表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/146

106「妄想の中で(師匠編)」

こんばんは!

あらすじ君「また結構空いたので説明だぜ!」

…え?


あらすじ君「4章はアユムとイエフの物語! アユムは理解と現実の乖離に苦しみ、アームさんに癒される。イエフは何やらアユムとの因縁があるみたいで、何故かコムエンドを目指す! イエフの目的は豊穣の女神だ! 何かアユムと因縁ありそうだぜ!」

…えっとどちら様?


あらすじ君「アユムはダンジョンマスターの思惑で都市型ダンジョン、プトラ・シにきたアユムたちだったが、アームさんは未だ検疫から出てこれない! その隙を縫って暗躍する者達。そして邂逅してしまったアユムとイエフ! 出会いはすれ違いで終わったができた隙は大きく、アユムは暗躍する勢力の画策で眠ったままで起きてこない! 果たしてこの後はどうなってしますのか!」

…え?え?そっそうなだ~。


あらすじ君「(あとは任せたぜ)(*'ω'*)b」

あ、うん。はい。という事で4章6話目開始です。

「がう(いったいどうなってい居るのだね!)」

 アームさんはアユムが宿泊している部屋でタシタシと机をたたく。

 駆け付けた際に一吠えしたらアユムがうなされてしまったので、配慮である。

 若干の緊張感をはらんでいた空気が霧散する。テーブルを壊さないように気を使いながら巨大な猫がプリプリ怒りながら猫パンチを振るう。癒しである。

 アユムは都市型ダンジョン、プトラ・シの中央塔にダンジョンマスターの賓客として一室預かっていた。


「がう(そもそも警備は!? ここ一番大事な施設なんでしょ!)」

「……面目ない」

 髭の守備兵が頭を下げる。一瞬間があったのはアームさんの横で権兵衛さんが翻訳して立て看板を掲げているからである。


「がうがうが(どーすんだよ。目を覚まさないじゃんか! このまま寝たまま死んじゃったらどうすんだよ!)」

 テシテシテシと音をたてないように右前足でテーブルを叩くアームさん。


「落ち着け。ダンジョンマスターの見立てじゃ眠らされてるだけっていうじゃねーか……」

 罪悪感から正座をしているランカスが、髭を撫でながら気軽な様子で言葉に返す。

 ただ、ダンジョンのボス戦が街の中央部で大観衆の前で行えたことでダンジョン攻略に久しぶりに火がついてしまい没頭してしまっていただけに、ランカス達だけに苦笑いを浮かべている。


「がう(ほっとけば起きる! っていってないじゃん!!)」

 正座をしているランカスの頭を肉球でテシテシする。衝撃があまり来ない、フワフワが伝わってくる。


「まぁまぁ、アームさん、落ち着け。俺達が慌てても意味はない。とりあえず、新作料理があるから食っておけ」

 中年太りした料理人ハインバルグがアームさんを宥める。時間をかけてうまく食欲に意識を向かせたハインバルグだが、彼も西大陸料理に嵌り、アユムのサポートをしなかった1人である。『食材も違えば料理方法も違う、インスピレーションの宝庫だ!』と毎日叫んでいた人である。


「ほれ、これなんてな炒めるだけじゃなくて、蒸してから炒めるとこんなにも甘みがでるんだぜ」

「がう(うまっ!)」

 反省の色は無い様です。


「ボウ(さて、アユムの件だが)」

 ナイフとフォークをテーブルの上に置き、上質なハンカチで優雅に口元を軽くぬぐうと、権兵衛さんは本題に移る。アームさんが満腹で落ち着いたので話が始められると判断したようだ。


「ボウ(仔細は母上より聞いていると思うが)」

「母上」

「あれだ、コムエンドのダンジョンマスターだ。階層主(フロアボス)は直接生み出しているからはは何だとよ」

「ほほう」

 説明ありがとうございます。

 アユムが起きてこない。昼過ぎても目を覚まさないアユムに気付いた権兵衛さんは即座にコムエンドのダンジョンマスターに知らせる。

 ダンジョンマスターが滞在する貴賓室に権兵衛さんが駆け込むと、そこにはいい笑顔で何者かを踏みつけるコムエンドのダンジョンマスターと、都市型ダンジョン、プトラ・シのダンジョンマスター並びに天使形態のドワーフ、グールガンが数名の部下を率いて控えていた。


