女神
玉座の横には金銀をあしらった卓が置いてある。
卓上には半分手つかずの報告書。
本来、その卓は王の公式行事に用いられるものである。
が、玉座にいるべきアライオンの堅王の姿はない。
彼は今、自室でゆりかごに揺られているのだろう。
ゆりかごに揺られる王には数名の侍従がついているのみ。
大した護衛もつけてはいない。
王妃が座るべき場所は、もうずっと昔に撤廃されている。
「報告によると、大魔帝が生み出した金眼たちは統制を失っているようです。となると……キリハラさんは倒されたとみてよさそうですねぇ。あのキリハラさんが倒されたということは、おそらく彼らは無効化の禁呪を使用可能な状態にある……まあ、もうどうでもいいですけど♪」
ニャンタン・キキーパットは卓と逆側の玉座横に控えている。
広々とした王の間にはヴィシスとニャンタンの二人だけ。
がらんとしている。
カーテンは閉じられ、室内の明かりは燭台のみ。
王の間は暗く、どこか寂寥とした雰囲気に包まれている。
しかしヴィシスは、そんな寂寥感とはほど遠い雰囲気。
口端を歪め、ヴィシスが足を組み替えた。
「いよいよです、ニャンタン」
「いよいよ……と、おっしゃいますと?」
ふふふ、とヴィシスが肘掛けに両腕をかける。
「私が真の意味でようやく神になる、ということです」
「……あなたは、元より神族なのでは?」
「主神ではないので」
主神。
初めて耳にする単語だった。
「んー……つまり私は”上”の世界がクソで、とっても困っているのです」
「あなたは……その上の世界に何か、ご不満があるのですか?」
「……ふふふ。あなたはこれから私の右腕になるのですから、知っておいてもいいでしょう。あ、半神化の下準備も整いましたのでどうぞお楽しみに。乞うご期待です」
「ヴィシス様の右腕としてお役に立てるかはわかりませんが……自分なりに、自分にできることを精一杯やる所存です」
「素晴らしい心がけですね! うぅ……妹さんたちもきっと喜びますよ。素敵なおねえさんです。感動で……ふぁ……涙が、止まら――ふぁぁ――ない、です」
最後はあくびまじりになって、ヴィシスは言った。
ヴィシスが肘をつき、握りこぶしに頬を乗せる。
やがて、
「私が何をしたいのか、知りたがっていましたね?」
ごくり、と力強く飲み込みかけた唾。
けれどニャンタンは音を立てず、ゆっくり飲み込んだ。
語調を平静に保ち、
「はい」
答える。
ヴィシスは視線を上へやり、
「まずは邪魔くさい上の――神族の世界を一度、徹底的に叩き潰してやろうかと思いまして」
「神族の、世界……? あの……その世界の者たちはわたしたち人間にとって……脅威、なのですか?」
「ん? 何をわけのわからないことを言っているんですか? 正気ですか?」
探らねばならない。
真意を。
「で、では……一体……」
「え? 人間を遊び殺すのに邪魔で、しかもむかつくからですが……え? それ以外に、何か理由があります? どういうことですか?」
ニャンタンは言葉を失いかけた。
が、どうにか次の問いを喉から絞り出す。
「なぜ……そのような、ことを……?」
「はい? 単に私がそうしたいからですが? 主神を筆頭に他の神族はそれをよしとしないので、邪魔くさいことこの上ないのですー。ですので、クソみたいな縛りの中で根源なる邪悪と戦いながら……この時のために私は、コツコツと血の滲むような努力と準備を積み重ねてきたのですが? 何か?」
ヴィシスはさらに頬を握りこぶしに強く密着させ、
「それにしても……あともう四、五回は必要かと思いましたが……今回の大魔帝――根源なる邪悪のおかげで、計画を一気に前倒しできました。側近級に自らの特殊能力を分け与える、なんていう神族みたいな真似までしてきましたし。金眼を生み出す規模も異常でしたからねぇ。過去の例からしても異質な個体でした。今回異質だったのは勇者もだったんですが……腹立たしかったそちらも多分ほぼ片付いたので、よしとしましょう。どのみち、こちらの本命の計画さえ成功してしまえば当面こっちの世界なんてどうでもよくなりますので♪ 私が天界を掌握してしまえば、どうせ人間なんていつでも滅ぼせるようになりますし?」
