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邂逅


 廃棄遺跡の調査隊が使っていると思しき道。


 その道を見失わないよう注意しつつ、俺は林の中を歩いていた。

 途中、道が二つにわかれていた。

 道の行き先を示す標識は見当たらない。

 さて、どうしたものか。

 俺は相棒のピギ丸に声をかけようとした。

 その時だった。


 気配。


 廃棄遺跡以来、気配に対していやに敏感になっている。

 遺跡の経験を経て神経が鋭敏に研ぎ澄まされたのだろうか?


 ガサッ


「ん? なんだこいつ? 違うぞぉ?」


 現れたのは人間。

 四人。

 全員、男。

 いかにもファンタジー然とした装い。

 とはいえ、小奇麗なファンタジーとは程遠い部類の側だが。

 四人とも武器を携えていた。

 先ほどの言葉を脳内で反芻する。


『ん? なんだこいつ? 違うぞぉ?』


 反応と言葉から察するに、誰かを捜している最中か。

 俺でないのは確かだが……。

 四人から放たれている空気は不穏そのもの。

 少なくとも、迷子捜しといった微笑ましい追跡劇ではなさそうだ。

 顔に傷のある精悍な男が俺を見据えた。

 ゴミを見る目だった。


「小汚いガキか。視界に入れるのも、不快なナリだな」


 仲間の一人が傷の男に尋ねる。

 

「どうするよザラシュ?」

「捨て置け。なんの面白味もない凡百な雑魚にすぎん。せいぜいが駆け出しの傭兵風情といったところだろう。なぜこんな場所にいるのかは知らんがな。興味もない」


 傷の男はまとめ役の雰囲気を漂わせていた。

 あの男がリーダー格だろう。

 そこはかとなく桐原と相通ずるものがある。

 顔つきがどこかサメっぽい別の男が、俺に視線を這わせた。


「着てるローブは古いが、質はよさそうだなぁ。ま、小汚いのに変わりはねぇが」


 次に大剣を手にした男がナメ切った態度に変わり、構えを解く。

 

「んじゃま、とりあえず金目のモンだけ置いてけや? 今回は裸にひん剥いてションベン犬の物真似をさせようってわけじゃねぇからよ? おれらも、急いでんだ」

「いや――こいつは、殺す」


 細身の男が前へ出てきた。

 最初に”違うぞぉ?”と口にした男だ。

 手元で曲刀を弄んでいる。

 傷の男がそいつに声をかけた。


「こんな雑魚虫をわざわざ殺すのか? 時間の無駄だ」


 曲刀の男が指の腹で刃を撫でる。

 慈しむ表情で。


「この新入りの切れ味を、まだ生きた人間で試してないのに気づいたのさ……だから、このゴミ肉で試す。どうせゴミだ。むしろ、おれたちに殺されて本望さ」

「ふん……やるならさっさと済ませろ、マガツ。今のオレたちには別の目的がある。まあ、そろそろアレの体力も尽きてきた頃だろう。この仕事も、終わりは近い」

「くく、男だと”お楽しみ”の時間がいらねぇから早くていいよなぁ〜? いたぶって殺してもあんま面白くねぇし。おい、あのオンナを捕まえて金が入ったらその金でアブロムの娼館行こうぜー」

「やだね。こちとらもう手練れのオンナは飽きてんだよ……高級娼婦だろうとな。それよか、最寄りの都市で適当に見た目のイイ小娘見繕って、半年くらい連れ回して愉快にぶっ壊そーや」

「半年だぁ!? ざけんな! てめぇが壊しにかかったら、どんな女も半年もたねぇじゃねぇか!」

「うるせーよ。壊れる方が悪い。つーか、本当はあのオンナに手をつけられたらいいんだがなぁ……あれほど壊しがいのありそうなオンナも、早々いないぜ」

「おれっちなんかあのメス見ちまったせいで、もうヒト族のオスとしておさまりがつかねーよ! 地方都市にいる程度のオンナでアレの代わりきくか~!?」


 傷の男が左手の方角を眺める。


「だが、さすがのオレたちも今回の獲物に手をつけるのは自重せざるをえまい……依頼主が、依頼主だからな」

「まーなー」

「で――」


 殺す宣言をした曲刀の男が、俺の方へ一歩踏み出す。



「怯えながら後ずさって……おまえはそのまま、どこへ行くつもりだぁ?」



 俺は男たちからジリジリ距離を取っていた。

 お願いだからやめてくれ――とでも言わんばかりに、前へ手を突き出す。


「頼む……み、見逃してくれ……こんなところで……意味もなく……死にたく、ない……ッ」


 男の顔が、嗜虐心に染まる。


「だぁめだってばぁ〜♪ さっさとおまえを試し切りして、おれたち、お仕事の続きしないといけないのぉ〜♪」


 曲刀の男が構えを取る。


 ミシッ


 男の筋肉がしなやかにしなる。

 曲刀が、斜め後ろへ振り上げられる。


「だからぁ、さっさとぉぉおおおお――」


 安全距離(マージン)を確保した上で、


「このマガツ様の餌食に、なりやが――」



 