「ボウ(母上?)」

「いいところに来たわね。これから、状況を説明する……わ!「ぐえっ」」

 権兵衛さんはコムエンドのダンジョンマスターの足元では悲鳴を上げる、『神聖な者』を見ないことにした。


「ボウ(状況ですか?)」

「ええ」

「あ、その前に、そろそろ犯人を連行してもよいかな?」

 存在だけなら上位亜神に位置するグールガンは、格下であるコムエンドのダンジョンマスターと、同格の存在である都市型ダンジョン、プトラ・シのダンジョンマスターに視線で牽制する。


「ボウ(犯罪者が治安維持側面とはな……)」

「下界のモンスターごときが吠えるな」

 権兵衛さんの嫌味にグールガンは目ざとく反応し、見下すような視線で言葉を返す。


「あと、私の犯罪は『無断でのダンジョン侵入罪』という軽犯罪だ。神界で面白おかしく放送されたのも、軽犯罪防止の意味合いがあるのだ」

「ボウ(ほうほう、ではお母様の足元の方は漁師グールガンの同胞か?)」

 自分は正義と嗤うグールガン。権兵衛さんは『こいつは扱いやすい』と表情を崩す。


「漁師。楽しかったが、これ以上続けると家庭が崩壊する……。あとな、私とこの方では根本が違うのだ。私の時はまだアユムは保護認定されていなかったからな、だから罪は軽犯罪、『侵入しただけ』だ。だがこの方は既に『神々が認定した特定保護対象である地上の者への接触、並びに危害を加えた』のだ。私たちの様な軽微な違反ではなく、重犯罪者なのだよ。……数千年の苦労の末に下級神にまで昇格したのに馬鹿な方だ……」

 ここで解説をしておくと、1章のグールガンの攻勢はアユムとアームさんがコムエンドのダンジョンマスターが神界で研究成果発表並びに、『特定保護』と言う名の申請が通る前の出来事である。

 『特定保護』とは神界・地上に影響を与える存在を保護、または誘導するために特定の派閥による影響以外を認めない神界の法律である。

 アユムはグールガンとの戦いのあと、その存在がダンジョンの存在意義に大きく影響をもたらすと判断され『特定保護』となっている。

 だからグールガンの一派は神が軽微な罰を受け、実行犯であるグールガンはアユムからの損害賠償請求に応える程度の罰で終わった。

 しかし。

 今回は違う。観念して顔を青ざめている下級神が物語るように、これは神界の法への宣戦布告になる。彼が属する一派がどのような罰を受けるのか……青くなるのであればやらなければよかったのだが……。


「さて、法の神々が関係者を確保したようだ。……ということで、早々にその方をお引き渡し願いたい」

「いいです……よ!「ぐえっ」」

 こうしてグールガンは下級神を連れて神界に戻っていった。まるでできる男の様に。


「ボウ(お母様?)」

「……あの方はね。私が生まれた頃、亜神の皆が噂するほど優秀で、子供の私たちが憧れるぐらい清廉潔白な方だったはずなの……、少なくともこんな計画に加担などしないし、したとしても、もっと……」

「……」

 コムエンドのダンジョンマスターはグールガンと彼が消えた天井を見つめる。

 高位権力の世界で変わってしまった彼。

 何事にも冷静で、2重3重に策を張り巡らせ、下界の困難を幾度も解決した彼。

 努力で得た立場が、真面目な性格が彼を変えてしまった。


「私も……いや、そんなことにはならない……」

「……ボウ(……お母様、そろそろ本題に……)」

「……そうね。さて権兵衛よ。此度の話を、しましょう……」

 向き直り、権兵衛さんに視線を向けたコムエンドのダンジョンマスター。権兵衛さんは自然に片膝をつき首を垂れる。強い意志を含んだコムエンドのダンジョンマスターの瞳は上位者得湯の圧力と空気感を生み出していた。


