103「アームさんの一日」
こんばんは!
北海道は大雪!ということで早期帰宅のおかげで書けたお話をどうそ!
アームさんの朝は早い。
昼間ゴロゴロするためにアームさんは早朝、いや深夜に仕事をする。
深夜は人間達もいないので仕事がしやすいと面もある。
昨今ダンジョン作物ブームにのってコムエンドには15階層へ挑む冒険者が増えてきている。
これはコムエンドのダンジョンが、他のダンジョンに比べ飛躍的に生還率が高くなった事が原因している。
原因は先日来居ついてしまった神樹の息子、天才ハッカーにして自称聖樹(以下聖樹)がダンジョン運営に参加したことによる恩恵である。冒険者は生きて逃げさえできれば、聖樹の回復樹液による回復が受けられるのだ。安全性が向上し食い扶持にありつけると周辺都市よりこぞって冒険者がコムエンドを目指した。
これに対して、当初ダンジョン浅層でのダンジョン産業を営む、コムエンドに元からいた多くの冒険者達は新旧冒険者間でのモンスターの奪い合いが発生するのではないかと懸念した。
だが、現実はそうならなかった。まさかのモンスターが増えたのだ。
従来のモンスターは大地を伝う魔法力網の中から【汚れた魔法力】を組み上げ浄化装置としてモンスターを作り上げるが、聖樹は空中を対流する魔法力のネットワークにから【汚れた魔法力】を組み上げ浄化装置としてモンスターを作り上げてしまったのだ。常識破りである。
結果、安全性の向上に伴い冒険者の増加に呼応する様に、モンスターも増加。冒険者の懸念は解消された。
この変化が明るみになった当初、都市の経済を回す重鎮たちの間で『モンスター素材の増加、供給量方による値崩れ、コムエンドの経済の崩壊』も懸念された。
しかし周辺都市の食い扶持に困った農民を吸収し、拡大を続けていたコムエンドではその懸念も杞憂に終わった。素材が増えた程度で供給不足が賄えることもなかったのだ。
寧ろモンスター種類が増え素材が増えたことで、職人不足からのベテラン冒険者の職人への転身が加速された。その後連鎖する様に加工品の量と種類の増加に伴う流通の更なる活発化が起こり、コムエンド経済が更に活性化していくことになる。
この変化を察知したアユムの祖父である宰相閣下が人目をはばからず叫んだのは別の話である。
『『折角、国内外調整したのに! あの脳筋領主!!!!』』
国王陛下も叫んでいたようです。
このような変化に伴い、ダンジョン産業に従事していた冒険者の一部、実力をつけ始めていた冒険者が更なる高収入を求め15階層を目指し始めていた。
さて、アームさんに視点を移してみよう。
そもそも1~15階層なんて広い範囲を管理させられていたアームさんである。
一時、聖樹が本格活動する前までは楽な仕事であった。冒険者たちがダンジョン産業の回想から先に進もうとし始め、アームさんが処理する。楽であった。更に素材もって10階層に行けば宴会である。
仕事中のお酒……。プライスレス……。
が。
最近管理モンスターが増えた。
『もう覚えきれません(アームさん談)』
因果応報である。サボったら忙しくなるのである。
『てか、人間増えすぎすれ違いの時に警戒されるんですけど?失礼じゃん(アームさん談)』
アームさんの見た目は1.5mほどのでかい白猫である。
更に背中には羽があり、ドラゴンぽい角も生えている。
危険生物の香りがする。
冒険者組合での指導が功を奏して攻撃されることは少ないが……それでも攻撃される。
そしてアームさんパンチ(猫パンチ)炸裂である。
こうして、なんだか面倒臭くなったアームさんは人間が寝ている時間に仕事をするようになった。
パシッ
階段を上がってきたアームさんはおもむろに階段わきの壁を叩く。すると聖樹の枝が下りてきて板状になり、その上に階層地図を描く、その上に黄色と赤の花を咲かせる。
花の数は10を超えていた。
「がぅ……」
アームさん思わず溜息。
これはアームさんが聖樹に抗議した結果である。
聖樹によってフロアごとに管理対象の情報を共有できる仕組みを作られたのだ。
ちなみに赤は暴走直前または暴走モンスター、黄色は早めの対処を推奨するモンスターである。
「……がう!」