「【】」



「――れっ、て……ぇ、の……!? ぉ……ッ?」

「ん? な、に……っ!? ぐ、ぉ……?」

「なん、だ? 身、体が――」

「動か、な……い……?」


 麻痺、成功。

 四人とも麻痺状態になったようだ。

 全員クズっぽいが、腕に自信を持っている雰囲気があった。

 なので射程圏内を保持しつつ一応ギリギリまで距離を取った。

 まあ、遺跡の魔物と比べれば威圧感は格段に劣っていたわけだが。


「よし」


 で、


「対人間でも状態異常スキル成功、と……」


 魔物だけじゃない。

 人間にも効果アリ。

 成功率も変わらないと見てよさそうか。


「やっぱあのクソ女神だけが、特別なのか……?」

「馬、鹿……な――」

「ん?」


 リーダー格が何か言っている。


「じ……状、態……異常、の……魔……じゅ、つ……だ、と……? しか、も……ま、どう、ぐ……なし、で?」


 ふむ。

 麻痺状態でもけっこう喋れるのか。

 魔物の鳴き声だと、麻痺の程度の確認が難しかったが……。


「だと、し、ても……四、人……同、時……に……かか、る……な、ど……あり、え……ん……ッ」


 女神談によると、この世界における状態異常系統の術式とやらは役立たずに等しいのだったか。

 口端を吊り上げる。


「どうも俺のは”ハズレ”らしくてな?」

「な、に……?」

「ま、それはいいさ……おまえらは俺を殺そうとしたし、誰もそれを止めようとしなかった。というわけで”対象”と判断させてもらった」


 四人の空気が変わる。

 俺が何を言っているのか理解していない様子。


「【ポイズン】」


 ポコポコ、

 ポワワァ〜……


「あ゛……!? ぐ、ぎ……ぇ……ぇ……っ!?」

「く、ぐる、じ……ぃ……」

「ご、ぇぇ……ばが、な……ぁ……っ?」

「なん、だ……ごい、づ……っ!? ぐぅ、ぇ……っ」


 毒色と化した四人が苦しみ悶え始める。


「ピギ!」


 ピギ丸が鳴いた。

 首の横から突起がニュルッと出てくる。


「ピギ丸? おまえ……怒ってんのか?」

「ピ!」


 あの四人に対してピギ丸は強い不快感を覚えたらしい。

 感性が俺と似ているのだろうか?


「ま――こいつらが死んでも、俺は心が痛まねぇだろうしな。むしろ、スッキリする気すらする」


 殺意には殺意で。

 悪意には悪意で。


 単にルールが適用されただけの話だ。


 こいつらには黒々としたものを感じた。

 たとえば、桐原や小山田に通ずる何か。


「要するに、


 てのひらを眺める。

 なるほど。

 土壇場で躊躇する心配は、なさそうだ。


あいつらが(人間)相手でも、やれる」


 俺は四人の死を待った。

 苦しみながら死にゆく無惨な姿。

 麻痺のせいで、もがくことすらできない。

 最後は救いを求めてきた。

 が、救いを求めてきた者の頼みをこいつらが聞いてきたとは思えない。

 到底、思えない。

 思えるはずがない。

 願いは、無視した。


「ぎ、ぃ、ぃ゛――ッ、……」


 しばらくして、最後の一人が力尽きた。

 レベルは1も上がらなかった。

 よほど経験値が低かったのだろうか。

 もしくは、


「人間だと経験値が入らない――そんな可能性もないわけではない、のか……?」


 思案しつつ男たちの荷物漁りを始める。

 衣類は微妙にサイズが合わない、か。

 ま、こいつらの知り合いとかにどこかで服の特徴に気づかれてもアレだしな。

 そうなると、面倒なことになりそうだ。

 武具類も同じ。

 下手に足がつくと、後々トラブルの元になりかねない。

 なので金貨や銀貨、銅貨の入った小袋だけを皮袋に入れる。

 金に人の個性は宿りづらい。

 そういう意味では安全と言える代物だろう。

 手早く物色を終えると、俺は立ち上がった。


「――ピ、ィ」


 神妙なピギ丸の鳴き声。


「ん? そうか、おまえも感じ取ってるか。ああ、わかってる――」


 毒を非致死設定にしてジワジワと殺す手もあった。

 が、先ほどからビリビリときている。



 



 混在した戦意と殺意。



「近くにもう一人、誰かいる」



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― 新着の感想 ―
クズのカルテット又はゲスのカルテットかな遠慮なく抹殺しても大丈夫!
ここで人に利かなかったらいきなりゲームオーバーだったわけかw
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