「【とある一派】がアユムをつけ狙っていたことから今回の話は始まるわ……」

 その後数分天界での抗争が語られる。抗争に敗北しかけた一派が強硬策に出た。

 アユムの確保……ではなく、アユムという人物の消去。

 とられた方法は夢の世界に捕えると言う方法。【とある一派】の目論見は、これによってアユムは活動を停止させること。効果としては、未だ謎多きダンジョン作物の効果検証の停止。それに伴いコムエンドのダンジョンマスターの上司である神を抱き込んで展開されている【派閥争い】で、有利を得ていたブラック様の一派、光の神が率いる派閥、の計画を乱し。敵対勢力である【とある一派】の派閥の再建、並びに反転攻勢を望んだらしい。

 つまるところ、彼は派閥争いの捨て駒にされたのだ……。アユムが起き上がれなくなればよし。失敗してもアユムの心境に変化が起き、能力を失えばそれもまたよし。それらがならなくても、光の派閥が保護しているアユムに危害を加えたという実績があれば……。

 捨て駒は義務を果たした。それは彼の本意ではないとしても……。


「……」

 そこでコムエンドのダンジョンマスターは気付く。自分のイラつきの原因を。子供の頃憧れた存在が価値の低い捨て駒にされたことの苛立ちだ。


「イラつくけど、ここは我慢ね。……さて、話を戻すわ。今回の件、我々も情報は掴んでいた。だが、腐っても神々なのよ。なかなか尻尾を見せない。……だから」

「ボウ(アユムを囮に使ったと?)」

権兵衛さんが眉間にしわを寄せ目を細める。


「貴方達はしっていたかしら?アユムの存在が【揺れ】ていたことに」

「ボウ(【揺れ】ですか?)」

「そう、私も最近知ったのだけども、あの子は天使の父と人間の母の間に生まれた子供……」

「ボウ(……なるほど)」

アユムはどこかアンバランスな人間だった。

できることができなくて、できないことができるような。不思議な人間だった。

アームさんも権兵衛さんもワームさんもそんなアユムだからこそ側にいた。

権兵衛さんは心の底で、だが確信的に思っていた。自我に目覚めるモンスターはアユムの【何か】に存在を揺らされているのだと。余りにも不確定なことなので口を噤んでいたが……。その揺らぎがいっそ心地よいものだと感じていたのだ。


「なるほど、面白いこと言うじゃないの」

 研究者として、コムエンドのダンジョンマスターに火が宿るのを権兵衛さんはみた。


「これが終わったら調べてみたいね……。じゃなかった。亜神にとって下界の者達は基本子供にしか見えないのだけども、結構多いのよ。下界のものと子供を作る亜神が、私は違うけど、亜神って未熟な神候補だから、下界のものに自分を補えるものがあるって思うことがあってね……。でもそれは、中々うまくいかないのよ」

「ボウ(神界の意向ですか?)」

「いや、神界は働き手不足だから亜神になれるのであれば歓迎なのよ」

「ボウ(……なれぬのですか……)」

「亜神とのハーフは生まれてこれるのが3割、幼体から成体になれるのが1%といわれているわ……。人間には制御できない力、神力と、身に宿す特殊能力に食われてしまう。アユムを見ていてわかると思うけど、成体になっても力に体を蝕まれ、本来であればその乱れを整えるべき心は制御しきれず歪み……やがて崩壊する……」

「ボウ(そんなことは……)」

「心当たりあるわよね。今のアユムの状況だってあの子の性格なら『こんなこともあるんだね』とか言いそうじゃない?」

「……」

 否定しようとしてできない権兵衛さん。


「それができなくなったのは、明らかにアユムの力が、彼自身を蝕んでいるから……」

 解説になるかわからないが、亜神は人間と違う。体の構成が違うのだ。

 下界に住まうもの達は基本、2種類の体で構成され、それぞれ制御している。

 『肉体』それを制御する『精神体』。

 『魔法力体』それを制御する『魔法回路』。

 だが、亜神はそれに加えることに、『神力』それを制御する『神体』が加わる。

 亜神はその存在を何代も重ねることよって神体を成長させている。

 やがて亜神は神体を完璧に制御すると、肉体を捨て、神体によって生きる神になる。

 つまりアユム達、亜神ハーフには生まれつき神力はある、だがそれを制御する神体が半分下界のものである。その為、自らの神力を制御できず自壊する。

 アユムも本来は生まれることすら叶わぬ命であった。しかし、そこは神界における豊穣の女神の派閥でも高位に位置したあアユムの父、アキトの能力によりアユムは苦しくも生き続けることができた。