ニャンタンは視線だけを横へやってヴィシスを見た。
ヴィシスの笑みは”笑み”としての機能を、完全に失っていた。
「次元の均衡とかの話も実にアホくさいです。次元の均衡を保たないと次元に歪みが生じるだとか……そのために神族の干渉値の増加を抑制するとか、さらに、せっかくの貴重な根源素を用いてその歪みを矯正するとか……神のくせに不自由すぎてバカみたいじゃありません? 神ですよ? 神なのに何をおっしゃってるのか私、一割もわからなかったんです。何より神が被造物たるヒトを玩具にして――苦しめて、何が悪いんでしょう? 正気の沙汰とは思えません。それで干渉値が上がってまずいとか言われても……私は知りませんよ~。なぜ私が次元とか世界に忖度せねばならないのでしょう? 私、関係ないですし……人間の世界でもそうなんですけど、なんで関係ないことに勝手に他者を巻き込もうとしてくるんでしょう? 当人たちだけで勝手にやっていればいいのでは? そして、その人たちだけで勝手に苦しめばいいのでは?」
「あなたは……人が、憎いのですか?」
「ひ、ひどいです……! そんなわけ、ないです……憎いんじゃなくて、ただ玩具にしたいだけなんです! 私の気分で、遊び殺したいだけなんです……ッ! 侮辱にぷんぷんですよ~?」
ただまあ、とヴィシスがカーテンの閉じた窓の方を眺める。
「見てて苛つく時もありますからねぇ……時々、憎しみも生まれます。ん~……平和に暮らしてる短命種の方々を見ていると、なんだかイライラするんですね。どうせ長生きしても100年そこらで死ぬのに、なんで楽しく平和に生きたいとか思うんでしょう? もっと苦しむ姿とか、互いに憎しみ合う姿をたくさん見せてくださらないと。うぅ……全然、面白くないです……ひどすぎる……身の丈を考えて欲しいです」
ヴィシスが笑顔になって、両手を打ち合わせた。
パンッ!
「そんな不幸な私は――被造物を苦しめて苦しめて、もっと大規模に苦み抜いてもらって、もっとスッキリしたいなぁ~、と……ずぅ~っと思っていたのですねっ」
あっ、と口を手で覆うヴィシス。
急におろおろとして、
「も、もちろんニャンタンみたいな例外はありますからね……? 生きるに値する人間は私がしっかり選別して存続させますので、どうぞご心配なく~。神界のクソどもを消したあとも、異界の勇者さんたちはやっぱり必要になるかもですし~。ただ……ちょっと人類は調子に乗りすぎだと思うんです♪ あんまりそういうのが増えると目障りです~。無限に湧く小バエみたいです~」
神族、とは。
その存在とは。
神とは、なんなのだろうか。
顔にこそ出さなかったが――ニャンタンは、眩暈がする思いだった。
「私、もしこの計画がしっかり成就したら……手始めにこの世界に戻ってきて、この大陸の人間を一割まで減らそうと思っていまして」
「!」
「だってこの私に反逆なんてしたんですよ? もちろん、他の無関係な人間や亜人たちも連帯責任です! 慈悲深い女神も今回ばかりはぷんぷん、ですよ~」
「…………ッ」
「ああ~ですからニャンタンや妹さんたちは大丈夫ですってば♪ 他に救いたい人たちがいたら言ってくださいね? できるだけ前向きに検討を重ねますので」
そう言い挟んでヴィシスは、
「で、減らしていくのは一割ずつで……九割、八割、七割……と、減らす時期を決めて、できるだけ苦しませながら殺していきます。そして――なんとなんと! 最後に残った一割をそこからひたすら放置です! そうすると”最期の時はいつだろう?”と、その人たちは非常に怯えながら暮らしていくと思うんですね! そうなった時、被造物の大規模集団がどんな精神状態になって、どんな行動を取るのか……とっても見てみたいんです! ただほら……上の神族の世界がある以上、そんな大規模での観察遊戯は不可能に近いので……うーん、個人的に人間は苦しんでこそ”生きてる”って感じだと思うんですよねぇ。老衰で安らかに死にたいとか、もうアホかと……短命種は命尽きるその時まで長く、長ぁあ~く苦しみ抜いてこそ、輝くと思うんですね!」
