102「エリートダンジョンマスター(現在独身)」
こんばんは! こんにちは! おはようございます。
(ああ、ここは……)
アユムは真っ白い空間に居た。
目は開かず、口も開けない、つまり体が動かせない状況だが、匂いと触感はあった。
アユムは子供の頃から辛いことがあったその晩、何故かこの空間にいることが多かったそうだ……。
始まりは特殊能力に体が堪えられず、激痛に1人涙した夜だったという。
両親に負担を掛けまいと気丈に振る舞うアユムは、寝る前に必死に声を押さえて泣く。泣き疲れて眠ったその夢でこの空間に来ていたそうだ。
この空間ではアユムは何もできない。何もできないからこそ心から素直に泣くことが、素直に甘えることができた。それはいつも包み込んでくれる温かい存在を身近に感じられたからである。
「かー、何でそこで告らんの?職場の仲間が折角2人きりにしてくれたってのにっ! 天気の話なんかいらん! せめて手を繋げ!!」
……おい、優しい空間(?)の主よ……。
「相思相愛は傍目から見てもわかるのに、主人公の煮え切らない態度! 職場の同僚が気を利かして踏み込んだアドバイスしたらネガティブに受け取って『僕なんかじゃ……』とか! イラつくわ~~~。でもってヒロインに3回振られてるけど諦めないイケメンが次回! 4回目の告白! くっそ! そっちとくっつけヒロイン!!」
良いお客様であった。
「なんで見始めちゃったかな……『童貞恋愛物語』……なんて……」
異世界の番組です。
(あの~)
「お、アユムん。久しぶり! 泣きに来たの?おねーさんが大人の包容力で包み込んであげるよ!! 惚れるなよ♡」
(いえ、膝枕していただいているときに……、お煎餅食べるのやめていただけますか?色々飛んできてます……)
「おっとこいつは失礼、失礼。ほい」
(ありがとうございます)
優しい空間の主人はアユムを綺麗にすると再び膝の上に乗せる。
「……」
何事もない、穏やかな空気が流れる。アユムは警戒を解き世界に溶け込む。漠然とした不安が染み出し、ネガティブな思考が薄れていく……。年を経てアユムは泣かなくなった。それは成長だが……。
「素直に泣いたっていいんだよ……」
急激に大人になることはないのだ……。
「ぐあ、しまった! 【世界の声、異世界をいく! 浅草編!!】なんてゴミみたいな番組が録画されてる! ちょっと録画もただじゃないしストレージが……あ〜あ、料金発生しちゃってるよ……隠し口座のポイント減ってきてるのに……」
優しい空間の主人さん。おおらかに。やさしく。主人公が癒されてるのに怒っちゃダメですよ〜。
(どうしたんですか?)
ほら気にしちゃったじゃない?
「アユムん聞いてよ。なんか実力もない第三者視点のくせに、一回シングルヒット打ったからって自主作成番組売り出してるバカがいてさぁ」
(はぁ)
優しい空間の主人さん。おおらかに。やさしく。主人公が癒されてるのに怒っちゃダメですよ〜
「私たちの間で流通してる、地上でお金みたいなもので、ポイントっていうんだけどね。その大事なポイントがなぜかそのクソ番組を自動で購入のために使われてたのよ! ゆるせないよね!!」
(ああ、それは災難でしたね)
アユムの苦笑い。そしてその番組、見たほうがいい。きっとお値段以上の価値がありますよ!
「だいたいダメな制作者ほどそういう」
(……)
シクシク。僕の癒しの空間はどこだ。そしてアユム。無言の肯定と『本当に災難ですね』って空気やめて! ここに制作者がいます!!
「まず。浅草にまでいってチェーン店のうなぎって! さがせよ! もっといいとこあるよ!」
くっ、低予算番組なんだもん!
「あ、開き直った。でも、食後の運動とか言ってなんで北にあるいていった?そっちじゃねぇよな観光名所?あと『一人称視点!』とかいって帽子にカメラ仕込んでるけど見辛いよ?あと、盗撮魔?ゆーちゅーばー?」
盗撮魔ちげーし。腹ごなしに歩いてたらいい景色だっただけだし。そっち方面老舗天婦羅屋さんあるし。あと、この番組、動画サイトなんかに挙げてないし!
「無料だったらどれほど後悔していなかったことか……」
(……あ、あしたジュルットの収穫しなきゃ……。砂糖精製工程も整ってきたし楽しみだなぁ~。あの子も発育したがりだから落ち着かせてるのに苦労したなぁ)
後悔させない! その先もっと面白くなりますから! あと、アユム! 明日の仕事の段取り整えながら満足げに笑わない!!