「今回は確かに、アユムを相手派閥を動かすための餌にした。しかし、我らがアユムに施せる処理に限界が来ていたのも事実だ……。そしてそれは我らが盟主であるブラック様が分体とはいえちょっかいをかけてきたからなのだけどね……。まぁ、そこら辺は追々わかる……。今回の狙いはこの状況にある。思っていた以上の事を仕掛けられたが。ある意味好都合だ」

 『ギュッ』と権兵衛さんがこぶしを握る音が響く。

 ロジカルに考えればアユムに致命的なことは起こらない。保険も巡らせ万全の状態であえてこの地に来たのだろう。権兵衛さんも伊達に皇帝ではない。目的の為に成すべき事、身を切る事、の割り切りはできるはずである。だが、できるのと納得できるのは別だ。守るべき友人を危険にさらされたことに思うところは多く、だがコムエンドのダンジョンマスターの意志も理解できる。だから、グッとこらえる。


「今回貴方たちにしてほしいのは……」


 ランカス達、『昨晩はダンジョン攻略でお楽しみでしたね♪』の5人組は今不思議な街に居た。

 コムエンドの様な街並みなのだが……根本的に違うものが一つ。


「何だこりゃ……」

 ランカス達が見上げるのはコムエンドらしき都市の中央部にそびえ立つ大きな塔。

 プトラ・シとコムエンドが混じったようなその光景にランカス達は言葉を失う。


「皆さん、お待たせしました!」

 最近あまり見なかった、屈託ない笑顔を浮かべたアユムがかけてくる。軽戦士の冒険者と言わんばかりのその恰好にランカスは少し苛立った。


「(何故片手剣! 槍を使え! 槍を)」

 思い切り私情であった。


「皆さん、準備はいいですか?」

 ワクワクが止まらないといった様子のアユムに苦笑いを浮かべる面々。

 ドワーフの石職人、槍の名手、ランカス。

 中年太りし料理人、双剣使い、ハインバルグ。

 口数の少ない名医、モンク、リンカー。

 エルフの家具職人、弓の名手、タロス。

 冒険者組組合長(苦労人)、魔法師、モルハス。

 豪華なメンバーである。

 だが、一つ普段と違う点がある。


「「「「ハインバルグ、痩せたな」」」」

 声がそろう。


「よけいな世話だ! 俺の若い頃はこんな感じだ!!!」

 憤るハインバルグ。他の師匠達になだめられる。彼は普段の、(横幅的に)頼りがいのある中年、ではなく、イケメンの青年であった。『昔のハインバルグ……?』と呟いて首をかしげるランカス。失礼である。

 彼らは今アユムにかけられた術を解くため精神体となってアユムの夢の中にいる。

 アユムにかけられた『夢幻牢獄』とは神体制御のカギとなっている精神体、その要所に甘い夢を見せ、本人の意思によって機能不全を呼び起こし、対象者を行動不能にする術である。

 ランカス達はコムエンドのダンジョンマスターに『精神体だけ送り込むから、術式の破壊とついでにアユムの弱った精神体と、アンバランスに強化された神力体との調整をしてきて』と言われ、眠らされた(物理)。

 その為、精神体だけの存在となった師匠達は、皆一様に若い頃の姿でアユムの前に居る。そして夢の住人であるアユムは、その状況を当然のように受け入れ、冒険者を楽しんでいた。