暴走モンスターを狩った後、放置していつもの様にこの階層のモンスターに処理させようかと思ったアームさんだが、あるものを目にしてとある天才的な発想を思いついて実行する。
「がう(皆で分けて食べるんやで……)」
結界を張って休む人間、冒険者たちの横に暴走モンスター達を積む。
気分はサンタクロースである。
アームさんはいい事した! とばかりに満足して去っていく。『すっごい楽できた! 今度からこうしよう!!』と。
だがしかし、モンスターは生ものである。狩猟したその場で正しい処理をしなければ、そう腐るのだ。
考えてほしい。結界は匂いを通す。
結界を持ち込めるほどの冒険者たちが朝方異臭に気付いて目覚めると駄目になったモンスター素材が転がっているのだ。どんな嫌がらせか、と思うだろう。
しかも本来であれば、肉はその階層のモンスター達が頂き体内の魔石を熟成させ、残った皮や骨はダンジョンという高濃度の魔法力が流れる場所で、いわゆる熟成の様な作用で価値を上げる。
冒険者にとってその素材を拾うのは副次的な収入であるし、魔石が育ったモンスターを討伐すると価値が上がった魔石が手に入る。冒険者にとって持ち帰り可能な素材で一番高価な魔石である。それが育っているというのはそれだけ旨みがあるのだ。
1週間後、アームさんはアユムにこんこんとお説教されるのであった。
さて、満足げなアームさんは10階層で深夜作業組の冒険者たちと一服し、浅層に向かう。
15階層から始まった管理作業は5階層で終わる。……本来は6階層なのだが、5階層はほら……(81話参照)。
そんなこんながあってダンジョンに薄明かりが灯り始めた頃アームさんは15階層に帰ってくる。
15階層で早朝から働き始めるているのはマールと料理人ハインバルグかその弟子である。あと、いつもはアユム。
アームさんがキョロキョロとアユムを探していると、マールが仕込み作業をしながらとある方角を顎で指す。
随分大きく高くなった師匠達の宿舎。その横に平屋がある。アユムの家である。
師匠達の宿舎も、アユムの家も素材は石である。そう、ダンジョンマスターの精神を破壊しかけたダンジョンの壁である。
彼らはダンジョンの壁を粉砕して、岩魔法と呼ばれる魔法で下処理をしてブロックを作る。それを積み重ね1時間待つとそのブロックは高い強度を備える。そう、ダンジョンの壁に戻るのだ。
こうして彼らは壁を砕いては整形し、家を建てている。
アユムの部屋は当初師匠達の宿舎の中にあったがアームさんが寂しがったため、外に作られることになった。ドワーフの石職人ランカス曰く『職人テスト』という目的もあったそうだ。
因みにテストの結果は……。
『及第点……砕きが甘い……魔法精度が……』
普通は整形するのも無理なところなのだが、笑顔で無茶をいうランカスであった。
なお、当初建てられた家は普通の人間サイズであったためアームさんが無理に入ろうとして崩れた。
アユムが目を覚さました時、苦笑いを浮かべるアームさんと崩れたアユム建築した家一号を目にして……アユムは2日間師匠達の宿舎に引きこもった。凹んだようだ。
その1週間後アユムは家2号を建てる。
下層から提供された木材も豊富に使い、柔軟性を持たせる。
自信作であった。
翌朝、アユムが目を覚ますと……、器用にドアに頭だけ突っ込み無理に進むことも、引くこともできなくなり苦笑いを浮かべるアームさんと目が合う。
即座にアユムは扉を改良し、アームさんが入ってこれるように改善した。
アームさんは仕事に出かける前に寝ているアユムを見て帰ってくる頃起きていればご飯をねだり、起きていなければ起こしに行く。
今日は起きていないようだ。アームさんはできるだけ音をたてないように扉を開き寝ているアユムを見る。
「……うー……」
大量の汗をかいてうなされていた。
こういう時、アームさんは顎をアユムのベットに乗せ一声『なぁ~』と鳴く。
数分まつとアユムはアームさんの頭に抱き着いてくるのでアームさんも甘えるように頭を擦り付け、少し眠りにつく。
次目覚めると笑顔のアユムと一緒に収穫に向かいご相伴にあずかる。
そして次はお食事処まーるに出勤してちょうネクタイを装備して、まったりとする。たまにもらえる食べ物に舌鼓を打ちながらまったりと過ごす。
「今日こそ仕事してもらうぞ! クソ猫!」
「がう(面倒くさいのが来た……)」