思わず。
ニャンタンの口から、反論が飛び出しそうになった。
単純に、
(あまりにも……)
あまりにも――ひどい考えと、思ったから。
「んー、ニャンタンはあまりしっくりきませんか? うーん、こういう話はジョンドゥがよい話し相手だったのですが。あ、でも彼の嗜好である”最後は自殺させたい”という考えは、私まるで賛同できなくて……ひどいと思いません?」
「わたしも――ひどいと、思いますが……」
「ですよねー? 人間は最後まで争って、互いに憎しみ合って――どちらかが絶滅するまで殺し合うべきだと思うんです」
「…………」
「あら? 思ってた回答と違いました? ふふふっ……でも、だって苦しみの果てに自殺とかつまらないにもほどがありません? もう~最後までちゃんと踊ってくださいよ~! ふふふ! じ、自殺……自殺って……ぷぷっ……ちょっと、なに勝手に神から逃げようとしてるんですか! 困ります♪ 私、永遠に苦しみを背負うのが人間の義務だと思うんです。とにかく人間で遊び倒したいだけなんです……私、そんな無茶なこと要求していますか? いえいえ、ここまで絶妙な知性を持った短命種……これは常識で考えて、その大半は神の玩具として使われるべきです。どう考えても。でも、上の頭が固いせいでなぜかできないんです……うぅ……理不尽だと思いませんか? ですから――本当に! 今の世界は本当に、つまらない! もう嫌です! も~我慢の限界です! これ以上我慢が続けば私、そのうちきっと死んでしまいます!」
ヴィシスは実に――上機嫌に、見えた。
これほど上機嫌なヴィシスは、初めて見る。
「そういえばほら、故S級勇者の……ん~、名前が出てきませんねぇ。あの、クソみたいな名前の……あ~そうそう、ヒジリ・タカオ! 人の善意とか、善性とか、とても気持ち悪いことをおっしゃっていて……すごいな、って思ったんですよね。人はここまでアホなのかと。でもあんなスカしていたのに――ぷぷっ! ど、毒で苦しんで死んだんじゃないでしょうか? お、おも――面白すぎです! 妹さんも悲しみすぎて――あ、後追い自殺してしまった説浮上なのでは!? あースッキリです! るんるん♪ あとあれも……ソゴウとかいう――まあ壊してやったので今はスッキリですけど――くすくすっ! や、やっぱり典型的なアホでしたね! ああでも、あれも最後は壊れたからそこそこ面白かったです~。よかった! 本当に、いい気味でした♪ もう、壊してる過程で――笑いを堪えるのに必死で! 機会があればトーカ・ミモリも狂美帝も同じ目に遭わせてあげたいです~! そう、そうなんですよ! 膨れ上がった被造物どもの多くが、ああして哀れに壊れていく世界になっていけば……絶対に世界って楽しくなると思うんです! そう……ですから、始めましょう――――始めましょうか」
ヴィシスが玉座から、腰を浮かせた。
「すべてを、ここから」
▽
(城の地下に、こんなものが……)
ニャンタンはヴィシスに連れられ、城の地下に下りた。
通常の地下室ではない。
こんな場所があったなど、ニャンタンも知らなかった。
隠し扉を抜け、ヴィシスの後ろについて長い螺旋階段を下りる……。
階段を下り切ると、しばらく前へ歩き続けた。
その先に部屋があった。
否、部屋というよりは――空間。
空間は闇に包まれていた。
手もとのランタンを深い闇へ向けるも、闇は地の底のように深い。
闇の奥まで光は届かない。
けれどわかる。
広い――広すぎる。
肌が感じる空気は冷たい。
深い洞穴の中のような、不気味な涼しさがあった。
他には、気泡が立つような音が聞こえてくる。
「…………」
存在を、感じる。
この奇妙な圧迫感は”それ”が生み出しているのだろうか?
いる。
この空間には”何か”が。
(ひしめいて、いる?)
