではあるが、この上なく美人であることはエリィも認めるところなのだ。


「それで、ロクサーナ様。具体的にはどのように勝負するのですか?」

「簡単な話よ。魔王様に気に入られたほうが勝ち」

「なるほど」


 エリィは勝利の笑みを浮かべた。


「よく分かりました。では一時間後、祝宴の場で魔王様に披露するということで」

「そうね。それでいいわ」


(幽閉、いただきました!)


 と、つい先日までのエリィなら勝利を確信していただろう。

 しかし、人は学ぶ生き物。

 エリィは反省を生かし、万全を期すことにした。


 ──所変わって天上都市の迎賓館。宰相の客室にて。


「というわけで、アラガン様。魔王様の好みを教えてください!」

「はい……?」


 エリィはアラガンに突撃していた。

 そう、魔王の好みを知るにはアラガンに聞くのが手っ取り早い。


 彼が言ったことの逆を行けば、エリィはまた一歩勝利に近付くのである!





 ◆◇◆◇



「むぅ。またエリィの暴走が始まった」

「うふふ。魔王様に気に入られようとする(あるじ)様、お可愛らしいです!」

「……後輩、エリィの作戦に従うべし。それがうちらの役目」

「悪女らしく振舞うことで気を引く作戦でしたよね? 了解です、ララ先輩!」

「うむ。よきにはからえ」



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