98.2「ダンジョン防衛線5」
おはー!
発売日の朝です!
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオ」
跳ね橋を下ろそうとしていたところで1体の住民型オークが叫び声をあげて広場に躍り出る。
実はこのオーク、ダンジョン作物を摂取できていないオークである。
つまり……モンスターウィルスに侵されたモンスターという事になる。
破壊の本能に従いそのオークは雄叫びを上げ、躍り出る。
しんみりとした空気の広場で最悪の演出の様に。
気づくものはすぐ気づいた。無論、この様なケース多数見てきた医療班は即座に【モンスターの暴走】という事を理解し、捕縛しに動いたが……。
「ボフ(気持ちはわかる! だがみっともないぞ! 座れ!)」
「ブモ……」
状況を理解していない戦士のオークが狂ったオークの肩に手を回し強引に座らせると杯を強引に持たせ、酒を注ぐ。
「ボフ(飲め! 別れの辛さも、己の不甲斐なさも洗い流してくれるぞ……さぁ)」
ほぼ強引に戦士のオークが狂ったオークに酒を飲ませる。
本来暴力に呑まれるはずのオークだったが、この時何故か戦士のオークに従った。
これは階級社会であるオーク帝国で生まれた本能なのだろうか……、事件終了後も理解不能案件として記録されている。これが2つ目奇跡である。1つ目の奇跡は、このタイミング、全員が注目している最中わかりやすい症例が現れたことにある。
狂っているはずのオークは戸惑いながら酒を煽ると一変した。
この時アユムたち医療班が現場に到着し、その光景に目を丸くしていた。
「ボフ(……あー、あれ? 戦士殿? あれ? 意識がはっきりと……)」
「ボフ(おお、落ち着いたか? では勇者に!)」
「ボフ(はい、勇者に!)」
奇跡の光景である。
その光景にアユムとリンカーとメアリーは目くばせをしそれぞれ走り出した。
アユムは権兵衛さんとジェネラルオークの元に。
メアリーは部下を連れ今狂ったはずのオークの元に。
リンカーは城下の端に隔離されている、他の狂ったオークたちの元に。
結果、跳ね橋は降ろされた。
権兵衛さんとジェネラルオークたちに事情説明をしているアユムの所に診察を終えたメアリーが合流して状況を。広場に集まった他のオークたちの異変。具体的に今回の様に狂ったオークが元に戻る事例を報告して橋は降ろされた。
敬礼したまま呆然とするオークの勇者5体を横目にメアリーとアユムと権兵衛さんはリンカーの元へ急いだ。ジェネラルオークは残され、この混乱を収めるために動いている。
「アユム、来たか! これは凄いぞ!」
興奮気味のリンカーが語る。
当初広場のオークの様に飲ませようとしたが、飲ませることはできなかった。
これれはダンジョン作物も同じだと諦めかけた時に、医療助手のオークが苛立ち加減に狂ったオークの顔に酒をぶちまけたのだ。すると……。
「ボフ(陛下だ。臣下の礼ってどうやるんだっけか?)」
このように穏やかなオークに戻っている。
「その後いろいろやってみたのだが、酒とお茶の混合物でも同じ結果が得られた。更にだな!」
リンカーは語る。量の少ない酒ではなくお茶でも効果が出たのはどれほど凄い事かという事と、医療助手のオークが思い付きで試した効果のあった少量の酒とお茶をもとにした霧魔法で狂ったオークの口元に霧を発生させるとこれも同様の効果を現した。
水場の近くで目くらましにしか使えないと考えられていた霧魔法がこの戦場を一変させた。
隔離施設で隔離されていたオークたち200体以上が経過観察をへて翌日戦線復帰した。
一方的に侵攻されていたダンジョンが反抗に移った瞬間である。
一方その頃、把握不能エリア。
「がう(……居ない……)」
「ぎゃっ(……魚……働け……)」
扉の前で胡座をかく黒の鎧を睨み付ける黒のモンスター軍団。
「旦那、何故協力しないんですかい……」
モルフォスが胡乱げな目で魚を見ている。
「逃走防止……用だ……」
睨み合う魚と黒のモンスター軍団。
睨み合う魚とモルフォス達。
ギスギスとした空気はしばらく続き、やがて諦めたように解散していった。
(ああ、お腹痛い……。何だろう、なんでこんなことしてるんだろう……)
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