ヴィシスは勝手知ったる我が家といった足取りで、暗闇の中を進む。
見えているのか。
あるいは、覚えているのか。
と、瞬間――光が発生した。
見ると、ヴィシスが壁に埋まった平たい石にてのひらを密着させている。
その石から、光が線となって上下左右へ駆け巡った。
線はランタン以上の白色を放ち、光度を高めていく。
たちまち、空間はその光によって照らし出された。
「これ、は――」
ニャンタンは目を瞠り、呆然と立ち尽くした。
白い巨人。
巨人は、立ったまま目を閉じている。
また、埋葬される者のように胸の前で手を交差させていた。
ずらりと立ち並ぶ巨人たち。
空間がひどく広いと感じたのは――天井が、異様に高いのは。
この巨人がいるためか。
それにしても……どれだけの数がいるのか。
数は少ないが、中にはまた違う形状をした巨人もいた。
見ると、空間のずっと奥にも大きさの違う白い人型がいるようだ。
ひしめいている。
ぴくりとも動かず――皆、同じ直立姿勢で。
(これも……ヴィシスの言っていた、模造聖体……?)
人ならざる白き神の徒――模造聖体。
ヴィシスによれば、金眼の魔物を材料として生み出されるという。
以前からヴィシスはいくつかの地下遺跡を管理していた。
それは、この聖体を生成する”素材”を得るためだったのだろうか。
「ヴィシス様がこのところ、たまに姿が見えなかったのは……」
「はい、ここへ通っていたのですね~」
城の者が、
”ヴィシス様の姿がお見えにならない”
そう居場所を尋ねてくることが何度かあった。
ヴィシスの言いつけで、彼らの用事はニャンタンが代理で処理していた。
「ここへ私以外の者が立ち入るのはニャンタンが初ですねぇ。第一号、おめでとうございます」
「ここは……一体、なんなのですか?」
「元を辿れば地下遺跡に広がる地下建造物と同じです~。古代文明時代の地下巨大建造物がそのまま残っていたようですねぇ。位置的にはちょうど、王城とヴィシス教団の神殿の中間くらいの場所でしょうか」
ヴィシスが頭上を指差す。
「この上には、勇者たちの訓練用地区の一つがあります。林が広がっているところですね。あ、こちらへどうぞ?」
軽やかに進むヴィシス。
ニャンタンはやや放心に足を取られつつ、その背を追った。
ヴィシスが、一つの大きな扉の前で止まる。
扉に埋め込まれた球体状の水晶。
ヴィシスがそれに触れ、魔素を流し込む。
そうして、扉が開かれ――中に入る。
先ほどと同じやり方で、ヴィシスが空間を明るくした。
そこそこ大きな部屋。
けれどさっきの空間と比べれば常識的な広さと言える。
長方形の部屋。
天井はかなり高い。
中二階部分くらいの高さに、手すりがあった。
手すりは部屋の扉側以外をコの字に囲んでいる。
その手すりの向こうはどうやら足場になっているらしい。
足場はそこそこ広さがあるようだ。
城にも若干、似た構造を持つ広間がある。
光沢を放つ壁は硬そうに見える。
そして部屋の奥に――
管のようなものが入り組んだ何かが、鎮座していた。
古代の巨大魔導具……。
そんな表現くらいしか、ニャンタンには思いつけなかった。
「ああ、あれは私手製の装置です。造るのが本当に大変でした。忍耐の勝利ですね~」
どうやらあれは”装置”というものらしい。
ヴィシスが装置の前に立ち、ニャンタンもその後ろにつく。
管や凹凸のある水晶をヴィシスが弄り始めた。
あれらは何か操作をするものらしい。
「とにかく、ですね」
喋りながら、ヴィシスが懐から小袋を取り出した。
装置の一部に先が漏斗状になった筒の部分がある。
ヴィシスは小袋を逆さにすると、筒の中にその中身を注いだ。
ちらりとだが、中身は黒紫色の小さな球体に見えた。
ヴィシスが指先を装置の横へ向ける――何かを示すように。
その指が示す先には、台座の上に載った菱形の水晶があった。
よく見ると、その水晶は宙に浮かんでいる。
「この装置にせよ、聖体にせよ……あれの”判定”に引っかからないように造るのが実に大変でした。この地下空間はずっと昔からあったものなので、問題なかったのですが……この装置――神器と聖体は、判定に引っかからない方法を探るのが実に大変だったのです。聖体の方は最終的に魂力の性質を変えることでどうにか解決しましたが……まあ、その聖体研究は結果的に副産物も得られたのでよかったですけど♪」