「今日こそ、ボス攻略です!」

「おー!」

 アユムの掛け声に嬉々として答える男、モルハス。

 色々と状況を理解した男は吠える。

 今回の訪問中もダンジョン攻略に向かえず、冒険者組組合長(苦労人)としてこちらのハンター組合と情報交換に勤しんでいた。さすが冒険者組組合長(苦労人)。

 そして今、冒険者組組合長(苦労人)はアユムの窮地で色々なしがらみから解放された事を理解した。


「ボス、ぶっ殺す! 俺の究極魔法を見せてやるぞ!!」

「流石、モルハスさん。頼りになります!」

 他の師匠達と空気が違う。


「……タロス、貴様は変わらんな」

「エルフですから。しかし、貴方も変わりませんね」

「……肌がぴちぴちである」

 口数の少ない名医のはずのリンカーとエルフのタロスの会話である。皆何故か浮足立っている。


「さあ! 14階層まで攻略してますからね、今回はそこから始めましょう!」

「「「「「は?」」」」」

 フンスと鼻息荒く手を振り上げたアユムはそのまま塔に振れる。すると師匠達は光に包まれ……、ダンジョン内部に転移していた。


「流石夢……ご都合主義」

「「「「だな」」」」

 ランカスのつぶやきに他の面々が同意する。……いや、実はこの機能を実装しているダンジョンがありまして……、いえ何でもないです……。


「じゃあ、いきましょう!」

 やたら無警戒に進むアユム。周囲の警戒をしつつ追う師匠達はものすごい違和感を受ける。


「なぁ、なんだこの頭に響く音楽は……」

「ランカスさん、何を言ってるんですか、ダンジョンごとにBGMがあるのは常識じゃないですか?」

 いえ、常識ではないです。


「アユム!」

 周囲を警戒していたタロスが突然視界に現れたウサギ型のモンスターに驚き、警戒を促す。

 すると、彼らの脳内に響いていたBGMが変わる。より危機感をあおるような音楽に代わる。


「任せろ!」

 タロスは弓を構え、先制の一撃を加えようとして……『待ってください。ルールを守ってください』とアユムに止められる。


「……」

 アユムの言葉に従い、数秒待つと床が光ると正方形のタイルを敷き詰めたように変化する。

 そして師匠達とアユム、更にはモンスターも何かの強制力でゲームの駒の様に配置される。そして1匹だと思っていたモンスターがタイルの上に乗ると4匹の増殖した。


「……3匹どこからきた……」

「やりましたね! おいしい敵です!」

「美味しい?食うのか?」

 どこから突っ込んでいいのか困惑する師匠達。


「経験値多い敵ですよ、経験値ラビット! それが4匹! ついてます! 戦闘が終わったらレベルアップかも!!」

 敵のネーミングセンスを聞いて師匠達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと再認識した。


「経験値ラビット……」

「自動レベルアップ」

「勝手に整えられた場」

「「「「御都合主義」」」」

「あ、初手ランカスさんですね派手にお願いします!」

 若者についていけないランカスだが、彼は冒険者である。無理無茶を乗り越えることを快楽とする人種である。ランカスは愉快気に口をゆがめると、この無茶苦茶な状況と向き合う。

 状況。

 モンスター陣地に6マス。

 冒険者陣地に6マス。

 1マスに1人または1匹づつ立たされている。

 そして何故だか強制的に武器を構えさせられている。


「……なんだ、体が動かん……」

「ランカスさん! 攻撃を選んで! 制限時間きちゃうよ!!」

 ランカスは目の前に浮かんでいる板が先程から60から1秒に1づつ減っていっている。

 さらに板にはアユムがいう『攻撃』『防御』『魔法』『逃走』と言う選択肢があった。

 ランカスはとりあえず『戦う』に指を触れる。すると、次の瞬間ランカスは経験値ラビットの目の前に移動していた。瞬間移動である。驚きつつも状況を確認し続けるランカス。彼は自分の意識と別な何かに動かされ、槍を経験値ラビットへ向けて突き出す。


