92.5「戻らないあの子……後編」
じゅわっ!
という感じのお話です!
話は現在に戻る。
ニャンダーは人形王から最終手段と教えられた赤いパネルを殴りつけた。
【警告! 拠点制圧武装を切り離します。よろしいですか?】
「いいにきまってんじゃない!」
ニャンダーは再び赤いパネルを嬲りつける。すると、頭部、腕部、脚部、そして胸部が何かに圧迫される感触に襲われ、そしてニャンダーは浮力を失い地面に向かって降下する拠点攻略型武装からはじき出される。
そしてニャンダーは加速した。
戦っていて気づいてはいたが、ニャンダーは改めて転移させられた先の空間は広めの広場であることを目視で確認した。
鈍重な拠点攻略型から離脱したニャンダーはまさに羽が生えたように舞っていた。
【ようこそ! ニャンダー高機動型へ! 操作系は拠点攻略型とほぼ同じです! がんばって!】
背中に背負った翼型のブースターや各所スラスターの制御は足でできることを確認したニャンダーは早速方向転換する。
黒い鎧の周りを円を描く様に飛ぶニャンダー。黒い鎧はニャンダーの奥の手と認識して防御の構えでニャンダーが仕掛けてくるのを警戒している。
「大枠理解した! やったろうじゃない!」
もう一度ニャンダーの全身武装を確認すると頭はヘルム、各部状況をヘルムの右目についていのグラスモニターが報告してくれている。胸部にはランドセル型のブースターと一体型の分厚いプレートメイル。腕部にはどこかのロボットアニメのロボットの様ないかついガントレットに右に魔法の非実体弾を撃ち出す魔法銃と左には盾をそうびしている。脚部にはこれも太めのブーツ。
全身白の出で立ちは黒の鎧と対照的であった。
黒と白、高速戦闘が始まる。
状況は魔法銃でけん制するニャンダー優位に進むが、どちらも決定的な戦力を保持しない持久戦が続くのであった。
その頃、モルフォス達は……。
「すまない。助かったよ」
剣士モルフォスはイケメンスマイルで相手に礼を言う。
「しかし、あれだけの落とし穴をダンジョンマスターに気付かれずに用意するとは恐れ入る」
モルフォスの弟、普段はあまりしゃべらない冷静な魔法使いガンビスも息を吐き出しながら言う。表情には興奮の跡が残っている。
「いあ~、あまりの恐ろしさに思わず金玉縮みあがって漏らしちまうところだったぜ!」
男性陣からの笑いを取り満足げな騎士バブルガスは豪快に笑う。
「全く、私が死んだらどうするおつもりだったのでしょう。こんなか弱い私が……」
敏腕回復魔法使いニーニャは頬を膨らませる。彼女の目的はあくまで多くの人間を救う事である。今回の任務はその目的のための成長の機会ととらえていた。
「か弱い?がははははははhっいって」
「ニャンダー師匠の修業で逞しくなったじゃないか……って、あぶな!」
爆笑するバブルガスは胴鎧を蹴りぬかれ、馬鹿正直に反応したモルフォスの顔面目掛けてこぶしが飛ぶ。どうやらか弱い聖女然とした少女は既にいないらしい。
「騒がしい……だが、これも生き残ったからこそできることだ、本当に感謝する。ありがとう」
女性剣士インバルトは彼らに静かに頭を下げた。
「ぎゃう(気にするな。困ったときはお互い様だ)」
「ばう(俺も死にそうだったし、皆で力を合わせたからこそ助かったんだよ)」
「にゃー(怪我無くて本当によかったよ)」
「こけっ!(我らの風魔法が役にたってよかった)」
「ジュワッ(うむ、私の浮遊魔法も微力ながら聞いたみたいで良かった)」
黒のモンスター軍団は純粋な笑顔で答えた。
「ぐあ(それよりも神の降臨だぞ)」
それはモルフォス達にニャンダーを押し付けたとぉとぉ君すら気付けぬ違和感。
宿での遭遇後もう1柱より与えられた5人おそろいの指輪。
「ああ、わかっているさ」
モルフォス達を含めその場の全員が片膝をついて神の降臨を待つ。
そう、とぉとぉ君こと第1789世界の創造神ガリーシャ、その業務補佐をする侍従神……エラの降臨である。
こうしてニャンダーは不利な長期戦に巻き込まれていく。
ダンジョンマスターの感知されない脱出可能かもわからないエリアでの戦闘。
しかもニャンダーはモルフォス達の裏切りを知らない。彼女の性格からすると弟子は見捨てられない。
より【逃げる】という選択しを奪われたニャンダーはどんどんと不利な状況に追い込まれていく……。
黒の鎧となり種族を捨て仲間のために戦う魚と同様に……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