魂力とは、勇者たちの経験値を言い換えたものだったか。
「神器の方は、根源なる邪悪が出現している期間中に製造を進めると影響が少ないというのが判明しまして。んー、つまり私たちの天敵ではあるのですが、あんまり早く倒されるとこの神器の製造が遅れる……ですので、本当にさじ加減が難しかったのですねぇ。隠れてコソコソ、ひっそりコソコソ……」
「……あの、ヴィシス様」
「はいはーい? なんのご質問でしょう? 今でしたら、なんでもお答えしますよ?」
「あなたは……なぜ、わたしをここへ……?」
「それは――単純に、独りで喋っていてもつまらなくてですね? 秘密を明かす時って、独特の高揚感や恍惚感がありませんか? 楽しいですよね? そして事情を把握していそうな相手に話すより、何も知らない相手に話す方が楽しさはやはり格別です! ふふ……ニャンタンの反応、期待通りでしたよ? 結果として、ジョンドゥよりよかったかもですね~」
カチッ、と。
何かの音がして。
装置の中から不思議な音が発生し始めた。
どんよりとした鈍い鐘の音のようにも聞こえなくはない。
「あら~本番で問題なくちゃーんと動きましたね~♪ これは、動力を巡らせているのです……はぁー楽しみ♪ さてさて、まずは対神族特化の強個体を起動させてから~……ゲートを開き、いよいよ天界へ――、…………」
ヴィシスがピタッと止まり――急に、黙り込んだ。
(……?)
ニャンタンは戸惑いを覚える。
背中越しにヴィシスが、
「……………………あらあら、まあまあ」
先ほどまで歓喜に満ちていた、ヴィシスの感情。
急激にそれが冷え込んだように見えた。
振り返ったヴィシスの顔。
そこには、冷めた笑みが張り付いている。
女神の目が見ているのは――――ニャンタンではない。
その向こう。
ニャンタンも、振り返ると――
「やっほー、ヴィシス」
女が、立っていた。
気づかなかった。
まるで。
気配を、感じなかった。
一体、どこから現れたのか――
「…………」
「あれ? ヴィシスってば、まさかの無視……?」
「……ロキエラ。いやいや、お久しぶりですねぇ」
女は、名をロキエラというようだ。
銀髪を編み込み、大きなお下げにして垂らしている。
白い衣装に身を包んでいた。
見た目からは貞淑な印象を受ける。
その一方で語調はやたらと軽く、カラっとしている。
金眼。
(まさ、か……)
「すでに神族がいるところに別の神族が来るってのは、次元均衡の点から通常は望ましくないんだけどねー。でもまあ、今回は仕方ないかなー」
ロキエラと呼ばれた女はそう言って、からりとした笑みを浮かべた。
その後ろには比較的体格のよい三人の――
(あれは、一体……? 金の眼を持つ白い身体に……鎧を、纏ったような……男? あるいは、外殻のようなものを纏った……何かこう、人と魔物の融合体の――ような……それから、あれは……人型の、狼……?)
ヴィシスは空とぼけた調子で、
「うーん……なんだか、変な気配が近づいてくると思っていたんですねー」
「またまたー、とぼけちゃって。予想はついてたんじゃないの?」
「よくわからないですー。というか……今回は仕方ないってどういうことですか? 何をしにきたんですか? 何もかも本気でわからないのですが……」
「あははー相変わらずだねぇ、ヴィシスは」
「ですので……なんのご用なのでしょう? 急に連絡もなしにやって来て、怖いです……しかもヴァナルガディアに、彼の神徒のテュルムク、でしたっけ? それと、あなたの神徒のトールオンまで連れてきて……な、なんなのですかぁ? よってたかって、怖い……」
ロキエラは飄々としているが――
室内の空気は、ヒリついている。
肌が、痛いほどに。
ロキエラはゆるゆると鼻の頭を指先で掻きながら、
「んーっとさ、ヴィシス……どうしてかな? 根源なる邪悪の反応が消えたあとも干渉値には微妙な上昇が見られたけど……まあそれは、許容範囲内だった。ただ、問題はそのあとだ。さすがに看過できない量の干渉値が、急に計測され始めたんだけど?」
鼻の頭から指を離し、ロキエラはそのまま笑顔で問うた。
「こうなってる理由――説明、してくれるかな?」
「嫌ですー」




