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91「着ぐるみファイト:前編」

晩酌したら寝る。

金曜日と土曜日に学習しました。

ということで連続投稿サボったいいわけでした。

 男の名前は大川 悟。今年で19歳になる。


「悟よ。お前は選ばれた人間だ」

 今日も今日とてバイトに励もうとした矢先、踏み出した先が白い部屋だった。混乱である。

 更に後光に照らされ顔が見えない長身の男に何か言われたような気もするが、見知らぬ場所で見知らぬ男の言葉に脳が追い付かずキョトンとする悟。


「……あれ?この子の国の言葉ってこれでよかったよね?」

 不安に駆られた後光を纏う男は周囲に問いかける。


「問題なく通じておるようです。神よ」

 神と呼ばれた後光に照らされ顔が見えない長身の男と犬人(二足歩行する犬)は色々中空に悟が見たことのない文字を浮かばせて語り合っていた。


「あの~」

「おお、ピカジロウ通じているようだぞ!」

「だから神様、さっきから通じてると……ただ現実化妄想か判断つかなかっただけです。凡人なので」

「なるほど、凡人であったな」

 犬人改めピカジロウと神は【凡人】という点でお互い納得して頷き合っている。

 失礼である。

 しかし、神やその侍従にとってほぼすべての人類が【凡人】なのである。したがって彼らの会話は天界では人類の愚行を見た際の一般的なやり取りである。


「もしかしてこれは転移ですか?」

「おお! この凡人オタクという人種であるな!」

「最近は、読み専とかいう人種もおるようですぞ!」

 中途半端な知識である。


「ふむ、失礼した新種よ」

「すまぬな、神も私もオタクなる種族を目にするのは初めてでな」

「いえ、違います。オタクじゃないです」

 悟の両親はオタクである。

 母は厳しい家に育ち昔から友達が話すアニメに興味を持ち本屋に置かれている色とりどりの物語にあこがれを抱いてしまった。そして大学生になり反動が出てしまった。普段はそんな趣味をおくびにも出さず生活しているがとある日だけ戦闘モードに変わる。父は母を見て『そんなお前も大好きだ!』と公言してはばからない。

 父は所謂パソコンオタクである。彼の青春はBASICから始まり、学校のパソコン室にこもった。いつしかインターネットがパソコン通信と呼ばれていた時代から来るべきインターネット時代を思い描きその原理や論理にのめりこんだ。大学はアメリカへ進んだ。彼の幸運は時代にあった。時はウィンドウズがPCのイメージを変え、インターネットが本格的に人々のそばに寄ってきた時代だった。大学で父は日本では『パソコンオタク』と奇異の視線を浴びせられていた知識と、妄想と思い描いていた業界の未来を評価され、学生中に仲間たちを起業した。良い仲間、良いパトロンに恵まれ彼らの会社は巨大ではないが成功者に数えられるようになった。父も学生結婚を果たし、アメリカで更なる飛躍を誓っていた。だが、残念がら業界の政争に巻き込まれ、会社は買収された。先進的な産業も世界に広がれば一般的になり、シェア確保が難しくなる。であれば、先進の内に巨大化し、世界的なシェアを握り後発企業を圧迫する。こうして父は汚い政治の世界に疲れ、日本に戻り伝手を頼りに起業した。今度こそパソコンオタクとして満足するために。

 そんな父と母を見て育った悟にとって、一線超えすぎた人のことを『オタク』と認識していた。それ故に自分のことを『オタク』と呼称される事を拒否していた。『自分はただの漫画好きですから』これが口癖である。