「はっ?なんだこれ??なぜ俺が初心者みたいな攻撃を……」

「ナイスです! ランカスさん」

「「「「ナイス(笑)ランカス!(爆)」」」」

 明らかに槍の名手らしからぬ攻撃。それでも一撃で経験値ラビットを倒したことにアユムは喜び、他の面々は戸惑うランカスを冷やかした。


「よし、次は俺だな! 見させてもらったぞ。そして攻略方法もな」

 タロスが叫ぶ。


「うわ、もう本性表したよ。暴力エルフ」

「あいつ弓兵とか言ってるけど、本性はバーサーカーだからな」

「……ああ、昔巻き込まれた思い出が……」

 モンクのリンカーが嫌な思い出を思い出し凹んでいる。表面上紳士のタロスは『撲殺の弓兵』という二つ名もちである。


「って、てめー! 俺の攻撃で見切りやがったなずり―ぞ!」

「はははははは、さて【攻撃】をポチっと……」

 ランカスの抗議をスルーしたタロスはランカスと同じく素人に毛の生えたような不安定な構えるが矢を放つ瞬間にタロスは嗤う。本当に矢を放つ一瞬であった【本来の構えで、本来の技術で】タロスは矢を放つ。


「かっかっかっか、動かない獲物ではいささか不満だが……、どうだ!」

「すごいです!」

「くそ! 次は俺だ!」

「あ?マジでレベル上がったっぽいぞ」

「皆さんステータスを確認してポイントを……ってなんで皆【素早さ】に極振りしてるんですか?折角のポイントなのに……」

「「「「「先に行動しなきゃこいつらに持っていかれるからだ!」」」」」

 仲の良い師匠達の進撃は万事こんな感じで続く。

 エンカウントして素早さの数値が高い者が初手で全てを倒す。

 ランカスのターン全員が理解した、攻撃するほんの一瞬、自分に体の自由が戻ることを。

 あるものは素早さの種とかいうおかしなマジックアイテムを使い。

 あるものは素早さを上げる魔法を使い。

 師匠達はこの世界を楽しんでいた。


「……15階のボスも一撃……」

「アユム―! 次行くぞー」

 光となって消えた15階層のボスを前にアユムは呆然としている。

 アユムの変化に気付いた師匠達は目くばせをしてアユムに向き直った。


「いつもそうだ……。僕は特別なんかじゃない。でも、いつも僕だけ違う。僕だけ死にやすい。でもそれを補うだけの力がある。僕は特別なんかになりたくない。僕は作物の様に全力で生き、全力で生きた証を残したいんだ! 僕は……」

 アユムは父に母に生かされてきた。その特殊な生まれと、特殊な能力は本人が理解していた。だからアユムは大地に根を張り、日進月歩で成長し、次代につなぐ結果を残す作物が、それを育て向き合う農業が好きだった。その姿は特別扱いされ、力に苦しんだ幼き日のアユムを支えた。そしてアユムは遊ぶことよりもその姿を見る。そして育てることに喜びと、憧れを抱くようになった。

 それが、神様、神剣、歴史に残るような化物、聖剣、道の先を歩く先輩方を倒してしまった結果。

 アユムはそこで認識してしまった。自分が特別であると。自分が一番嫌いな者であると。


「餓鬼の癇癪かよ」

「自分が特別であることが、努力する他人を凌いでしまう事が罪深いとかか?若いなw」

 あざける師匠達にアユムは殺意を込めた視線を送る。


「アユムよ。槍を持て」

 ランカスはそんなアユムに自分が持つ槍を投げる。


「……」

 アユムは興味なさげに腰を落とし、構えを取る。


「30点だ」

 その言葉にアユムは眉を寄せる。


「まぁ、お前の世代でそこまで至る奴はいないだろう。そういう意味ではお前は特別だ」

 ランカスはとてもつまらないものを見る目で構えるアユムを見る。その瞳に熱はない。


「だが、この半年。アームさんの下で騒動に巻き込まれたお前は進歩していない。努力するのがすきだ?特別になりたくない?目標に向かってゆっくりだがしっかりと進みたいだ?お前は俺達を馬鹿にしているのか?……アユムよ、その30点の構えで突いてくるがいい……」 

