107.1「妄想の中で(アユム自我)」
お久しぶりです。
謝罪とあらすじを前話に記載いたしました。
よろしければご一読ください。
「さて、ここまでは想定通りですね」
「ご協力感謝します」
アユム救出部隊の4部隊が無事旅だったのを確認すると、エリートダンジョンマスターとコムエンドのダンジョンマスターがソファーに腰を落とした。
そして、エリートダンジョンマスターことダンジョン都市プトラ・シ のダンジョンマスターヴァリアスは溜息と共に吐き出すように言った。恐縮したとばかりにコムエンドのダンジョンマスターが答える。
「リスクの高い選択でしたが、大丈夫だったのですか?」
ヴァリアスは部下が淹れてくれたお茶、権兵衛さんが献上したダンジョン作物のお茶、の独特な香りを楽しみ、ゆっくりと口に含む、フワリと口内で広がる味と香りを楽しみ満足げに微笑む。
「彼らを信じていますから」
ダンジョンマスターも釣られてお茶を飲み笑顔を返す。
「……いえ、そういうことではなく。アユム君のお父上は豊穣の女神に使える上位の亜神です。その子が【生を受け、生き延びている】という事実が何を示すのか……、ただ単純に奇跡的とか、ご両親の献身とかであればよいのですがね……万が一……」
「……」
ダンジョンマスターはエリートダンジョンマスターの言葉の意味を正確に理解し、真っ青になる。
ここで解説しておこう。
神界では、数万年以上の因縁を持つ【派閥】が存在する。
今回の事件は、ダンジョンマスターの上司である神が属する【派閥】をやっかみ、末端を使い嫌がらせをしていた【派閥】に対するカウンターであった。
ダンジョンマスターと上司である神はこの敵対派閥を泳がせ、決定的な証拠を押さえたのだった。そして彼らはさらに今回の敵対【派閥】の策謀を試練とし、アユムの弱点を克服させようとしていた。
それはイエフ対策である。
ただの亜神でありながら神の【派閥】で発言力も有していた天才ヤー・カー。
ダンジョンマスターとその上司が『天才ヤー・カーが地上に降りた』ことを知ったのは、ダンジョン作物で有名となったアユムの身辺調査を行ったタイミングである。亜神の息子であることが判明したタイミングとほぼ同時である。
大天使ヤー・カー。
温厚な人物ではあるが生真面目。そして純血主義者であった。
そんな人物だ、きっと地上で画期的な発明を続けるアユムに遭遇するであろう。
純然たる興味と、人間への称賛を胸に。
そのときにハーフ天使という、ヤー・カーにとって俗物に位置する存在だとアユムを認識されると……。
相手は地上での行動制限を大きく受ける神々や亜神とは違い、地上で力を行使することに全くに制限を受けない、が、神にも匹敵する力を持つ、地上生まれ、つまり力の制限を受けない者だ。
大天使ヤー・カーの転生先であるイエフ。
彼の脅威に、最低限の抵抗ができるように、今回【あえて】敵対勢力の術に嵌まり、こうしてアユムの神体を制御するきっかけを手にさせようとしていたのだ。
本来であれば彼ら自身の力で試練を与える予定であったが……。
タヌキチの襲来でダンジョン機能を破壊され、復旧を急いでいたところ地球の神よりうまい話を持ち掛けられた。そんな焦ったところを付け込まれ、ダンジョン管理に必要な大多数の幹部モンスターとその部下と管理構造の根本が壊された。ダンジョンは構造改革を迫られることとなった。
つまりダンジョンマスターとその上司はアユムどころではなくなってしまっていたのだ。
そして知る。
アユムがヤー・カーと双璧をなす、豊穣の女神派閥の2大幹部の1人、殲滅天使アキトの子供、であると。
アユムという金の卵を産み続ける鶏という認識だった。
重要人物を守るため、過去より因縁のあった派閥と戦っていたつもりだったが……。期せずして、いや必然的に、豊穣の女神の【派閥】と新たな因縁が発生したことになる。
画期的な力、発想、結果それらには必ず裏がある。
そう想定していたはずダンジョンマスターとその上司だったが、この状況は想定外であった。
只の関係者であればそこまで問題にはならなかったのかもしれない。イエフとも話し合いでまとまるかもしれなかった。アユムが生まれた時期が『豊穣の女神はアユムが生を受けた時期に行方不明』となっていた。しかも同時に『殲滅天使アキトが地上に降りている』。これが意味することは……つまり……、アユムが【豊穣の女神の生まれ変わり】である可能性が高いと言うことだ。
ダンジョンマスターとその上司はその事実をヴァリアスに指摘されるまで理解していなかった……。
そう思えば、生き残り辛いとされた亜神との子供が生き残ったことも納得である。
【豊穣の女神】という基礎力があれば、死ぬことはないのだ。
だからある程度の無茶については、アキトも知りつつ泳がせていたのではないか……。
ダンジョンマスターの背に冷たいものが流れる。
「……天界では今、農業神様がまとめる派閥の中で、行方不明となった豊穣の女神を【解任すべき】と訴える【派閥】と、【農業の次の時代を切り開くために降臨しているのだから百年程度は待つべき】と訴える【派閥】が争っているらしいですよ。豊穣の女神の【派閥】の2大幹部が地上降臨し【奉仕活動】を行っているので、【今のところ】後者が優勢だそうです」