「さて、地図アプリで風俗街眺めてニヤニヤしてた馬鹿はほっといて……、アユム。ゆっくりしていきなさい。ここは貴方を縛るものはないのだから……」
ニヤニヤしてねーし。天婦羅屋さん何処か探してただけだし。あっちからくる先輩方に敬礼とかしてねーし。
……コホン。
アユムは微睡の中にいた。角張っていた心の角が丸くなっていく感覚に包まれ、意識は薄く、包まれるような幸福感を感じながら……、やがて何も考えることなく深い眠りにつくのであった。
「ゆっくり休むといい。君は、君の力を受け入れるには未だ未熟。しかし未熟という事はこれから成熟するという事だ。ゆっくりと育つといい……」
アユムの精神はゆっくりと限界を迎えようとしていた。
それは天使と人間の子供として生まれ、心と力と体のバランスが崩れがちだったアユム。
コムエンドのダンジョンで生活し緩やかに調整されていたそのバランスが近年崩れようとしていた。
それはアユムの……成長、が原因だった。
「それよりも、お前どうやって異世界行ったよ?」
コネと特別ボーナスと地球の創造神様を少し脅しました。
「……何気に酷い奴だな、お前」
てへ♪
☆☆天界のバー、そのカウンター
「ほう」
「……という事でして、最近上司(神)ともども苦心しておりまして……」
「お話は分かりました。では、私が運営する10号ダンジョンにお誘いするのはいかがでしょうか?」
「……しかし、あそこは……」
「あえて、と言えばお察しいただけますか?」
「……わかりました。一旦持ち帰り上司(神)と相談しますが、お願いする方向でお願いします」
「承知しました……では、私はここで……」
「お忙しそうですね。もう少しゆっくりされて行かれては?」
「……いえ、家族が待っておりますので」
コムエンドのダンジョンマスターが意味ありげな流し目で誘うも、30後半と思わしき男性は爽やかな笑顔で立ち上がり思わず見ほれる様なゆったりとしたお辞儀をすると店を出ていった。
「……かっけぇな。あれが『最も神に近い男』ヴァリアス様か……」
バツイチ子持ちである。
コムエンドのダンジョンマスターはその後高級バーでゆっくりとお酒を嗜む。
天界はメシマズだが、酒の文化に関しては秀逸である。
なので接待はこのような高級バーを利用することが多い。
「さて、私も帰ろうかな……、あ、マスター、御会計お願い、領収書も切ってね」
「……いえ、先程のお客様よりいただいております。追加注文分も含めてね」
髭のマスターがいたずらが成功した子供の様にウィンクするとコムエンドのダンジョンマスターは呆然と立ち尽くす。
「……バツイチ、エリートダンジョンマスター……ありね」
何が?
こうしてアユムサイドの物語は進み始めるのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
~~アームさんの愛の説教部屋2~~
アームさん「皆さん今晩は、みんなのアイドル、アームさんです」
(やっぱり、ゆっくりとお辞儀するアームさん)
アームさん「先日やらかした馬鹿が今回もやらかしましたね。という事で本日の説教部屋に招待したのはこちらの問題児です」
……ガチャ
・・・
・・
・
ワームさん「なんで?俺っち?最近出てませんやん?」
アームさん「桃太郎の犬・猿・雉、アユムのアームさん・権兵衛さん・ワームさん的な立ち位置だけど存在感皆無の虫、ワームさんです」
ワームさん「え?」
アームさん「ふっ」
ワームさん「……アユムんに言いつけてやる……」
アームさん「まぁまて、『2巻表紙イラストで作者(ぐう鱈)がわがまま言って書き込んでもらったけど、帯のおかげでほぼ気付く人ゼロ!!』の無視よ。失礼、虫よ」
ワームさん「虫と無視かけてきた! でもうまくないっす! やり直しっす!」
アームさん「まぁまぁ、落ち着き給え。作者(ぐう鱈)すらキャラクター忘れた虫よ……」
ワームさん「……うう、どうしてこうなったっすか?当初はツッコミキャラ目指すはずだったのに……」
アームさん「いや、お前さんプロット段階から『チャラい口調のくせに真面目なボケキャラ』だよ?」
ワームさん「え?」
アームさん「ふぁ?」
ワームさん「そうなると……ツッコミいませんよ?」
アームさん「σ(゜∀゜ )オレ」
ワームさん「……」
アームさん「……」
ワームさん「……」
アームさん「……」
~~アームさんの愛の説教部屋2(完)~~