「……後悔しますよ。僕は強い。技量が少し劣っても、僕は特別だか……ら!」

 忌々し気に突き出された穂先はまるでゆっくり差し出され得た棒の様にランカスの手の中に納まる。

 槍はアユムが押そうが引こうが、特に構えてもいないランカスの手から離れることはなかった。

 そしてアユムはいつの間にか投げ飛ばされ地面に沈む。


「……20点から30点に至るとき苦労する弟子が多い。だが、アユム。お前は特別だった。だが、その後の成長は平凡だ。その程度の成長であれば、5年で追い越される。技術は道だ。人が一生をかけて歩む。遅れるときもあれば、駆け足の時もある。歳に合わせ、体に合わせ、だが俺達は道を進む。自分が特別だと信じて。特殊な自分に合った道を探り、そして進み続けるのだ。特殊で何が悪い?特別で何が悪い?元来生き物とはその個体個体が特殊で特別なのだ! 自分を信じられず。自分を観れない奴は何かにつけて自分を諦める。1年、5年、10年。その程度の将来しか描けないくせに、自分を諦める。……アユム。お前はどうだ?」

「……特殊はやだ。特別はやだ。つらいことを一人で耐えるのはもう嫌だ!!!!」

 天井に向かって叫ぶアユムをゆっくりと引き起こしたランカスはアユムに槍を握らせる。


「構え」

「……」

 槍を構えたアユムの正面に立ちランカスは威圧を強める。


「自分と向き合え」

「……」

「自分を信じろ。根拠を探せ。自分を俯瞰し、自分を論理的に分解しろ。自分を知らない奴が、自分を信じられなどできん。向き合え」

「……」

 アユムはランカスの威圧に耐えながら、槍を構え続ける。やがて、体が震え始めた。

 そしてランカスへ槍を突き付け、宙を舞う。


「31点。槍を離さなかったのは褒めてやろう。だがお前はきっとすぐに30点に戻る。アユム。お前は特別だ。特殊でもある。そんなお前を信じたのはお前だけか?」

「……」

 アユムは立ち上がり槍を構える。

 そして槍と向き合う。

 自分と向き合う。

 そしてこれまで歩んできた道を振り返る。

 自分が何で構成されているのかを解きほぐす。

 辛くても、痛くても生きることを諦めなかったのは、何故か。

 妙な力に苛まれ、振り回された日々を。

 自分を構成する経験とさせてくれた人たちの笑顔。自分が立つために必要な事。

 それらと向き合う。

 ここのアユムは時間を忘れて槍を構える。

 そこには冒険者を始めた頃のアユムが居た。


「いい顔になった。神様たちに振り回される前のアユムだ」

「ちっ、戦闘じゃなければ俺が諭したのにな」

「そうだ。アユムは冒険者組合の事務でも立派だぞ! 自分を信じろ! そしてたまに助けて!!」

 真顔で叫ぶモルハス。

 師匠達はアユムをモルハスの様にしてはいけないと心に誓うのであった。


~その頃、現実世界~

「アユムの師匠達は?」

「隣の部屋に運んで置いたわ」

「そうか、こちらは丁度次の方々を送りだしたところだ」

 プトラ・シのダンジョンマスターが部下を呼んで眠っているチカリと悪魔ちゃんと賢者の娘を運ぶように指示を出す。それをみてコムエンドのダンジョンマスターは息を吐き出す。