「……【だそうです】?」
「捕縛した【彼】が教えてくれました」
お茶の香りにうっとりするエリートダンジョンマスターヴァリアス。現実逃避である。
ダンジョンマスターはふらりと立ち上がると、アユムが眠る別途の脇で丸まっている巨猫ことアームさんの頭を押さえる。
「失敗は許さん。必ず無事完遂せよ。振りじゃないよ。振りじゃないからね!!!」
ダンジョンマスター渾身の叫びであった。
そしてそっと悪魔ちゃんが寝ているベットを眺め、口の端をつり上げる。
「神に報告せねば。そして巻き込まねば色々と……」
「私の目の前で言うとは……若いっていいね~」
エリートダンジョンマスターは伊達ではなかった。ヴァリアスはお茶に合いそうな蜜を持ってこさせ、お茶を楽しみながら、焦るダンジョンマスターを見ていた。
☆自我:チカリ・悪魔ちゃん・賢者の娘
「ふふふ、どうやら理想の筋肉にへと先に到達したのは僕でしたね」
皮膚を圧迫するように羽つん発に膨れ上がった筋肉を誇示するように見せつけるアユム。
顔だけまだ十四歳になったばかりのかわいらしいままだが、体は筋肉に膨らんでいる身長がそんなに高くないアユムには『不自然』の一言である。
「はっ、ちゃんちゃらおかしい。アユム。おまえは何もわかっちゃいない……」
吐き捨てるようにチカリは返す。
「……嫉妬ですか?僕のこの素晴らしい筋肉たちの前に、負けを認めるのですね?」
「……言葉で言ってわからなければ、体に教える。……こい」
チカリはスッと足を引き重心を落とすと、ゆっくりと掌を上に、チョイチョイっと擬音がつきそうな手招きをする。次の瞬間アユムがはじかれたように動き出した。
……が。
遅かった。
筋肉はつけすぎるとその自重で速度を落とし、間接の行動半径を阻害する。つまり、すべての行動が遅くなるのだ。
しかし、チカリはそんなアユムを【敢えて】正面から迎え撃つ。
両の掌を前に出すと薄ら笑いを浮かべる。
「その奢り! 押しつぶして、もっと……『小っちゃく』してあげます!!」
「あ”?」
両手を組み合わせたところで発したアユムの挑発に、地を這うような低い声がチカリから返される。
その瞬間アユムは人間という、一獣として本能に屈した。恐怖という本能に。
恐怖を意識した次の瞬間、アユムは全身が震え、下半身に力が入らなくなったことを自覚する。
「……気合い入れろ!!!!!!」
「!!」
姉弟子に気合いを入れられ、アユムの体は動き出す。
日々鍛錬を行っていたときのようにスムーズに体が動き、何か余計なものがそげた気がした。
「いきます!」
「応!」
アユムは小さく息を吐き、姉弟子に挑む。
単純な力勝負。
そして圧倒される。
「理解しなさい。魔法とは理論だと。物理とは違い事象を起こすのに体を介さない、非常に難しい力である。その力を制御するために、物理理論の把握は必須だと。まずは体を理解しろ。その様な無様に膨らんだ体を、制御しているとは言えない。」
「ぐ」
「理解しろ、自覚しろ、そこから始まるのだ」
チカリの片手に圧倒されていたアユムの筋肉が縮んでいく。
「……すみません。チカリさん。僕は筋肉を理解していませんでした……」
「で」
「筋肉は必要に応じて、必要な形で鍛えなければ美しくないんですね!」
「で」
「……えっと」
「私を『ちっちゃく』するんだっけ?」
「あ、あ~……すみません」
「しかも『もっと』っていってたよね?」
「え~、そこまで聞いてました……」
そっとアユムは後ずさる。すかさずチカリがアユムの背後に回り込む。
「私が小さい?」
「い、いえ。僕は……」
「おい……何故胸を見ている?」
「い、いえ。誤解です」
そうだ。チカリの胸は小さいのではなく、無いのだ。膨らんでもいない大平原なのだ。
「よし、その喧嘩買った!」
「チカリさん! 違います。ごっ誤解です! どこが胸かわからないものを見てなんか……」
アユム。退場。
その後焦点が合わない瞳で『チカリさん最高。筋肉は素晴らしい』と繰り返すアユムが居たといなかったとか。……テーマ【自我】どこいった?
こうして何故かアユムの封印、4つの内の2つ目が解放されたのだった。
~~アームさんの愛の説教部屋-外伝-~~
アームさん(以下ア)「皆さん今晩は、お久しぶりです。みんなのアイドル、アームさんです」
(何故か、ゆっくりとお辞儀するアームさん)
ア「……今日来る人は、わかるよね?」
……ガチャ
・・・
・・
・
鱈「ジャンピング土下座!!」
ア「○(#゜Д゜)=( #)≡○)Д`)・∴'.」
鱈「ジャンピング土下座!!」
ア「○(#゜Д゜)=( #)≡○)Д`)・∴'.」
ア「……4か月なにしてたん?」
鱈「ツッコミ役、パトラッシュでは?」
ア「答えろ、魚類」
鱈「……すみません。モチベーションの問題でした」
ア「これからはどうするの?」
鱈「毎週書きます。ちょっとづつだけどね……」
ア「ほら、一緒に謝ってやるから、頭下げな」
鱈「うう……、アームさんありがとう!では……」
鱈「ジャンピング土下座!!」
ア「○(#゜Д゜)=( #)≡○)Д`)・∴'.」
~~アームさんの愛の説教部屋-外伝-(完)~~