人形王が3日に1度は来る。
知性を得たモンスターを動力源とした大型魔導農機具開発を諦めないようである。
アームさんは乗り気ではない。仕事を増やさないでほしい。アームさんは農作業を終えたアユムとまったりしたいのだ。
だが、
「人形王様いらっしゃいませ。アームさん、お仕事頑張ってね」
アユムにこう言われると参加せざる得ない。
アームさんは知っていた大型魔導農機具に向けるアユムの眼差しがキラキラと輝いていることに。
「(むかつく。道具のくせに)」
嫉妬であった。
結局その後、『世界の8王』のうちの1人のくせに高頻度で現れる人形王の相手を適当にこなしながらアームさん夕飯を食べて仕事の前の睡眠をとるのであった。
「がう(お母様からの呼び出しだ……、100階層遠い……。でも何だろう……)」
変化とはいつも唐突にあらわれる。
この時のアームさんの様に【安定して油断した】時に顕著に表れる。
☆☆☆その頃、イエフ君
「……行くのか?」
「はい」
旅立ちは一握りの空白の部隊幹部にしか伝えていなかった。だが、今イエフの前に家族が並んでいた。王都を離れ少し行った街道でである。……王城という防御の外に王家が4人、何とも無防備な……そうイエフが言おうとして時である。
「何も言わないで出ていくのは12歳の時と一緒だな。そのせいで1軍が警護に動いておるわ」
がっはっはと豪快に笑う父王。
その横で腕組をしながらイエフを睨んでいる長男と次男。
イエフがなんと言葉を掛ければよいのかと頭を掻こうとしたところで不意打ちで抱きしめられた。
「背が伸びたわね……、もうこの子ったらあなたを大事にしてあげられと。これまで与えてあげられなかった愛情を上げられると。そう思った矢先に勝手に出ていって……。もう誰にも文句も言わせない状況を作り上げたのに、国を出て行ってしまう」
母がイエフを力強く抱きしめる。イエフは16歳である。そういった行為は恥ずかしい年ごろである。だが、心地よかった。家族が不器用に、優しかったことを知っている。嬉しかった。我儘で国を出る。親不孝にも戻る気はなかった。使命を果たすために表立って大事にできなかった反面、裏で色々甘やかしてくれた家族に申し訳が無く、伝えずに出るつもりだった。
「して、何処へ向かう?」
しばらくイエフを抱きしめていた母は兄達に引き離されると。
父王がバカンスへ行く先を訪ねるように聞いてきた。
「コムエンド……大陸南東部です」
「遠いな……これは1年は戻ってこれぬな」
父王はのんきな口調であった。
状況からイエフが命を賭してなさねばならない使命がある。それは王ほどの人材であれば、兄たちほど有能であれば、察しているに違いないが、あえてとぼけていた。イエフはその状況に苦笑いを浮かべた……つもりでいた。
(何でこんなにうれしいんだ……)
それは満面の笑みだった。
家族らしい思い出なんかなかった。
でも気遣われていることは知っていた。
表向きで向けられない愛情がある事を知っていた。
「イエフ。お前の帰ってくる場所はここだ」
長男が言い切る。
「一兄……」
「黙ってうなずけ、イエフ」
次男がイエフに近づいて本を手渡す。『各国の情勢と特産物』と題名が書かれている。次男お手製の本の様だ。イエフは懐かしさから本を開くと一頁目に『生きるためには金と情報が必要だ。生きて帰ってこい、弟よ』と書かれていた。照れ笑いを浮かべるイエフ。
「そこは、出発してから見ろよ……」
照れる次兄にイエフは胸がいっぱいになる。
「さて、イエフよ。我が子よ。使徒として選ばれたお前の使命なのであろう。行くがいい。だが、最後に……『帰ってくる』その約束だけはして行け。言葉には力がある。我らにはもはやお前の手伝いはできん。だから『帰ってくる』と、その言葉の力だけ、我らとのつながりをもって旅立て。お前が覚えている限り、我らもその言葉を忘れん」
「はい。行ってまいります。……そして帰ってきます。必ず……」
イエフはところどころ言葉に詰まりながら言葉を発する。
次男がイエフの頭に手を置くと無造作に撫でる。そしてしばらくすると背中を押し長男の方へイエフを歩ませる。
長男は一本の短剣を差し出す。豪華な拵えのその短剣は実践向けではない。武の男である長男らしくないと首をかしげるとそこに手を置かれ、次男より乱暴に撫でられる。