「第2陣は豪華メンバーね」

「ああ、すぐに戻ってきそうだね」

「いや、あっちで玩具を見つけてぎりぎり間で戻ってきそうにない気がする……」

「ははははは、なるほどそうなのかい?」

 プトラ・シのダンジョンマスターはお茶目な笑顔を見せる。


「で、第3陣はまだなのかな~。アーム君」

 寝たふりをしていたアームさんを蹴り飛ばすコムエンドのダンジョンマスター。


「がう(お母様蹴らないで。……眠りたいんだけど、なんかそわそわして眠れないの!)」

「子供か!」

「がう!(はい!)」

「……よし、折角だから秘伝の睡眠法を試してあげる。アーム、こっちおいで」

「がう(は~い。秘伝! 楽しみ!)」

 はい。秘伝(物理)炸裂。

 アームさんは、ワームさんを枕にすやすや眠っていた権兵衛さんのよこで、気絶(眠った)した。


「これで3組。術式は4か所……人員に心当たりがあるのかな?」

「問題ない。呼んでるから大丈夫」

 コムエンドのダンジョンマスターはそういって指を鳴らす。すると、扉が開き5名の冒険者が入室してくる。

 1人は、魔法戦士のような魔方式が織り込まれた鎧を身に纏った茶の切れ長の瞳が特徴的な男、サム。

 続いて、黒髪黒目の小柄な魔法使いタナス。

 その後2名のエルフ。1人は清楚な貧乳エルフ。もう1人は活発そうな雰囲気の巨乳エルフ。


「アユム――――」

「いかせない! イットは私の物!」

「リムどいてくれ! 借り物の体でもアユムに抱き着いて体温を感じたいんだ!!」

「目を覚ましてイット! 思考が変態に近寄っているわ!!」

 はい。2章で利用された遠隔操作用のエルフ義体を操作するイット&リムです。


「……おかしい。なんで商人の俺が……」

 最後に最近戦闘にかかわっていない見習い商人のセルが頭を抱えながらその後ろに続く。


「ことアユムの事に置いては彼らは強力よ」

「……だといいんだがね……」

 プトラ・シのダンジョンマスターはにぎやかな若者たちの様子に溜息をつく。そして自信満々のコムエンドのダンジョンマスターを横目に思考を巡らせる。

 こうしてアユム救出作戦はにぎやかに始まるのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


では『いつものやつ』行きます!

~~アームさんの愛の説教部屋6~~

アームさん「皆さん今晩は、みんなのアイドル、アームさんです」

(ゆっくりとお辞儀するアームさんwith蝶ネクタイ)

アームさん「……本日のゲストは、……あ、こいつもう出てこないの? エピローグでチョイチョイ出てきたのに、でおなじみ、この人です」


……ガチャ

・・・

・・

タヌキチ「日本魔術協会の方から来ました」

アームさん「お前、農家さん目指す夢はどうした!!! あと『方から来ました』って詐欺か!」

タヌキチ「ちっ違うんだ。何だかんだで調子に乗って黒いのが魔法使っちゃったら出国禁止。しかも、監視付き生活になっちゃったんだよ。大学の進路も北海道行くと警備できないとか言われてさ……」

アームさん「あ、あ~。そういやお前の世界って、魔法力が少ないから媒体使って再現する魔術しかないだっけか?」

タヌキチ「そうそう。そんなそっちの世界で黒いのがやりすぎて、僕を倒すのに地球の神獣様が世界を超え泣きゃならなくなってな……。その影響で地球世界に汚れた魔法力が大量に流れ込んできて……、今こっちの世界がおかしなことになりかけている……」

アームさん「おっと、新作の話はそこまでだ(´∀`)9 ビシッ!」

タヌキチ「……新作。出番。」

アームさん「ないそうです」

タヌキチ「……新作。出番。」

アームさん「ないそうです(しつけーぞ、糞タヌキ!)」

タヌキチ「いいもーん。僕こっちの世界じゃVIPだし~。女の子にもモテモテだし~。お金もいっぱい持ってるし~。」

アームさん「女の子(実は千年生きてる魔女)にモテモテ(非検体)」

タヌキチ「ぐほっ!」

アームさん「お金もいっぱいもってる(危険手当)」

タヌキチ「がはっ!」

アームさん「VIP!(要するに希少なモルモット)」

タヌキチ「;つД`)」

アームさん「てか、何で魔法使った?魔術も仕えたよね?黒い方」

タヌキチ「……ほら、あいつクール気取ってるけど天然じゃん」

アームさん「あ~」

タヌキチ「なんかさ、3章の話を上司から聞いてさ、火がついちゃったのよ。熱い奴なんだよ。黒いの」

アームさん「2章のラスボスがクール気取りの天然で、意外と熱い良い奴……、台無しだな」

タヌキチ「台無しだよ……」

アームさん「……ま、強く生きろ……」

タヌキチ「え。放り投げたよ! この人! そして終わるの?マジで?……」

アームさん「皆さんまたお会いしましょう~」

タヌキチ「来年また超級モンスターでお邪魔するのでみんなよろしくね~」

アームさん「お前の1年後はこっちの100年後だから、お会いすることはありません」

タヌキチ「え?」

アームさん「ではまた~~」


~~アームさんの愛の説教部屋6(完)~~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現在、こちらを更新中! 書籍1・2巻発売中。
アームさん
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