「オタクではない。となるとただの凡人か」

「オタクな凡事ではないのですね。がっかりです」

 散々な言われようである。


「……そう、どうせ僕はつまらない人間なんだ……」

 いじけ始めた悟。


「(なぁ、これめんどくさいタイプの人間じゃね?)」

「(ああ、神よ。やってしまいましたな)」

「(え?俺のせい?)」

「(OH my GOD)」

「(……お前遊んでるよな?)」

「(我が神の記録、『我が神は弱い者いじめを部下のせいにする』)」

「(……ちょっ! お前それなんだよ!!)」

「(奥方様からご依頼いただいている浮気調査の為の報告書です)」

「(OH my GOD!)」

「(上さんだけに! 上手い!!)」

「(……やめて、そういうの恥ずかしい。……というか、お前、俺の侍従だろ?)」

「(はい)」

「(俺の為に働けよ!)」

「(勿論誠心誠意お仕えしております)」

「(ではその報告書に……)」

「(無理です)」

「(え?)」

「(無理です)」

「(いや、不都合があったら書き換え……)」

「(無理です)」

「(……俺お前の主だよね?)」

「(無理です。より高位の主の命令が有効になりますので)」

「(……え?)」

「(神様の上さんという事です。……先程長終わった洒落を活用していました!(どやぁ))」

 さて、完全においていかれた悟はそんなおっさんたちのやり取りをジト目で口をへの字口で見ていた。


「あの~、そろそろ教えてもらっていいですかね?」

「あ、凡人が復帰した!」

「神よ、また拗ねてしまいますよ。人間とは多感なお年頃なのです」

 人間全体が思春期の様な言われようである。


「えっと(こいつらダメ人間だ。こっちから信仰しないと進まないな……)、僕は何故ここにいるのでしょうか?異世界転移?それとも気付かない所で死んでいて異世界転生ですか?」

「ふむ、その問いに答えよう。……ピカジロウ(恰好よかったって嫁には報告しろよ。俺また家を追い出されたくないの)」

「悟殿はそちら系の知識が豊富ですな。ですが安心してくださいどちらでもないです(恰好いいですか、これからの神様の活躍に期待! とだけ言っておきましょう!)」

 顎に手を当て目を細めてピカジロウが答える。


「はぁ」

「悟よ、汝選ばれし人間よ」

「はぁ……いや、でもさっき僕の事【凡人】連呼してませんでしたっけ?」

「悟よ、汝選ばれし凡人よ」

「言い直さないでください。ダメージが増します……」

「(『神様、か弱き凡人を追い詰める。控えめに言って大人げない』)」

「貴様の並々ならぬキグルミ愛に我はいたく感動した」

「え、神様も着ぐるみ好きなんですか?」

「(『神様、か弱き凡人に残念な人を見る目で見られる。浮気の可能性ゼロ。』)」

「うむ。儂は頑張る人間が好きだ。故に店長が何となく購入した貧相な着ぐるみに身を包みながら、人を喜ばせるために努力するお主の姿にいたく感動し、この度悟、お主を我が陣営の着ぐるみファイト代表選手として選出した。おめでとう」

「おめでとうございます(『神様、奥方様以外に【好き】という言葉を使う。ご判断はお任せします』)」

「……なるほど、その着ぐるみファイトとやらに優勝しないと帰れないんですね……」

「優勝すれば褒美は思うがままだ、その努力の才能を神々の前で見せつけるがよ(なぁ、ピカジロウよ、さっきからちょいちょい悪い報告しようとしていないか?)」

「期間はおよそ2カ月。地球に戻られましても同じ期間にお送りすることになっております(私は公平中立です)」

 悟は空気を読む男である。

 悟の本能はこの2人が絶対の存在であること告げていた。だから、不利にならぬように要求に誠実に答えようとし、やがて完全に乗っかっていた。


「俺は世界一の着ぐるみ使いになる!!!!」

「(なぁ、着ぐるみ使いったなんだ?)」

「(さぁ、でも契約書にも私が口頭でも元の政界にお返しすると示しましたのに気づきませんね。この子……)」


 そのころ神こと戦神と対立関係にあった商業神の神殿にも地球より1体の着ぐるみが召喚されていた。


すみません。すぐに後編を出します。

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アームさん
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