「旅に金は必要だろう。どこぞで売って路銀にせよ。間違っても二束三文で売り払うなよ」
長男はイエフの前で初めて笑顔を見せてイエフを母の方へ。
「……これを付けていきなさい。我が王家の子よ」
王家の紋章をかたどったペンダントを差し出され、イエフはそれを身に着ける。
「イエフよ。帰ってこい。必ずだ」
イエフがペンダントを身に着けたの確認して満足している母と、照れているイエフをまとめて父王が抱きしめそうささやく。
「……旅先で困ったことがあれば、それを提示して外交ルートを使うとよい」
豪快に笑う父王と母に背を押されイエフは街道を歩み始めた。
イエフが振り返ると、母は名残惜し気に手を伸ばしたままだった。
「アーテルランド王家第3子、イエフ。家族の誇りを胸にいってまいります」
軍隊式の美しい敬礼でイエフは家族へ胸をはり、そして。
「必ず、……帰ってきます」
「うむ! 行ってまいれ! 我が家の自慢の息子よ!!」
父の言葉に背を押されイエフは街道を駆けだした。
駆けだした後イエフは何度も振り返った。
振り返る度に家族は手を振ってくれる。
米粒ほどになってもイエフの旅立ちを見守る家族にイエフは……。
(ごめんなさい。嘘をつきました。私は生きて戻れない。あの方を殺すことは難しい。でも大天使としての私の使命は果たします。皆さんの、ひいては世界の為に……)
そう思うと足が鉛の様に重くなる。
(いや、帰ってこよう……。難しくても。可能性が低くても。私はアーテルランド王家第3子、イエフ。地上で生きる間はアーテルランド家の子なのだから……。あの方もそれぐらい許してくれるはず……。その為にも)
考えを変えると羽が生えたように軽くなった足でイエフは遠く、コムエンドを目指した。
釣り竿と鍬を担いでイエフは走る。
『『誰か! 突っ込んで!!!!!!!』』
聖剣と神剣の叫びは別れの雰囲気に浸るイエフには届かなかった。
不憫……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
~~アームさんの愛の説教部屋3~~
アームさん「皆さん今晩は、みんなのアイドル、アームさんです」
(キリッ賭した似合わない表情で、ゆっくりとお辞儀するアームさん)
アームさん「本日の謝罪キャラクターは不憫キャラでおなじみのこの方です……」
……ガチャ
・・・
・・
・
悪魔ちゃん「……不憫キャラ?」
アームさん「エリートの出自なのにぽっと出のお母様とライバルであり続けんと苦悩する。その姿は……儚い……」
悪魔ちゃん「……やめて、みじめになる……」
アームさん「親のコネ使えば即地上勤務なんて下っ端業務から解放されるのに……しない。何故ならば……実力でライバルでいたいから……健気!」
悪魔ちゃん「けっ健気いうな///」
アームさん「でも3章出番なかった!」
悪魔ちゃん「おい! こら~~~~~! あんた。上げて落とすキャラじゃなっかったはず!!」
アームさん「だってツッコミキャラだもん♪健気」
悪魔ちゃん「え?ていうか語尾に『健気』つけるな!」
アームさん「でも、出番中たのはお母様とお揃いだよ?健気」
悪魔ちゃん「……いや、あの子、地球の創造神をダンジョンに招いた時にちょっとだけ出番あったし。……2回もダンジョン支配権奪われるとかあの子何やってるんだか……、もうちょっとたよれよ(ボソ」
アームさん「おおっと! ここでツンデレさん炸裂!!! もはや伝統芸! ツンデレさんだぁ!」
悪魔ちゃん「語尾に『健気』つけろや!!!!」
アームさん「よっ! 照れ隠し!」
悪魔ちゃん「もう、おうち(天界)帰る」
アームさん「あ、こちら神様にお土産という事で……」
悪魔ちゃん「……ほほう、お主も悪よのう……」
アームさん「いえいえ、ツンデレ様ほどではございません」
悪魔ちゃん「そこでつかうんかーーーい!」
~~アームさんの愛の説教部屋3(完)~~
悪魔ちゃん「え?終わり?何このコーナー?」
アームさん「はいはい、セット片付けるのではけてくだいね~。健気」
悪魔ちゃん「……(しゅん)……(コムエンドのダンジョンマスターに愚痴ってやる……)」
アームさん「ふんふ~ん♪」(←あとで大目玉)
本当におまけ(完)




